《推定睡眠時間:25分》
海援隊の曲の中でおそらくもっともロック色が強い『二流の人』は黒田官兵衛の隠居後の心情を歌ったものだが、ここで歌われる黒田官兵衛というのはずいぶん情けない人で家康に嫌味を言ったり石田三成をディスったり関ヶ原がもっと続いていれば俺だって天下を取れた的なたらればをブツブツと吐き出しながら人よ笑え二流の人と、と自嘲する。もしも天下を取っていればバテレンの国に一人で渡ったものをと言うが俺の絶無に近い日本史知識から言うと行きたかったら勝手に行けばいいのであって、でも行かない。行かずに天下さえ取ってればねぇと独り言つ。あまりにもダメで味わい深い斬新な黒田官兵衛像である。黒田官兵衛が何をやった人か俺は知らないのだが。
でそれとは直に関係しないのだがこの『レジェンド&バタフライ』、名のある戦国武将を立派な人ではなくダメな人として捉え直すという点ではこれはこれで『二流の人』、織田信長が何をやった人かというのも比叡山焼いた人? ぐらいしか知らない俺ではあるがまぁ日本史の教科書とかにも載ってるしパチスロとかにもなってるし知らないが大人物であるというのが多くの日本在住者の共通認識であろう、その信長をここでは木村拓哉が演じて悪ぶっているが実は小心者で考えもなしに前に突っ込むしか能の無いダメ武将だった、と描く。
そんな信長がどうして教科書に載るまでに成り上がったかといえばこれひとえに信長のファーストワイフ濃姫のおかげであった。綾瀬はるか演じる美濃国の濃姫が助言を与えたり奮い立たせたりして現代に伝わる信長の功績や逸話の数々を作り上げたのだということでなるほど現代的な解釈、そしてそれ以上に脚本に人気テレビドラマ脚本家の古沢良太を起用しているためだろう、たいへんテレビドラマ的な解釈であった。
もうねめっちゃ昔観たキムタクの連続ドラマ。キムタクの連ドラでのキムタクっていつも同じ性格じゃないですか。「ちょ、待てよ!」の感じなんですよね。無愛想で不器用で荒っぽくとっつきにくいが少年的な純真さとこうと決めたらが揺るがない一途さあって、そうね日本神話でいったらスサノオなんかちょうどいい、その真っ直ぐな少年メンタルが惰性と慣習と諦観に縛られた大人社会にさざ波を起こして人々を変えていく…みたいなのがキムタクの連ドラの黄金パターンだと思いますが、この映画は戦国時代を舞台にそれをやるわけです。みんな信長の破天荒っぷりに振り回されながらもそこに変革の希望を乗せたりするっていう。
それで信長の糟糠の妻こと濃姫がどんな人かというとあぁこれも見た見た、キムタクの連ドラでよく見たな~! キムタクの連ドラで不良少年(的な)キムタクの恋人を含めバディになる女優さんってみんなこれなんだよ基本まず気が強い、キムタクの乱暴な振る舞いにも動じず暴走キムタクを縛る大人の役割で、キムタクも頑固だがバディの女優さんはもっと頑固。往々にしてキムタクが対峙する大人社会に属するこの人は大人社会を象徴する存在で知的にして物わかり良く組織のルールからは決して逸脱しようとしないから常にルールを破りがちなキムタクとは水と油、でもよくよく知れば実はこの人にも強い信念なり信条なりがあることがわかって二人はお互いの真っ直ぐさに次第に惹かれていく…これですよ! この弁証法! この重力圏! これがキムタク連ドラ!
つーわけでめちゃくちゃキムタク連ドラ劇場版でしたよ。約三時間のキムタク風呂、もう体の芯までキムタク臭が染みこんできます。これはあまりにもキムタク。モノマネ芸人ホリがネタで言い出したことなので少なくとも本人はそうこのフレーズを多用しているわけではないしましてや時代劇のこの映画でそんな台詞が出てくるはずはないのだが絶対にどこかでキムタク信長「ちょ、待てよ!」って言ってたと思う。キムタク過ぎるので言っていなくてもそう聞こえてきてしまうのだ。
脚本が信長と濃姫の共に過ごした特定の一時期に焦点を当てる構成ではなく編年体で結婚から晩年までをダイジェスト的に描く構成というのもキムタク連ドラ感に拍車をかける。たぶんこれテレビドラマ脚本家の手癖なんでしょうな、各シークエンスごとにユーモアを織り交ぜ起承転結をつける。だからどのシークエンスも単体で面白く観られてダレ場というものがない反面、映画全体の有機的な結びつきや盛り上がりは弱く、たとえば最初は反目していた濃姫と信長がお互いに心を許す場面であるとか、野蛮児信長が第六天魔王へと変貌する場面はやや唐突に思えるし、歴史のうねりのようなものは3時間もある大作時代劇なのにあまり感じられない。
でもそんなもの必要かっていったら別にいらないと思う。だってキムタクが信長でバディ濃姫が綾瀬はるかなんて映画でそんなの誰も期待しない。俺も期待しなかった。期待したものはこの映画には全部あったと思う。すなわち、キムタク。どこを切ってもキムタクの顔しか出てこないキムタク金太郎飴以外にキムタク主演作に求めるものなんて他にあるだろうか? 実際には邦画としては破格の制作費を投じているだけあってちゃんと風格と趣のある画面作りができていて、たとえば邦画時代劇でありがちな登場人物全員身なりが綺麗すぎ問題などはこの映画にはないので、キムタク主演作に求める以上のものがここにはある。殺陣で血がドバドバ出るっていうのも立派だよね、戦が主軸の映画じゃないからそこはそんなに重要なことでもないのにさ。
でも、キムタクだ。圧倒的にキムタク。キムタクというコンテンツ。キムタクというブランド。キムタクという風呂。キムタクという世界。とにかくこれはキムタクを全身の毛穴で吸う3時間。幅広いキムタク連ドラ世代の中に俺もしっかり入っているので、超キムタクでおもしろかったと思う。
※キムタクとばかり書くのも他の役者の人に申し訳ない気がしたので補足的に書いておきますが濃姫の綾瀬はるかは女版座頭市を演じた『ICHI』なんかの経験があるからこんな役はお手の物、キムタクに引けを取らない存在感を発揮しておりました(しかしその存在感がスタァキムタクを更に引き立てるというのがキムタク連ドラ勝利の方程式なのだ)。ほかの人だと徳川家康の斎藤工は驚いた。メイクで贅肉オッサン化しているというのもあるのだろうがこれはまったく気付かない、その役に合わせたカメレオンっぷりは少しだけロバート・デ・ニーロを彷彿とさせないでもなく、いつの間にか面白い役者さんになっていたんだなぁと感心してしまうのであった。
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綾瀬はるかと織田信長といえば『本能寺ホテル』。八嶋智人の思わせぶりなブルース・リーものまねに全然意味が無いすごい映画であった。
♪ちょっと待ってよ ねえぇ~ なんて言ったの いまぁ~
妻のシズカでゴザイマス。というのは勿論大嘘で通りすがりの読者でゴザイマス。
ワタクシ、キムタク温泉に行ってきたばかりで、心身共にポッカポカ( ^)o(^ )
多分、キムタクは中島みゆきと同じくらいに、(いや、それ以上かも?)
病みかけた女子自殺防止装置として機能しているかと存じます。
キムタク温泉の湯治効果はもう凄いです。
余談ですが、キムタクの出世作「ロンバケ」の相手役山口智子演じる、
ミナミは婚約者に逃げられるプーというダメダメおばちゃんでしたよん(^^ゞ。
キムタク温泉にそこまでの効果が!
なんか、すごいっすね…。
昔のキムタクドラマは最近ほど型にはまってなくて、キムタクも世にも奇妙な物語とか古畑任三郎とかでちょっと病んだ人の役とかわりとやってましたよね。
お久しぶりです!
久し振りのコメントがこの映画ってのが、僕も結局のところ俗っぽい人間なのだなぁって再認識してしまうのですが。
縁起でも無い話ですが、木村拓哉の遺作、
これで良くねぇ?って程の集大成的映画だって思ってます。僕もキムタク連ドラ世代というか、何を演じても木村拓哉、好きか嫌いかは置いといて、最早いちタレントという枠を越えて文化アイコンと化した時代に多感な時期を過ごした世代なのですが。
(ギフトとか眠れる森とか大好きです)
苦虫を噛み潰した顔しながら、
「勝手なこと申すなァ…!」とか笑
感情を抑制しながら爆発させるかの様な、
「明智…?明智かァ…!」とか笑
もうどっから見てもあの時代のキムタク笑
というかSMAPも駆け出しだった頃、若き日のキムタクが若き織田信長を演じていた2時間ドラマも確かにあったはずで。
そういう意味でも「俳優」木村拓哉の全てを出し切った映画だと言っても過言では無いでしょうね…(過言だろうか…笑)
大作といっても抜けてるところも多々あったりで、決して嫌いになれないですねこれ。(キムタク世代なりの忖度含む)
これは嫌いにはなれないですよね。出来がいいとか悪いとかじゃなくてキムタクがキムタクを出し切ってるから笑
やっぱ見てて落ち着くんですよ、ああ知ってる世界だ…みたいな感じで。この人はなんだかんだスターなんだなぁと思いましたね。