オカルトはこう楽しめ映画『突撃! 隣のUFO』感想文

《推定睡眠時間:0分》

中田秀夫による去年のホラー映画『それがいる森』は宇宙人の出てくる映画であることを隠してプロモーションを行っていたがこんなもん一目瞭然どう見ても宇宙人が襲ってくる映画ではないかと予告編の段階で見破っていた俺はその宇宙人がフラットウッズ・モンスターであることを期待していた。フラットウッズ・モンスターは怖い。初めて本でその姿を目にした日から今日までずっと怖い。なんなんだあの得も言われぬ威圧感は。フォルムもおそろしいし身長も2メートルとか微妙なサイズででかいらしいというのがまたおそろしい。見ようによってはちょっとコミカルで可愛らしく見えなくもないにも関わらず、森であいつに遭遇したら俺は恐怖のあまり絶命するかもしれない。

残念ながらその期待は外れ面白くはあったものの『それがいる森』にフラットウッズ・モンスターは出てこなかったのだが、その代わりには全然ならないかもしれないがフラットウッズ・モンスターがしっかりポスターにも米粒サイズではなく脇役サイズで入り込んでいたのがこの『突撃!隣のUFO』であった。監督は河崎実。主演はヨネスケ。ポスターとその名前を見ただけで半分以上見た気になってしまうが宇宙人を出すならばとフラットウッズ・モンスターを持ってくる映画が間違っているわけがないので、俺としては2023年上半期最注目の映画であった。

いやぁ、客入ってたね。面白いとか面白くないとか以前にまずはそのことを伝えたい。仕事帰りの金曜夜、なにか映画を観るにしても『レジェンド&バタフライ』とか『THE FIRST SLUM DANK』とか『イニシェリン島の精霊』とかいろいろ選択肢は都内なんだしあると思うのだが、並み居る強豪映画を退けてヨネスケとフラットウッズ・モンスターを観に来てくれたかどうかはわからないお客さんがこんなに! もう俺映画観るまでもなくその光景で満足しちゃったからね。こんなにってそうねだいたい50人…もっと少ないか、おそらく40人ぐらいだが、河崎実の前作『たぬき社長』なんて俺含めて休日昼の回に5人ぐらいしかお客がいなかったわけだから大ヒットでしょこんなもん、河崎実的には。

客が入ったからといって面白い映画とは当然限らないわけだがお、おもしろかった…なんつーんでしょうねこのジャンルは、余興映画というか前座映画というかね、河崎実のいつもの特撮バラエティ的なやつではあるのだが、余興にしてもやはり自分の興味のあるネタと興味のないネタだったらそりゃやっぱ興味のあるネタの方が力が入る。いつも自分の好きなネタしかやってないだろと言われればそれも確かにそうかもしれないが例えばタヌキとUFO宇宙人だったらUFO宇宙人の方が絶対好きだろ絶対、河崎実は。っていうわけで余興映画にしても今回は力入ってたなー。

ヨネスケがさ、なんかね、UFO事件調査隊みたいなのやってるわけよ。でUFO見つけたらでけぇしゃもじ持ってUFOの中入ってくんですよ、こんばんはー! つってね。そしたら中で宇宙人が捕獲した牛とか食っててうわーおいしそうですねー! みたいなさ、面白いけど出オチ感すごいでしょ。それもいつものことだけれども。

だけど今回出オチのネタを最後まで引っ張ってなかったね。オムニバス的にヨネスケと相棒の濱田龍臣がいろんなUFOとか宇宙人に会いに行くんですけどその合間に河崎実による日本のUFO界隈人のインタビューが入るの。自分が出るんかいっていうのでまず笑っちゃうけどインタビューの内容もイイ感じに肩の力が抜けてて面白いんだよな。ムー編集長の三上丈晴のインタビューで三上丈晴が最近のUFO動向について比較的真面目なトーンで一通り語った後に河崎実「最近のムーってネタ切れじゃないですか?」って振って三上丈晴が最近はネタがないし創刊時から既に同じ記事何度も書いてたよって笑いながら応じたりさ。こっちも笑っちゃうでしょ。

いしだ壱成のインタビューで河崎実もUFOを見たことがあるってことがわかるんですけど、この人のUFO宇宙人スタンスってそういうのが本当にいるかどうか知らんけどいた方が面白いからいるってことでいいじゃんみたいな、すごい薄っぺらいんですよね。C調なのよ映画同様。だけどそのUFO宇宙人との距離の取り方がすごくいい。俺もそう思ってるしそれが一番UFO宇宙人ネタを楽しめるんじゃないですか? だってそんなもんいるわけないって頭から否定しちゃったらそもそも楽しめないし、反対にUFO宇宙人は絶対にいるんだって信仰みたいになっちゃってもUFO宇宙人ネタは楽しめないよね。

半分茶化して半分信じるみたいなオカルトの捉え方って最近あんまなくなっちゃった。信じる人はとことん信じ抜くし信じない人は何がなんでも信じない。無粋な世の中だね~。そんな世の中でこういう形のC調UFO宇宙人エンタメってちょっと貴重ですよ。いろんな宇宙人がこの映画には出てきてそいつら基本的に地球人を誘拐したりなんかする怖いヤツなんです。でも怖いヤツだから見た目もシリアスに怖いヤツじゃなくてハリウッドザコシショウとか着ぐるみリトルグレイとか河崎実監督作『いかレスラー』流用疑惑のあるイカ怪人とかでむしろユーモラスで愛嬌あるんだよ。フラットウッズ・モンスターもフィギュア的にデフォルメされてその顔はたいへんバカバカしいことになってる。宇宙人を人間の理解できるものとはしてないし人間の味方だともしてないけど、でも楽しいもの面白いもの笑っちゃうものとして描写する。宇宙人っていうか妖怪だよね。そういう感覚でオカルトネタを扱える人って現代日本に本当少なくなったと思いますよ。

77分と短い尺の中に三種類も四種類も宇宙人が出てきて間には三上丈晴、いしだ壱成、そして矢追純一のたのしいインタビューが入る。チープなへっぽこギャグと特撮オタクジョークとヨネスケのおそらく加齢からくる危うい台詞回しの化学反応が脱力的にして妙な緊張感ただようなかなか絶妙な空気を作り出して、そこに投入される普通人代表・濱田龍臣のツッコミは的確だ。特撮ファンは嬉しい特別出演・森次晃嗣。ラストはそれ伏線だったんかいの下らない意外性あり。予算がないのは明々白々だがなかなかどうしてお値段以上の面白テンコ盛りっぷりで、河崎実映画のこれはクリティカルヒット。とはいってもDVDとか配信を待って観るような映画でもない気がするのでみなさん映画館でやってるうちに是非どうぞ。今回は映画館によっては三日上映とかかなり上映期間短いらしいぞ! いや三日って。

【ママー!これ買ってー!】


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そんなの出てるんだ。

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