俺が選ぶ21世紀最高の映画100本!

もうすっかり前のことに思えるが英国映画協会(BFI)が十年に一度発表してる映画史上最高の100本リストの最新版を去年発表してこれがなかなか話題を呼んだ。というのも前のリストに比べて今回のリストはなんというか…えっそれ入るの!? ていう映画がかなり多かった。この史上最高の100本というのは1000人ぐらいの映画に関わっていたり映画に一家言ある人の投票で決定されるもの、偉い人が何人かで話し合って決めてるわけじゃないのでこのような意外性のあるリストになったわけですな。

さてそれで思ったのだがこの100本、今までのリストにはなかったような作品が突如としてトップに浮上したりするということは当然これまでのリストの常連だった作品なんかは抜け落ちたりしてて、なんだかこれはもったいない。ていうか、こんなことを言ったら身も蓋もないのだが映画の歴史は100年以上あるわけだからその中からいちばんいいやつ100本選ぶとか無理くない?

というわけで考えた。例の100本は面倒臭い映画オタクを中心にこれいいのかいやだめでしょういやいや私は支持しますと議論を巻き起こしたわけだが、100本という狭いキャパに映画100年超の歴史を無理矢理押し込むからそういうことになるわけで、20世紀最高の映画100本、そして21世紀最高の映画100本と時代を分けてキャパを増やせばみんな納得するんじゃないだろうかっ。だいたい20世紀の映画にはこれは映画の歴史を振り返る上で絶対に外せないという映画も多く、それに対して新しい時代の映画なんていうのはいかに優れた作品だとしてもどうしても不利になるし、そうなると消去法的に選びがちということになる。これはたのしくない。どうせ映画100本選ぶならたのしく選びたいものだし、それは20世紀の100本と21世紀の100本を別にチョイスすることである程度果たされるだろう。

ともかく俺としてはそう思うわけだが残念ながらこの超ナイスアイディアをBFIの偉い人に教えてあげるパイプなどは当然ない。ならば俺が自分でやるしかないだろうというわけで出来上がったのが以下のリスト。ぶっちゃけ大変だった。けっこう大変だった。大変だったので順位など付けてる余裕なかった。一応1位だけは決まったが後はまぁみなさんで勝手に順位想像してくださいっていうかまぁそもそも順位とか付けるもんでもないからね映画。順不同で入り乱れる21世紀の傑作群のカオスをおたのしみください。

あと100本も無報酬で解説書くのは無理なので個々の作品に解説は入れず補足が必要な作品についてだけリストの後ろでちょろっと触れることにする。なんでこれが!? と思った人はそれを読んでみたらいいです。読みつつ自分でも21世紀ベスト100本作ってみたらいいんじゃない。たいへんだったけど楽しかったからみなさんもぜひやってみて知恵熱で寝込もう!


『ヒルズ・ハブ・アイズ』
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
『ハート・ロッカー』
『プリデスティネーション』
『ホットギミック ガール・ミーツ・ボーイ』
『レンブラントの夜警』
『エルミタージュ幻想』
『脳内ニューヨーク』
『水俣曼荼羅』
『死霊魂』
『燃ゆる女の肖像』
『マッハ!!!!!!』
『Dr.パルナサスの鏡』
『アトランティス』(2019)
『国葬』
『キングダム 見えざる敵』
『17歳の瞳に映る世界』
『人が人を愛することのどうしようもなさ』
『ミークス・カットオフ』
『郊遊 ピクニック』
『シティ・オブ・ゴッド』
『春夏秋冬そして春』
『トゥモロー・ワールド』
『ムーンライト』
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』
『野火』(2014)
『都市投影劇画 ホライズンブルー』
『インファナル・アフェア』
『ザ・ウーマン』
『光りの墓』
『エレファント』
『26世紀青年』
『ホフマニアダ ホフマンの物語』
『今宵、フィッツジェラルド劇場で』
『トーク・トゥ・ハー』
『インフル病みのペトロフ家』
『それから』(2017)
『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』
『イノセンス』(2004)
『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』
『海辺の映画館―キネマの玉手箱』
『ニーチェの馬』
『エターナルズ』
『サスペリア』(2018)
『エクスペンダブルズ』
『ダークナイト』
『殺人の追憶』
『極道恐怖大劇場 牛頭』
『ジャスト6.5 闘いの証』
『州議会』
『ロード・オブ・ザ・リング』
『アクト・オブ・キリング』
『こちらあみ子』
『白いトリュフの宿る森』
『おばあちゃんの家』
『アイダよ何処へ』
『神々のたそがれ』
『鵞鳥湖の夜』
『ハニーランド 永遠の谷』
『長江 愛の詩』
『ラブレス』
『導火線 FLASH POINT』
『ディーパンの闘い』
『スリ』(2008)
『カルテル・ランド』
『インランド・エンパイア』
『きっと全て大丈夫』
『マッドゴッド』
『ハックル』
『宝島』(2018)
『風をつかまえた少年』
『ミリオンダラー・ベイビー』
『さよなら、人類』
『息子のまなざし』
『街のあかり』
『つぐない』
『バーバー』
『ゴーストワールド』
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』
『ローマ法王になる日まで』
『グッド・タイム』
『悲しみに、こんにちは』
『ジャッリカットゥ 牛の怒り』
『500年の航海』
『ザ・ルーム』
『ほんとうのピノッキオ』
『ナポレオン・ダイナマイト』
『サウルの息子』
『D.I.』
『パラダイス・ナウ』
『2012』
『パンズ・ラビリンス』
『大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院』
『ラサへの歩き方 祈りの2400km』
『アンブレイカブル』
『オールド・ボーイ』
『ドニー・ダーコ』
『走れロム』
『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』
1位『クレイジー・ワールド』(2019)


実は観てないけどリストに入れちゃった映画があって『D.I.』と『パラダイス・ナウ』と『ニーチェの馬』がそれ。『D.I.』はイスラエル在住のパレスチナ人監督エリア・スレイマンの長編デビュー作で、この監督の映画は『天国にちがいない』がかなり良かったので、まぁ作風が一貫してるとすれば前作『D.I.』の方が歴史的価値は高いんじゃないかということで。『パラダイス・ナウ』はパレスチナ映画で何か傑作あったかなと考えていたら思い出したもので、自爆テロ要員に選ばれた若者2人組の日々を描くっていうあらすじだけで歴史に残す価値充分じゃないだろうか。作品の評価も高い。『ニーチェの馬』はタル・ベーラの遺作になりそうな映画だがタル・ベーラはやはり初期に大傑作が集中しており、『サタンタンゴ』も『ダムネーション』も『ヴェルクマイスター・ハーモニー』も20世紀の映画なのでこのリストには入れられない。21世紀のタル・ベーラ作品で一本入れるなら、と考えたらやっぱ『ニーチェの馬』でしょ。

『500年の航海』はフィリピンの前衛映画監督キドラット・タヒミックの自由闊達な文明批評。批評とユーモアとホームビデオと過去と現在が飄々と混ざり合う作風は唯一無二(かもしれない)。アジアの前衛映画監督ならアピチャッポン・ウィーラセタクンもやはり21世紀のベスト100本には一本ぐらい入れるべきではないかと思って『光りの墓』が素晴らしかったからとりあえず入れたが、21世紀のウィーラセタクン映画では一番有名と思われる『ブンミおじさんの森』は未見。観たら俺の頭の中で入れ替えることになるかもしれない。

『春夏秋冬そして春』は女優たちを計画的に強姦したかどで告発された韓国の異才キム・ギドクの詩情豊かな仏教映画。裁判をする前にラトビアに国外逃亡してそのまま新コロで死んじゃったので真相は藪の中だが、まぁ国外逃亡しちゃった事実から考えて告発者の言うことは概ね真実と考えるのが妥当。俺のスタンスとして映画と監督(の犯罪など)は分けて考えるべきで、ある映画人にスキャンダルが持ち上がっても映画自体は封印などせず、その映画人にはそういうスキャンダルがあったとオープンに語りながら観られるべきだと思ってる。封印して映画とその作り手の存在をなかったことにしてしまうとスキャンダルも忘れられることになるし、この場合であれば被害も忘れられることになる。それはちょっと幼稚っていうか、歴史修整主義的発想に繋がりかねず、危ういんじゃないだろうか。

ローランド・エメリッヒの『2012』が入ってるのはこんなにお金と手間をかけたアメリカ風刺喜劇は前代未聞じゃないかと思うから。ダイナミックな破壊ギャグのつるべ打ちにすさまじく爆笑。コメディといえばゴミ映画界の『市民ケーン』の異名を持つトミー・ウィゾー監督作『ザ・ルーム』、いやこれは異名に恥じないすごい映画だった。どうかしている人を気取っている映画監督はたくさんいるが本当にどうかしている映画監督は数少ない。その一人がトミー・ウィゾーで、時代錯誤なセンスと恥ずかしげもないナルシシズムと技術的な稚拙さが生む企まぬユーモアとグルーヴは人を笑いのどん底に突き落とす。こういうのは狙って作れるものじゃない。

で、栄えある俺選21世紀最高の映画100本のベストワン『クレイジー・ワールド』、これはですねウガンダの映画でワカリウッドっていう超低予算アクション映画(コマンドアクションと本人らは言ってる)スタジオの作。これがとにかく衝撃的。金がないからなんなんだ、技術がないからなんなんだ、カメラと人さえあれば映画は撮れる! という熱意と映画作りの楽しさに溢れた映画ならこれ以外にもたくさんある。でもこの映画はその表現が突き抜けてた。5秒に一度ツッコミどころという壮絶なギャグの雨嵐、でありながらウガンダ社会の暗部と教訓をまったく説教臭くなく織り込んだ啓発性、と思いきや突如として物語がフレームアウトし海賊盤撲滅コマンドが世界中の海賊盤&海賊配信ユーザーをダンボールで作ったロボコップで殺して回るという想定外にも程がある超展開!

それだけではない。破壊的なカメラワークと編集にはくらくらさせられるしストリート仕込みのカンフーアクションは洗練こそされていないがその動きは本物。更にこの映画、というかワカリウッド映画たぶんすべてそうなのだが、謎の活動弁士VJエミーが画面を見ながら全編に渡りやかましく解説&リアクションする音声がこれは特典ではなく本編の一部として付いてくる。詳しいことはわからないのだが察するにどうやらこのVJエミーの音声解説、もともとはスラムの子供なんかに映画を理解して楽しんでもらうために考案された技法のようで、そうした現実的な問題が先進国の映画には見られないような斬新な映画表現を生んでいるというのがまったく素晴らしい。

俳優にしてもプロ俳優らしき人物はほとんど見当たらないからとくに子供なんかはそこらへんのスラムの子供を使っているんだろう。スラムの子供が悪の道に落ちないよう映画という夢を見せつつ、そのスラムの子供たち(大人たちもそうかもしれない)と一緒に映画を作り上げる。VJエミーの音声解説っていうか実況もアフリカの口承文化の最新形態と考えられないこともないわけで、心底バカバカしい映画なのだが、単にバカバカしいだけではなくここには先進国の一般的な映画作りというものを根本的にひっくり返す強烈なエネルギーと実践がある。これはもう映画の未来と言っても過言ではないのではないかというわけで21世紀最高の映画ベストワンは文句なしでこれに決定!

※ワカリウッド映画に興味を持った方は公式サイトもたのしいのでぜひご覧下さい。更に興味を持ったらDVDとかグッズをストアで買ってあげてくれな。https://www.wakaliwood.com/

※※入れよう入れようと思っていながらもいざ書く段になると『聖なる鹿殺し』の存在をど忘れしてしまった。101本になってしまうがまぁいいかどうせ俺が勝手にやってることだしというわけで上のリストに『聖なる鹿殺し』追加しといてください。

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匿名さん
匿名さん
2023年2月17日 3:27 AM

2012が入っていて嬉しいです。

カモン
カモン
2023年2月27日 9:39 AM

色々と好きな映画入ってて嬉しいんですが26世紀青年が入ってるのがまたいいですねー。バカ映画なんですがバカになる理由がちゃんとあって(原題からしてそう)しかも世界ってほんとにこれに近い感じになっちゃいそうな兆候すらあるのでなかなか立派な(バカ)映画だと思ってます

堕つつ
堕つつ
2023年3月5日 12:43 AM

ホットギミックが入っているとは!笑
キラキラ映画枠代表選手なのでしょうか。
少女漫画原作の極北というか、異界に連れて行かれる様な空気感が僕も大好きです。
異界というか、異界そのものとしか言えない牛頭が入っているのもさすがです。
人が人を愛することのどうしようもなさ、
ポルノという言い方が正しいかわからないですが、これ以上に壮絶かつ真摯なポルノ映画は今後も出てこないでしょうねー。
(個人的には甘い鞭も負けてないですが)