アッラー助けて映画『呪餐 悪魔の奴隷』感想文

《推定睡眠時間:10分》

この映画原題は『PENGABDI SETAN 2: COMMUNION』というわけで続編ものなのだが(前作『悪魔の奴隷』も配信などあり)邦題の『呪餐』とは耳慣れない言葉、これは一体何なのか。『呪餐』は死者がゾンビっぽくなって襲ってきたりするインドネシア映画である。そして今冬の『緊急宣言』に次ぐ韓国映画話題作と言える『呪呪呪』は人に教えてもらったところによるとインドネシア呪術によって使役されたゾンビが襲ってくる映画である。じゅ・じゅ・じゅ…じゅが三つで…じゅさん? もしやこれは一種の便乗邦題なのか? だからなんだというのか!?

そんなことはどうでもいいですねはい『呪餐』ですが前作を観ていないのでどういう流れでそうなったのかはよくわかりませんが主人公一家は末っ子がゾンビ化して失踪? した後に見渡す限り周囲になんもない荒野に屹立する監獄みたいなっていうか内装的には『ザ・レイド』ぽいコンクリート打ちっぱなしで部屋には玄関もなく1K+寝室とかいう間取りの住環境としてはかなり悪そうな高層団地に引っ越して来ます。だがここの住民たちはどうもおかしい。住民たちもおかしいし団地自体もなぜか上階への階段のない階などがありおかしい。更には主人公一家の父親は何の仕事をしているかわからないし訳あり感が漂いすぎておかしい。街も連続殺人鬼が跋扈してその被害者総数2000人とかいうのがどう考えても多すぎておかしいしとにかくおかしいことばかり。そんな中、大スケールの台風到来。強風と雨で住民が外に出られない中、団地は次第に死者の徘徊する冥府へと変貌していく…。

自分で書いたあらすじに対してそう言うのもどうかと思うがなにこれこの映画めっちゃ面白そうじゃないか。そうっていうか実際面白かった。まぁ前作は観てないし1955年と1984年の二つの時代を跨ぐ物語はなにかしら政治的であったり社会的な背景であったりがありそうなのだが、そんなのわからずともひたすらネガティブなムードだけで充分楽しめる。最初のシーンは土葬されたはずの数十体もの布巻き死体が怪しい女の肖像画に礼拝するかのように体を屈曲させて並べられているというものだが、この絵面の得体の知れない気味悪さときたら、なのである。こういうアグレッシブなネガティブ映像が全編に渡って繰り広げられるわけだ。

要領を得ない展開やまどろっこしい恐怖演出もネガティブムードを邪魔することはない。むしろ強化しさえする。なにがなんだかよくわからないがとんでもないことになりそうな気がする…という不安はシナリオがきちんと交通整理されて演出の洗練された欧米ホラーではなかなか味わうことのできないものだろう。人智を超えた力によって為す術もなく世界が変容していくことの恐ろしさ。ストーリー的には『ローズマリーの赤ちゃん』や『センチネル』などのアメリカ製邪教アパート映画の影響を感じさせるが終盤の冥府団地と外の黙示録景の醸し出す救いの無さはかつてのイタリアン・ホラーを彷彿とさせて、最近の先進国のホラーときたらこういうストレートな絶望をほとんど描いてくれないものだからなんだか嬉しくなってしまいましたなぁ。

ちなみにこれは三部作の二作目に当たるそうで、投げっぱなしのラストは次の完結編に向けてのものらしいが、あえて単体作品として観てその不条理な終末感に浸ってみるというのもそれはそれで結構ありなんじゃないかと思ったりした。実際に世界が終わるとしたらきっとこの登場人物たちみたいになにもわからないままそれを経験することになるんだろうから。

【ママー!これ買ってー!】


『悪魔の奴隷』[DVD]
『悪魔の奴隷』[Amazonビデオ]

オリジナルの『夜霧のジョギジョギモンスター』はゾンビ映画として日本に入ってきたのでリメイクのこれもゾンビ映画なんだろうか。

Subscribe
Notify of
guest

0 Comments
Inline Feedbacks
View all comments