ヴァーホーヴェン枯れてない?映画『ベネデッタ』感想文

《推定睡眠時間:70分》

開始5分と経たずに最初の睡眠に入ってるので良いとか悪いとか判断できる状態では到底ないのだが、それでも確実に言えるんじゃないと思われるのはヴァーホーヴェン、やっぱ演出力落ちたよなっていうことで、昔といってもどのへんの時代を差すかでわりと全然違うのだが、中世ものということで1985年の『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』なんかと比べたりすると、画面に漲る熱気がこれとは段違いだよなっていう感じがやはりするのです。

じゃあなんでそう感じるかっていうとさ、これヴァーホーヴェンの前作『ELLE』を観たときに思ったことなんですけど、劇中で主人公エルの会社が開発してる架空の最新ゲームが全然最新ゲームに見えないし少しも面白そうに見えなかった。こういうところなんですよね。細部にやっつけ感があってなんかテーマ主義っぽくなっちゃった。ヴァーホーヴェンの映画って変なディテールが間違いなく一つの魅力だったりしたじゃないですか。『トータル・リコール』なんてディテールの強烈さだけでテンションを維持してる映画って言っても過言じゃない。でも最近のヴァーホーヴェン映画ってこの『ベネデッタ』も含めてそれがない。だから画面がなんだかすごく弱く感じられる。

確かに残酷描写とか性描写はそこそこ激しいものがあった。でもそこにこだわりは感じられない。残酷描写ってこんなもんでしょ、性描写ってこんなもんでしょみたいな感じで、カメラワークや編集も含めてそこにはほとんど関心がないように見える。テーマの表現に必要だからとりあえずやってますとでも言わんばかり。そらまぁ長いこと映画監督をやっていれば関心の向くポイントも変わってくるだろうとは思いますが、思いますが、変わって別の方向の面白さが増すならともかくヴァーホーヴェンの場合はあんまりそれが面白さに繋がってないように思えてならない。

面白さを犠牲にしてまで(という意識は本人にないだろうが)ヴァーホーヴェンが追求するテーマとは何かといえば『ベネデッタ』では女性の自立と宗教の力とかだろうか。宗教の力、というのはヴァーホーヴェンはアンチ・キリスト教の映画監督みたいに見られがちな気がしますけど、この人が否定するのって権威主義的かつ教条主義的で堕落した教会宗教で、個人の信仰とか宗教的確信は否定しない。むしろそれこそが人間の偉大な力なんだぐらいに考えてるフシがある。『ベネデッタ』の主人公ベネデッタはある日見たキリストのヴィジョンによってこの宗教的確信を得、ただひとり教会宗教に立ち向かうことになるってわけで、ここでは女性の自立と宗教的確信が結びついてるわけです。たぶんね。

それがどうにもキレ味を欠くように感じられるのはおそらくヴァーホーヴェンが破壊するまでもなく現代では世界の広い範囲で既存の教会宗教が廃れてきているからじゃないだろうか。その反面で個人の宗教的確信の重視というプロテスタント的な価値観はたとえばオルトライトやQアノンやISISのような形で変形して生き延びているように思える。そんな世界で教会宗教はクソ! 個人の宗教体験は立派! とやられても。前衛であるどころか、ちょっと社会の変化についていけてないんじゃないのという気がする。

もっともこれは70分寝てた人の感想なので2時間20分ぜんぶちゃんと観ていればこんな雑な感想にはならないんじゃないかと思う。まぁだから俺から言えることとしてはあれだな、あのディルドーね、せめてあれだけはやっぱりもっと凝って変な形とか使用法にしてほしかったと思います。そういうところ! そういうところなんだよ…!

【ママー!これ買ってー!】


『尼僧ヨアンナ』[DVD]

ヤバイ尼僧映画ということでこれが頭に浮かびましたが観てないので委細不明。今度観る。

Subscribe
Notify of
guest

0 Comments
Inline Feedbacks
View all comments