俺かよ映画『アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者』感想文

《推定睡眠時間:0分》

今この映画のサブタイトルなんだっけと思って検索したらアンドレ・レオン・タリー去年死んだって出てきてこっちはそんなことなどつゆ知らずちょうど観れる時間にやってたというだけで観に行ったからちょっと驚いてしまった。あそうなんだ、死んじゃったんだ。まぁあんまり健康そうには見えなかったもんな映画の中でも。2017年の作らしいがタリー終盤になると食餌療法施設みたいのに入るんだよ。なんでそうなったかっていうのは描かれないがまぁ医師にこのままだとやばいぞって言われたんじゃないか。100キロなんか余裕で超えてるでしょうあのマツコ・デラックスみたいな体型、そのうえこの人身長190ぐらいあってでけぇから。

体型はマツコ・デラックスなこの人アンドレ・レオン・タリーは性格と仕事がピーコみたいな元ヴォーグ編集者のファッション・ジャーナリスト。歯に衣着せないファッションチェックが人気だったらしくそういえば前に見たメットガラのドキュメンタリーでもメットガラに来たセレブを辛口批評してた。好きなファッションスタイルはケープ。でかい身体にこれがよく合って、王族のような魔術師のような高貴かつ異様な雰囲気を醸し出す。口癖は「ファビュラス」なのでこれあれかなわかんないけど叶姉妹がファビュラスファビュラス言うのも元を辿ればこの人由来なのかもしんないすね。

でその人の経歴と現況を100分ぐらいで素描するこれは俺言うところのナビゲーション映画。人物紹介が目的なのであまり深いところへはカメラも入らずへぇこんな経歴の人だったんだねぐらいしか観ながら思うことはない。ファッションに詳しい人ならもっと面白く観れるでしょうけどね。なにせその経歴ときたら華々しい…ようなのだがファッション知らないからどれぐらい華々しいのか親交のあったデザイナーとか所属してたファッション誌の名前とか聞いても今一つピンとこない。ヴォーグはさすがに知っているが俺にとってのヴォーグとはあまりにも低劣かつ的を外してそれでいて自信だけはなぜかたっぷりのオッサン説教スタイルでラディカル・リベラリズム&フェミニズム&アクティヴィズムの立場から映画を評するそれ炎上商法なの? みたいな映画記事を臆面もなく出すヴォーグ日本版なのでヴォーグと聞いたところですごいんだなと思う気持ちはゼロである。まぁでもタリーも頭の良い人だからヴォーグ本誌はちゃんと脳みそのシワの多い人が記事を書いているんだろう。バカなのはあくまでも日本版で(と思いたい)

それにしてもタリー、経歴の立派さを除けばなんだか他人のように思えないね。この人は本人の語るところによれば恋愛経験一切なし。なにも恋愛がしたくないわけではなく仕事ばっか追いかけてたらいつのまにかこんな歳になっちまったよだそうなのだが、俺にはわかる、これは嘘ではなくタリーきっと本当に恋愛経験がない。だって屈託がないんだもの。人と接する時の態度がすげぇ子供っぽいのよ。わかるかなこれ、そうやってナチュラルに他人と距離を作るんだよな。そうしようそうしようと思ってるわけじゃなくて自然と道化を演じてしまう。だから周りからは無邪気で変な楽しい人って一応見えるんだけどそういう外面とは別に絶対に他人には見せない内面っていうのがあって、ここは常に笑ってないし楽しんでない。

恋愛やってる人ってそこを他人に見せることができるんですよ。見せることができるっていうか、むしろ見せたがる。本当の私を見てちょーだいみたいな感じで。俺はさ、もうタリーじゃなくて俺の話になっちゃってるけどそれ絶対無理だと思うんですよ。わかってない人っていうのは俺みたいな童貞賢者はいつも孤独を感じててその孤独を癒やすために隙あらば自分の精神の内核を他人とシェアしたいと思ってるって思ってる。そうじゃないんだよな。この精神の内核は自分という絶対的な領域を形作るものだってわかってて、内核をシェアする恋愛はある程度自分を捨てることだってわかってる。それができないんですよ、俺とかタリーみたいな人は。捨てるには自分を愛しすぎていて、高く評価し過ぎている。自分のスタイル、自分の思想、自分の魅力が捨てられない。まぁタリーはどうだったか知らないけれども。

映画の中でタリー、一人で自分ちの庭を眺めながらヴォルテールは自分の庭を耕せと言ったから私もそうしてるみたいなこと言うんだけどさ、俺も最近インターネットに下らない話題が多すぎるからそんなカスにかまけてないで本を読んで音楽を聴いて勉強をして自分の内宇宙を豊かにしないとなって思ったんですよ。だからその発言聞いて我が意を得タリーだったね俺は。これは2017年の映画だから当時トランプ政権下、映画はその選挙結果に心底幻滅するタリーの横顔を捉えるが、わかる、わかるよそれ。トランプなんかが問題じゃないんだ。大衆のバカさに失望したんだよ。タリーは俺と同じように間違いなく自分を賢人だと思ってただろうからね。現実の政治がどうかなんて関係ない。そうじゃなくて、様々な出来事を通して表出する大衆のバカさ、センスのなさがタリーには耐えられない。もし耐えられる図太く同時に鈍重な精神を持っていたならタリーは結婚して子供を三人でも四人でももうけていただろう。

死んだ人相手に言いたい放題だが、まぁ俺にとってはそんな感じの映画、そんな感じの人ですね、アンドレ・レオン・タリーというのは。映画としては普通だが、面白いとか面白くないとかの話とは別に、精神の同類として感じるものはあったよ。あくまでもこっちが勝手に同類判定を下してるだけなのだが。

【ママー!これ買ってー!】


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上で言ってるメットガラの映画というのはたぶんこれ。

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