《推定睡眠時間:0分》
一番面白かったところから言うと映画が終わってトイレで小用を足して振り返ったらホイットニー・ヒューストンの顔面が大きくプリントされたTシャツを着た人が俺の後ろに並んでて、別にホイットニー・ヒューストンのTシャツを着ることにはなんにも問題がないのだが、用を足して振り返るといきなりホイットニー・ヒューストンがドバァと目に入ったのでちょっと驚いてしまって、それがなんかわからないですけど可笑しかったです。
そうだね。うん。若い人たちが頑張ってる映画だったね。監督も出演者も若い若い、みんな元気だピチピチしてる。がんばれ。君たちはがんばれ。将来は明るい。伸びしろは抜群にある。だから慢心せずがんばって欲しい。俺はこれから何十年も映画を観てブツブツ文句を言うだけの人生を送ることになると思われるのでもうがんばりませんが君たちはがんばってほしい。大丈夫だから。心配するな。俺が保証する。縁もゆかりもないがなに、袖触れ合うも多生の縁と言うじゃないか。いや誰だよと君たちは思うだろうし、金がないことが知人友人に知れ渡りすぎて誰からも保証人などの依頼が一切来ないお前の保証なんかいらねぇよとも思うだろうが…ちなみに結婚式に招待されたことも一回もない。
書くか。じゃ書くよ。面白くなかった。俺はそもそも前作も全然好きじゃないけれども、これと比べたら前作はまだよく出来ていたと思う。ダメなところは多々あるが…最上級にダメだったのはたぶん、慢心じゃないかなと思います。これも難しいよなたぶんね作ってる側そんなつもりないんだよ。前作でお客さんに好評だった部分を続編だから大増量だっていうそういうサービス的な意気込みで作ってるたぶん。まぁ商売としては正攻法だよな、今度は戦争だってやつで量こそが質なんだみたいなね。
でもそのへんが映画の難しいところで、単純に面白ポイントを二倍にも三倍にもすればその分だけ面白も二倍三倍と増えるってわけにはいかない。スラッシャー映画で殺人鬼が人を殺す場面は面白いけど、だからといって殺人鬼が100人とか殺して回る映画があったらそれは面白くはごめん書きかけたけど撤回するわその映画面白いわ殺人鬼が100人殺すやつ。いや、まぁ、でもさ、怖くはないでしょそれ? そりゃ10人ぐらいしか殺さない普通のスラッシャー映画だって大抵怖くはけれども一応ホラーとして成立してはいるわけじゃない。でも殺人鬼が100人殺す映画はもうコメディだよね。文字通りの百人斬り。戦中日本では時の政府にすっかり首根っこを掴まれた骨抜き新聞が戦争に鼻息を荒くする国民どもに新聞を売るため景気の良い勝利勝利大勝利の捏造報道をするようになり悪名高い南京百人斬り競争もそうしたフェイクニュース過熱の中で生み出されたという…全然関係ない!
つまりこういうことが言いたかったのだ。きっとこの映画の作り手はどこかで映画を面白くする工夫をやめてしまったのだな。前作でウケたのはここ、だから続編ではここをもっともっと増やせばお客さんおおよろこび。そんなわけない。いや、俺の観測した限りではそんなわけあったけどそれはかなりコアなファン層で、その層はねもう『ベイビーわるきゅーれ』っていうコンテンツが大好きだから何をやっても生まれたての赤子みたいに喜ぶのよ。そんな層を客の大半だと思ってはいけない。
具体的に言えば、前作は全体的にオフビートなムードはあっても一応はヤクザのバイオレントな世界とティーン女子殺し屋コンビのほのぼの日常という相成れない世界の弁証法的な対立構図があり、それがあるときにはシーンに緊張感を与え、あるときにはシーンにユーモアを与えていたが、今回はヤクザが(ほぼ)出てこず、ティーン女子殺し屋コンビと戦うのはティーン男子殺し屋コンビ。このティーン男子殺し屋コンビってぇのがほのぼの系なんだな。つまりほのぼの対ほのぼのの構図になるわけで、これではダメだ、どちらのほのぼのシーンも少しも笑えず、そしてその戦いには少しも緊張感がない。
アクションにしても伊澤彩織の擬斗はさすがに身体能力が高く見事なものだとは思うがなにせ個々のアクションシーンを盛り上げるための段取りを踏まずいたずらにアクションシーンばかり増やすものだから溜めて溜めて溜めて…最後に爆発! で指数関数的な跳ね上がりを見せた前作ラストのようなカタルシスはない。こちらは1+1+1+…と続くだけでブチ上がるところがないのである。
言いたいことはもう尽きた。俺は口は悪いが高貴な人間なので個々のシーンのこれがつまらなかったあれがつまらなかったとかは言わない。っていうか全部つまらなかったのでそれを言い出したら脚本の書き起こしになってしまう。個々のシーンのつまらなさを言うよりもヒドいことを言うんじゃない。すいません。まぁでもつまんなかったのは事実だからしょうがないし、下手なりに面白いものを作ってやろうというアツい意気込みはとりあえず感じられた前作と違ってこちらにはそのアツさもないので、本当に良かったところがない。
キャラクター描写も浅く、台詞とギャグはワンパターン、カメラはつまらない漫才を延々長回しで撮るだけで、殺し屋協会だなんだの設定は掘り下げが浅くはっきり言って幼稚である…なんか罪悪感出てきたよやめろよ! そんな気持ちで俺は映画の悪口なんて言いたくないんだよ! 悪口を言うときは気持ちよく言いたいのであって「これ言ったら作ってる人とか出てる人が傷つくかなぁ…」とか思いながら言いたくないんだよ! 申し訳ないけどこれは子供の作る映画であって大人の作る映画じゃないよ! そして子供の作る映画だと判断したから、なんか悪く言うことに躊躇いがあるんだよ!
でも君ら伸びしろありまくる若者なんだから頑張れよって思うよ。俺はほらこれから何十年もこうやって映画の悪口を言うぐらいしか楽しみがない無能の愚人として生きることになると思われますがこの映画を作った若い人たち、この映画に出た若い人たち、みんなこれからもっと人生が豊かになり楽しくなる。いいじゃないですか、いつの日か振り返って「うわーこの頃の自分こんなに未熟なことやってたんだー!」って赤面できるようになればさ。世の中には俺のようにもう赤面できるだけの伸びしろがないという人は大勢いるし、赤面できるだけの勇気や知性がないという人も大勢いる。君たちはきっとそうじゃないから安心だ。根拠はとくにないが。
今そういう心境ですよ。今日ね、家出て仕事行くときに通りかかった小学校で卒業式やってるの見たんだよ。まジーンと来るとかってわけじゃなかったけどあ、人って成長するんだなってそれ見てふと思ったね。だからもうそういう心境。おめでとう。おめでとうだ。よくわからないがおめでとうと言って感想を終えよう。おめでとうございます!
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おめでとうございます!!!!!
髙石あかりのアクションが増えたことや丞威を起用した点など、良い部分もあっとは思いますが、全体的に緊張感がなく冗長な印象を受けました。前作の方が良かったというのも同意です。
なんですけど、ネットの感想は大半が絶賛で「前作以上」という意見も多いんですよね。まあ初日組の時点で盲目的なファンが少なくないんだろうけど。
無意識的にアイドル映画として見てる人が結構いるんじゃないかなぁと思います。髙石あかりと伊澤彩織がカワイイから最高of最高!みたいな。俺はそれは二人にも監督にも作品にも失礼なことだと思うんですけど。
殺人鬼の100人斬り……ノリとしては三池崇史のIZOが近いのかもしれない
百人斬りの映画と期待してIZO観に行ったら途中で帰りますよ!
そらそうだ笑
記事の最後の「おめでとうございます」は相米慎二『お引越し』のパロディですか?
なんでそう思ったのかわかりませんが違いますよっ!
あんまりそう自分を卑下しないでよ…
もうジジィだから若い人が面白がるもんがわからんのや…