超ダルデンヌ映画『トリとロキタ』感想文

《推定睡眠時間:15分》

ともにアフリカのどこかからフランスに渡ってきたティーン少女トリと元気少年ロキタは難民生活をサバイブするために義姉弟の契りを結ぶのであったがこの二人がめっちゃ仲良くしかも二人ともバリ良い人なので苦しい生活にも関わらずトリは自分よりも弟ロキタの身を案じロキタはロキタで姉トリの身を案じというわけで果たしてイマドキこれほどほっこりな家族像はあろうかという理想的家族っぷり。家族推しの自民党さん! アフリカの難民とかの人はすごい家族を大事にするみたいなので家族の良さを国民みんなにわかってもらいたいならそういう人たちを積極的に受け入れたらいいっぽいですよ! とかついつい言いたくなってしまう。

それはいいのだがいささかいつものダルデンヌ映画過ぎやしないかとおもう。手持ちカメラで撮りっぱなしのドキュメンタリー的撮影は当然として、登場人物の性格とか展開がこれなんか前にもダルデンヌの映画で観たな感で、近作はわりとシナリオに従来とは異なる捻りがあったりしたが今回はストレートなシナリオのため既視感強い。これがダルデンヌのスタイルと言われればまぁそうかもしれないが、今回は題材となっている難民の人たちの大変な境遇を観客にわかってもらうためあえて捻りなくダルデンヌ的にベタで王道な映画になっているんですと言われてもまぁそうかもしれないが、言われてもと言ったところで俺にそんなことを言ってくれる人は誰もいないのだが、なんかダルデンヌの新作にしてはそこまで刺さるところがなかった。

難民の人の境遇というのもたぶんこれは個別的な物語ではなく普遍的な物語として編まれているので時代性や場所性が薄く亡命に至った経緯などもほとんど語られることがない、その意図はわかるのだが一口に難民といっても置かれた状況は必要とするものは千差万別で、そうした千差万別を把握することでそれぞれの難民の人に適切なサポートをというのが超絶ざっくりした最近の難民支援の方向性じゃないかと思うので、難民の窮状を伝えるための映画がこういう作り方で大丈夫なのかねぇとかなる。主人公トリを演じたパブロ・シルズの芝居はとてもよいのだが、書き割りのようなシナリオによってトリが妙に軽くて生活感のない抽象的なキャラクターに感じられてしまったりするんである。

ただダルデンヌはアメリカのB級ノワールを本当は撮りたいんだ論者の俺なので終盤の引き締まったアクション・シークエンスは素晴らしいなと思ったし難民のリアルをカメラで切り取る社会派映画というよりたまたま主人公が難民なだけのB級ノワールとして観ればかなりよい映画に思える。見方次第で変わる映画だなこれは。そんなことを言ったらすべての映画がそうなのだが。

【ママー!これ買ってー!】


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こちらはスリランカ難民の疑似家族を描いたジャック・オーディアール作ですがこれはイイよ傑作。カンヌのパルムドール受賞作だからカンヌの常連ダルデンヌはこれを観て自分たちなら難民をこう撮るという思いがあったんじゃないだろうか。

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