観光こわい映画『ベネシアフレニア』の感想(仮)

《推定睡眠時間:45分》

アレックス・デ・ラ・イグレシアは好きな監督だし人が沢山死ぬのなら面白い映画のはずなのだがなんかのっぺりした映画であんまり面白くなかったな~と思ったのだがホラー映画愛好家の間ではなかなか評判のよい作品のようで、ということは俺が寝ている間に面白いシーンが詰まっていたのだろう…まぁ推定45分も寝てるし…つーわけでゴールデンウィークにもう一回観てきて感想追記しようとおもいます。今日のところはとりあえず45分寝たバージョンの感想を書く。

いや~のっぺりした映画だったな。人はたくさん死ぬのだがあまりにもあっけらかんと白昼堂々死ぬので怖くないしその描写に拘りはあまり感じられない。要素はいろいろ詰め込むがどれか一点を掘り下げるということはしないので全体にメリハリが無く、散漫な印象が強い。イグレシアのジャンル映画オマージュものってわりといつもこうだなと思う。『マカロニ・ウェスタン 500発の銃弾』っていう仕事のなくなったマカロニ・ウェスタンのスタントマンたちがいつしか映画と現実の境を超えてホンモノのウェスタンをやってしまう…というあらすじだけ書けば超面白そうなイグレシア監督作がありますけど、あれもメリハリがなく散漫で不完全燃焼。面白くなりそうでなかなか面白くならない。そういう映画だった。

タメの演出みたいなことをこの人ってしないんですよね。『マカロニ・ウェスタン 500発の銃弾』もそうでしたけどジャンル映画ってタメが重要ってところある。ウェスタンなら銃撃戦そのものよりも『シェーン』なんか顕著ですけれども銃を持った二人のガンマンのにらみ合い、その一触即発の「間」の描写にジャンル映画的な面白味がある。ホラーだってそうでしょ。殺人鬼が人をたくさん殺したり幽霊が人を襲ったりするのも大事ですけど、殺人鬼とか幽霊が出るぞ出るぞ出るぞ~って思ってる時が一番怖いし、それが楽しい。イグレシアの映画ってそれが基本的になくて、その「間」の演出の代わりにブラックユーモアとかパロディを入れてしまいがち。

沈黙に耐えられない人なんだろうなと思うよね。なんか、明石家さんまみたいな。『どつかれてアンダルシア』なんてどつき漫才コンビの映画も撮ってるし。後年そのセルフリメイクのような『気狂いピエロの決闘』を発表してそちらの方が世評は高いようだが俺は『どつかれてアンダルシア』の方が面白かった。こう考えていくとイグレシアという監督はジャンル映画の人と見られがちだが、デビュー当初ジャンルミックス的な作風で鳴らしたように、その才能はどちらかといえば正統派のジャンル映画よりもポストモダン的な風刺喜劇なんかの方に向いているように思われるし、この『ベネシアフレニア』もEU域内の経済格差や観光客の増加が喚起する歪んだ愛国主義を皮肉った風刺映画の側面があった。

でも『どつかれてアンダルシア』みたいに喜劇として振り切れない、中途半端にホラーとして撮ってしまっているところがこの『ベネシアフレニア』の絶妙な面白くなさの所以なんじゃないかとか思う。余談になるが最近のイグレシア映画だとNetflix配信のみになってしまった『クローズド・バル』がイグレシアにしては珍しくタメを重視した正統派の密室サスペンスで面白かったのだが、予算のいらない密室サスペンスだしあれはイグレシア的には普段の自分のやらないことにチャレンジしてみた実験作だったのかもしれない。そうそう、『クローズド・バル』みたいにアクの強い人間たちが一堂に会してお互いに主張を譲らずガチャガチャと大喧嘩するのがイグレシア映画の面白さなんだよな。『ベネシアフレニア』は殺人鬼が一方的に殺すばかりでその対等にやり合う感じがなかったのもつまらなく感じた理由かもしれない。

【ママー!これ買ってー!】


『どつかれてアンダルシア(仮)』[DVD]

イグレシアは初期作の方が勢いがあって面白いと思うのだがこの『どつかれてアンダルシア』を含めて日本では軒並みソフトが廃盤、Blu-rayにもなってない。どうにかなりませんかねぇメーカーさん…。

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