はやく機械になりたーい映画『EO』感想文

《推定睡眠時間:0分》

最近YouTubeにある自然保護区とかのエサやり場のライブカメラ配信をよく見るようになってこれがもうすごい面白い。全然大したことは起きないんですよしょせんはエサやり場だから。たまに鳥とか草食動物がやってきてエサ食ったり水飲んだりするだけなんですけど、でもずっと見ちゃう。なんであんなに面白いんでしょうねどうぶつ。もう動いてるだけで面白いしハシビロコウみたいに動かなくても面白い。このあいだも名前を知らない四足動物が水を飲みながらたまにパッと後ろを振り返って聞き耳をそばだててあれもう行っちゃうのかなと思ったらまた呑気に水を飲み出していや飲むんかいと画面越しに一人ニヤニヤしながらツッコむというのを4セットぐらいやってた。ふと思ったんだがおばあちゃんとかの家に行くと我々チルドレンはやたら物を食わされるじゃないですか。あれおばあちゃん視点では我々がどうぶつに見えてるんじゃないだろうか。おー食ってる食ってるおっほっほ面白いわーって思ってるんじゃないのかおばあちゃんは、我々チルドレンがYouTubeのライブカメラでどうぶつの水飲みを眺めているときみたいに。なんか、腑に落ちたね。

とかいう話と『EO』はぜんぜん関係なくこちらはポーランドの奇才イエジー・スコリモフスキがモフモフスキに変身してかわいらしいロバさんとヨーロッパを放浪する映画。あーいいわーロバさんいいわーモフモフだわーこれはー。馬ってさ、モデルさんじゃないですか。手足がスラリと伸びて顔立ちもシュッとしてて走る姿は凜々しい。でもロバさんはなんか可笑しいんだよね。頭は馬と同じくらいでっかいのに手足はぐんと短くて不釣り合い、動作は鈍くなんだかいつも眠そうな目はカピバラさんにも似て周囲の時間をとろーんと減速させてしまう。まぁ人生長いんですからそんなに焦らないでゆっくり行きましょうにんじんむしゃむしゃ。ロバさんのヒーリング力はすごい。

そのヒーリング力を持ってすればヨーロッパのあちこちでEOさんが遭遇する殺伐とした事件の数々もねこぢるの漫画のような脱力感を帯びてしまいます。やれフーリガンの抗争だ、やれ首切り強盗だ、やれ没落貴族の家族喧嘩だ・・・まぁいろいろありますがまったりいきましょうみなさん。EOさんののんびりまなこはそう語りかけているかのようだが人間どもは愚かなりEOさんののんびりまなこを覗き込む余裕などないのであった。そんな人間どもなど気にも留めずEOさんは今日もヨーロッパをカッポカッポ、そののほほんな姿からは想像しにくいがEOさん家代わりであったサーカスを失って帰る場所のないロマならぬロバなので実はちょっと悲しいお話なのだこれは。

実験的な演出が大好きなスコリモフスキは今回赤フィルターをかけたドローンカメラで風景を撮ったりしてそれがEOさんのヨーロッパ漫遊の折々に飛び込んでくるのだが、どうやらこの赤フィルターや赤照明のかかった赤い風景というのはEOさんの心象風景を表しているらしく見える。のんびりマイペースに林道を歩くEOさんだがその心はドローンとなって自由に空を飛翔する。乱暴な人間の手によって半殺しにされた時には赤く染まった街の中でボストンダイナミクスの四足歩行ロボットとなって立ち上がりわりと気持ち悪い挙動でウィンウィンと元気に走り回る。犬の目には世界はモノクロに見えるというがロバさんの目には世界が赤く見えるんだろうか? にんじんばっかり食ってるときっとそうなるんだろう、ということにしておこう。まぁ見えなくても心象風景だから無問題だ。

そうした演出が効果を上げているかといえば微妙な気がするが、ドローンカメラとなったEOさんの目が風力発電所の風車と戯れたり、例のボストンダイナミクスの四足歩行ロボットになったりと、動物と機械の親和性を提示しているのはなかなか面白い視点だと思った。考えてみればどうぶつを機械として処理する畜産はもとより人間がペットを飼ったりするのもその野生ではなく機械性を欲してのことではないだろうか。餌をあげれば食べる、オモチャを投げれば遊ぶ、お散歩行くよと言えばはしゃぎだす、というペットの機械的反応を見たときに飼い主は喜びを感じているように俺には見える。逆に飼い主が悲しむのはペットが野生を見せたとき、飼い主に本気で噛みついたり飼い主からの逃亡することで、これを喜ぶ飼い主などほとんど考えられない。俺にしてもライブカメラに映る動物のきわめて単調な動作の中に機械性を見出しているんじゃないだろうか。

人間がどうぶつに機械を求めるなら、どうぶつの側が人間よりも機械に親近感を抱いてもなんらおかしなことではないのかもしれない。ヨーロッパの片隅で巻き起こる様々な小事件にEOさんは何の同情も寄せようとしない。物語の上では人間の見捨てられたことで放浪を開始するEOさんだが、その旅の意味を捉えるなら、実は人間の方こそがEOさんに見捨てられたのかもしれない。のろのろロバさんはボストンダイナミクスの夢を見る。機械が人間を駆逐した未来の世界なら、EOさんもむしゃむしゃにんじんが食べ放題で楽しいに違いない。

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面白いどうぶつ(犬)放浪映画だが問題は主演の犬がほぼCG。野性を謳うならせめてホンモノ使え。

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booby
booby
2023年6月15日 10:54 AM

ようやく観れました。音楽とカット割りでみせるEOの気持ち描写の指向性がガチガチで、解釈の幅が全然ないのが意外でしたね。あまりに露骨なんで、「そういう風」に作られたものに対し、「そういう風」に見てしまう私の(引いては人間の)身勝手を揶揄してんのかな、と勘繰っても見たのですが、恐らくそこまで絡め手でもないんでしょう。ロバはただ見ているだけでも内省的になれるので、もう少しあっさり演出のほうが好みでした。面白かったですけどね。