《推定睡眠時間:15分》
英文などは読めないのでデスパレートという単語を人生で目にしたのはこれの他には『デスパレートな妻たち』しかないのだがどのような意味かわからなかったのでこれを機に検索すると自暴自棄とかヤケクソと出る。へぇヤケクソな妻たちという意味だったのだなぁ『デスパレートな妻たち』というのは。じゃあこの映画はヤケクソ走り。そうか? 結構一定ペースで走ってなかったか? と思えば原題は“The Desperate Hour”というそうで、アメリカで絶えない高校での銃乱射、世に言うところのスクール・シューティングがテーマの映画なので、犯人側の心境を説明したタイトルであった。中途半端に原題を残しつつアワーをランに変えて疾走感のあるサスペンスですよ的な邦題にしたために変なことになっているのだろう。もっともそんなことは誰も気にしないので問題ない。問題があるとすればそんなに面白くないという点に尽きる。
夫を亡くして傷心癒えぬナオミ・ワッツは二人の子供を育てる母親ってんで悲しみを抱えつつも表面上はいつもどおり振る舞っている。気がかりなのは絶賛思春期中の上の子だ。こいつときたら何が気に食わないんだかいつもふて腐れた感じで学校にもあまり行きたがらない。まぁそのうちなんとかなるだろと前向きに考えて日課の往復10キロぐらい森林ジョギングに出たワッツであったがそこになにやら不穏な知らせ、どうやら近隣の学校でなにかしらの事件があり現在下の子は校舎内に退避中、上の子は大丈夫かなと電話をかけるがなぜか出ず…というわけで以降は終盤10分ぐらいを除いてすべてワッツが森の中を走りながら色んな人に電話をかける展開になるのだがさ、さてはお前…コロナ禍映画だな!?
説明しよう! コロナ禍映画とはコロナ禍初期に製作されたため現場の体制が現在のようには整っておらず、早くも死語化しつつあるソーシャル・ディスタンスをどう確保するのかなど様々な感染対策の試行錯誤をしながら撮影された映画のことであり、その多くは飛沫感染防止策として役者と役者が直接顔を合わせる室内のシーンを極力減らしたシナリオが用いられているため、一人芝居映画のようになっている! この映画の製作は2021年ということでコロナ禍真っ只中(今も本当はそうですがね)、したがって前述の感染対策と映画撮影をどう両立させるかという課題をワッツが森の中を駈けながら電話をしまくるシチュエーション・スリラーのスタイルを取ることで解決しようとした映画であると考えられるのだ!
まぁ時代の記録としては興味深いよね。ただそんなに面白くない。だって森だし。森走りながら電話しまくってるだけだしね。おそらく座って一人で電話してると絵が単調になるからっていう理由でとりあえず森を走らせるあたり涙ぐましい努力だが、涙ぐましいだけで別に面白くなるわけではない。だって森の中走ってるだけなんだもん。走ったところでさ…まぁ座って電話するよりは走った方がいいかもしれないけれども。いやそんなレベルで良いとか悪いとか言わないといけない映画って厳しいよなんていうか!?
でも俺は案外満足して映画館を出た。たしかにこれはそんなに面白くはない。しかしコロナ禍初期の今よりも格段に制約と迷いがある中で撮られた映画と考えれば、可能な限り迫力と変化を出そうとしているカメラワークは悪くないし、演技派で鳴らしたワッツであるから走りながら心情を縦に横に揺らしまくる一人芝居は熱演というより熟練の技、いったい何が起こっているのか一つ一つ軽いツイストを効かせながら明かしていくシナリオはびっくりするようなところはないがサスペンスの模範解答のような手堅さで、充分に面白い。コロナ禍映画というチャレンジングな企画をコロナ禍映画だな~とあまり感じさせることのない(感じさせないので事情を汲んでくれない観客に単につまらない映画と思われてしまっているくさい)午後ロー的娯楽映画としてまとめ上げた監督フィリップ・ノイス、けっこう久しぶりに名前を見た気がするがサスペンス職人として衰えてなかったすな。
89分というコンパクトというかこの作りならそれぐらいが限界と思われるランタイム(ランだけにね!)も含めて仕事帰りにちょっと寝ながら観るにはちょうどいい面白さだったとこれはあくまでも金曜夜のレイトショーで観た感想ではあるがそう思う。あまり長すぎたり面白すぎたりという映画は金曜の仕事帰りの心身ともにぐったりなオッサンにはちと重すぎるのである。たびたび書いていることだがこういう映画を俺は新橋系と呼びたい。かつて新橋ガード下にあった二番館・新橋文化劇場はめちゃくちゃ面白いわけではないがめちゃくちゃつまらないわけでもないB級サスペンスとかアクションを二本立て900円というシネコン一般料金2000円についに到達した現在からすれば涙の出そうな良心価格で流して行き場の無いサラリーオッサンとか老人とかを吸い上げていたものである。
そういう、疲れたときになんとなく適当に観る映画があってもいいじゃないか、いやむしろそんな映画こそハリウッド大作の長尺化とシネコンの高級化がぐんぐん進む現代には必要なんじゃないか、とか思ったねなんかこれ観て。あちなみに書き忘れていましたがこの映画はスクール・シューティングを被害者(家族)視点で描くことで銃乱射超多発のアメリカの現実って変えた方がよくない? とやんわり訴える社会派映画でもあります。89分で社会のお勉強ができて仕事帰りの娯楽としても楽しめるのだから、上等な映画なんじゃなかろうか。
【ママー!これ買ってー!】
『デスパレートな妻たち シーズン8<ファイナル>』コンパクト BOX [DVD]
シーズン8まであるのかよ。やけっぱちになりすぎだろう。
こんにちは。
貴レビューの三行目まで私と全く同じで( ̄∇ ̄)…私の感想は以下につきます。
CJ、グッジョブ!
CJグッジョブ!(その部分寝てたけど!)
寝てたんかいな(-_-)zzz
だってずっと森の中走ってるだけだから…笑
でも家に白い車があるかないかなどの確認作業をタダでやってくれたのはたぶん見ましたし、声から悪ぶってるが実は良い人っぽさがにじみ出てました!