《推定睡眠時間:20分》
幸福の科学の映画なので冒頭に出るエピグラフは当然ゴッド隆法の著作からのものなのだが心霊探偵的なスピリチュアラーが様々な霊的お悩みを解決したり解決を諦めたりするオカルト映画なのでエピグラフはそれに合わせて人は死んでも魂は死なないのです的なもの、ということでなんだかゴッド隆法追悼映画のようになってしまっているのがなかなか面白くてズルいのだが、そういえば教団的には今隆法の死ってどんな扱いになってるんだろうかと思って公式サイトを見に行ったらまだ死去の事実が書かれていなかった。え、まだ認めてないの?
このへんもしかすると教団内の権力闘争が影を落としているのかもしれず、隆法が後継者として半ば指名していた長女・大川咲也加の名前は隆法の死後公式サイトから消え、教団を出た身とはいえ隆法の長男であるため教団上層部に太いパイプを持つ宏洋によれば指導的立場を下ろされたようなのだが、代わりにグっと前に出てきたのは隆法の後妻・大川紫央、どうやら紫央が既定路線と思われた咲也加の二代目教主就任を覆したらしい。それでも権力基盤を固めるまでには至っていないのだろう、現在も幸福の科学が公には隆法の死を認めていないのはおそらく咲也加派と紫央派の間で隆法の後継者の座を巡って諍いが続いており、教団の今後の指針を決定できないでいるためではないか…などとわれわれ俗世間の人間にとっては明日の朝ご飯に何を食べるかということよりもどうでもいいことを長々書き綴っても徳が下がるばかりなので映画の感想に話を進めよう。
いやでも教団の現況(?)に触れたのはゆえなきことではないんだよ。幸福映画って最近は四つぐらい系統があって、ひとつは隆法の自伝系、これは当然隆法がいちばん力を入れていた系統であり、宏洋在籍時にはおそらく宏洋を後継者とするつもりで『さらば青春、されど青春』の隆法ヤング時代を演じさせたこともあったが、のちに宏洋が離反するとわざわざほとんど同じ脚本で別役者(あんまり表に出てこない教団職員だった)に隆法ヤング時代を演じさせたセルフリメイクを作ったほど(これにより幸福的に『さらば青春、されど青春』は封印作品となり存在自体しないことになった)
幸福映画第二の系統は昔からやってるアニメだよな。自伝系映画なんかは信者向けの側面が強いけどアニメは外向けの布教目的がおそらく第一(幸福信者の年齢層高いので)。布教できればなんでもいいので流行りのアニメとかゲームとかから露骨にパクって隆法のありがたい説法をミックス、最近は咲也加の趣味なのかもしれない80年代アニメっぽさもなんか出てきた。『聖闘士星矢』とか。
第三の系統は実写の娯楽映画でこれは以前は宏洋が指揮を執っていたが脱会後は咲也加が担当することになる。その代表的な作品が千眼美子主演の『僕の彼女は魔法使い』とか『愛国女子』とかだが、クオリティに関しては説明しなくてもいいねタイトルから察せ! この系統は自伝系と並んで隆法作詞の幸福歌謡が吹き荒れて映画館で観ると体感気温がみるみる下がっていくのも特徴だ。君は映画館から生きて帰れるだろうか。
で、第四の系統がドキュメンタリーっていうか『心に寄り添う。』シリーズ。句点の挿入が隆法センスだが内容に関してはおそらく隆法とそのファミリーはほとんど噛んでない。たぶん興味なかったんだろうね。この『心に寄り添う。』シリーズはその時々で教団がアピールしたいこと(大学認可とか選挙動員とか)をプロパガンダするための映画で、現在までに三本作られているが基本的にはどれも教団施設を巡り信者にインタビューをするという安いシロモノ。ところがこれが幸福映画の四系統の中では一番巧くできている。ドキュメンタリーを騙るプロパガンダなので倫理的には当然問題ありなのだが、映像の作りに関しては隆法ファミリーが介入しないためか他のアマチュア臭い幸福映画とは一線を画しており、正直普通に面白い…ので俺はこの目立たない系統の幸福映画が逆に一番危ないと思っていたりする。多少ぼんやりの気がある人ならなんとなく説得されてしまいそうなので。
となかなか本題に入れなかったがようやく本題、その『心に寄り添う。』のチームが制作に当たっているのがフィクション映画の『夢判断、そして恐怖体験へ』シリーズで、前作もよくできたホラーオムニバスだったのだが、その続編となるこの『レット・イット・ビー』、認めたくはないが面白い。ぶっちゃけ清水崇とか中田秀夫が最近撮ってるバラエティホラーよりもよほどしっかりとJホラーしてるので恐怖描写はちゃんと怖いし、悲哀と諦観を帯びた心霊探偵のキャラも魅力がある、シナリオにも演出宗教的な押しつけがましさがなく、隆法作詞の幸福歌謡は使用も音量も控えめでノイズ効果は最小限、ホラーからスピリチュアルなヒューマンドラマへのブリッジも違和感がなく、これは皮肉ではなく切なくも温かい余韻を残すラストはちょっと感動的でさえあった。やばい。スピリチュアル映画としてかなりよく出来てしまっている。隆法の原作というか基になってるリーディングはストーリー仕立てではないので、これはひとえに監督以下制作チームの力である。
幸福映画と聞いてどんなものを想像するかは人によて違うだろうが、おそらくどの想像からも『レット・イット・ビー』は外れるんじゃないだろうか。困ったねぇ、貶したいんだけどねぇ。信仰はどうあれ幸福映画には予算的にもテーマ的にも厳しい制約があるだろう。教団トップを巡るゴタゴタで今後幸福映画がどうなるかわからない。提案なのだが、君ら幸福の外で映画撮ってくれませんか? 俺はこのチームが撮ったもっと本気のホラー映画が見てみたい。それなら心置きなく褒められるので…!
【ママー!これ買ってー!】
夢判断といえばフロイトの印象が強いが幸福が立脚するのはユングの夢判断。そこから夢に現れているのは前世なんだと飛躍するのでユングでもなんでもないんですが。
やっぱりさわださんの幸福の科学(というか宗教)への距離感ってほんと丁度いいですよね。あくまで作品の感想って感じで。
Twitterやメディアでは例の事件が起きてからというもの、そういう物に対しての反発みたいなものをよく散見するようになり、”宗教=良くない物”と決めつけて茶化す人もいました。自分はそういう考えの人を見かけるとずっとモヤモヤしていました…
端から見ればどんなにカルトでも、真面目に信仰している方がいる訳じゃないですか。何かを信じたい、救われたいって人が。もちろん思想は人それぞれですし、どんな感想を持っても自由なんですがそういった方達を無下にする考えはどうかとは思うんですね。
さわださんの感想にはそういったモヤモヤはなく、むしろ”一非信者の観客としての視点”で良し悪しを書いていてるのでフラットでいいなと読んでて感心いたしました。
長々と雑文申し訳ないです♂️
宗教だから良いとかダメとか言ってたらハリウッド映画なんか観られないですからね笑
ハリウッド映画だけじゃなくて世界中の映画が見られなくなってしまう。インド映画だって非常に宗教的ですし。ただ大抵の人はその自覚がなくて、いまだ宗教は遠い世界の出来事だと考えて、忌避するのでしょう。
“ただ大抵の人はその自覚がなくて、いまだ宗教は遠い世界の出来事だと考えて、忌避するのでしょう。”
それが悪い事なのか良い事なのかは自分には分かりませんが、今後もそういった考えは続いていくのでしょうね。
続いていくんでしょうね。元オウム信者の本なんかを読んでいると「宗教っぽくない」とか「自分のイメージしてた宗教とは違った」と入信時の心境を語っている人が多くて、宗教を異質なものと捉えれば捉えるほど、逆に変な宗教に出会った時にその宗教性を見抜けずハマってしまう危険性があるのかなぁと思うので、今の風潮はあんまりよくないんじゃないかと思ってます。