新橋系SF最新作映画『65/シックスティ・ファイブ』感想文

《推定睡眠時間:40分》

昨日アマプラで『スマイル』を観てこういう日常風景ばかり映すホラーはダメだよジャンル映画なら非日常を見せてくれと書いたばかりなので宇宙船で航行中に事故って白亜紀の恐竜がおー地球に辿り着いちゃったというこの映画はそれだよそれそれそういうのをくださいよ待ってましたとテンション高く言いたいところなのだが『アフターアース』より面白くない『アフターアース』みたいな映画だったのでそうもいかなくなった。宇宙航行の末に辿り着いた先が地球。『猿の惑星』か。だが『猿の惑星』ではなく『アフターアース』だった。なぜならこの白亜紀末期の地球という舞台設定にはとくにシナリオ上の意味がなかったからだ。

普通、思うじゃない。過去の地球に逢着して生き残りは自分ともう一人の言葉の通じない少女。元の世界に帰れる見込みもないしと絶望に暮れる主人公だったがそこで絶望に抗って起こした行動が実は遠い後生に影響を与え…みたいな時間SF要素あるだろって。なかったね。俺てっきりおいおいこいつらが恋仲になって人類の祖先になるってアダムとイブのオチか? 大丈夫か少女の年齢的にそれは、叩かれないかネットとかで? とか無駄な心配しちゃった。でもなかったから大丈夫だったね。じゃあなんで白亜紀末期の地球なんだそもそもそれはどういうあれで辿りついたんだそれは。時間遡行しちゃったのならどこへ行こうが現在の地球へは戻れないはずだがなんか二人で頑張って別の場所に落下したロケット付き脱出ポッドを目指そうみたいな展開になるし意味がないだろその行動。

恐竜を出したいというのはわかるよ。俺だって恐竜が暴れるのは見たいよそれは。でも時間SF要素を入れないなら白亜紀の地球じゃなくてもっと変な宇宙怪物が闊歩する別の惑星で普通によくないか!? あるいは未来の地球とかでもいいよな『アフターアース』みたいに。それはそれで見たことのない想像動物などを出せる。でも白亜紀の地球でしょ。まぁ恐竜見れるからいいけど…いやでもそれならもっと色々出してくれてもよくないか恐竜? 大部分寝ていたからわからないが俺が起きてたところにはティラノサウルスみたいな二足歩行肉食恐竜一体しか出てなかったぞ。もっといるじゃん恐竜。白亜紀末期に具体的にどんな恐竜が生息していたかは知らないがほらプテラノドンとか、ステゴサウルスとか、クビナガリュウとか…クビナガリュウは正確には恐竜ではないらしいが…アロサウルス、ブロントサウルス、イグアノドン、ヴェロキラプトル…出せると思うんだよなもっと思いきり恐竜。白亜紀なんだから。

でも一体ぐらいしか恐竜出ないしなんかそういう楽しい雰囲気の映画じゃない。まったく予期せぬ運命に絶望して一度は命を絶ちかけた生存者アダム・ドライヴァーが少女と交流しつつ白亜紀地球をサバイブするうちに生きる希望を取り戻してくというお話なのだがそこにユーモアはゼロで映像はなにやら宗教映画的な荘厳とも言える陰翳を帯びている。監督は『クワイエット・プレイス』の脚本家コンビというからそう聞けばなるほどと思う。『クワイエット・プレイス』もなんかキリスト教ムード漂う重々しい終末映画だったもんな。っていうかこれほとんど『クワイエット・プレイス』と同じ話じゃねぇか舞台を白亜紀に変えて怪物を恐竜に変えただけで。こちらでは恐竜を絶滅に至らしめたとされる巨大隕石の接近が終末感を醸し出すわけである。

こういうのが好きな人はいいだろう。俺にしたって別に楽しめなかったわけではない。いや、楽しくはなかったけど、楽しくなくても白亜紀の地球をアダム・ドライヴァーが90分間サバイバル…金曜日の仕事終わりに観れば、そんな映画はたとえつまらなくても嬉しくなるものだ。ただ白亜紀の地球といったらやはり時間SF要素は期待するし、白亜紀の生態系や植生というのは現在とまったく違うはずなので、せめてどっちかはちゃんと見せて欲しかった…後者の方は見れないこともないが作り手の興味がそこにはないので単なる物語の背景でしかない。鱗に覆われたトカゲっぽいデカ恐竜の造形は面白かったし色んなSFガジェットが矢継ぎ早に登場する序盤はそれなりにわくわくさせられたりもしたが、そのですね倒し方とかもですねもうちょっと未来人の知恵を絞って倒して欲しかったと言いますが、SFガジェットに関しましてもいや全然その後出てこねぇじゃねぇかもっと使えよせっかく美術の人が一個一個作ったんだから!

総じてやる気の感じられない映画だが、まぁ90分だし。90分で恐竜と巨大隕石とアダム・ドライヴァー観られるんだもんね。ストーリーが単純だから半分ぐらい寝ても大丈夫というのも好感の持てるところだし、終末…じゃなかった週末を控えた金曜夜の仕事帰りに観るなら、あるいは今は亡き新橋文化の二本立てで観るとすれば、悪い映画ではないよな。まぁツルを触手にしてる人食い植物とか胞子降り注ぐ巨大キノコの森とかマンモスを乗りこなす原始人とかそういうのが見たくはあった、見たくはあったのだが!

【ママー!これ買ってー!】


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ウルトラ超低予算ゾンビ映画『コリン/LOVE OF THE DEAD』の監督マーク・プライスが60年代ぐらいのC級SF映画/テレビドラマに爆発的なオマージュを捧げたあまりにも絵面の安すぎる一本。だが絵面が安すぎることにより活劇の本質が剥き出しになってむしろ同ジャンルのよりお金のかかった映画よりSFアクションとして面白かった。『65』とはラストらへんの展開がだいたい同じ(でも盛り上がるのはこっちだね!)

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