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このあいだ池井戸潤原作の『シャイロックの子供たち』を観てて映画自体はなかなか楽しめたんですけど出てくるオッサンがどいつもこいつもショボイな~って思って、これ池井戸潤原作に出てくる悪い人ってわりとどれもそんな感じでなんか大人の怖さとか狡さっていうのを感じさせない。衝動的で場当たり的で保身ばかり考えていて何か悪いことをするにしても迫力がないんですよね。良くも悪くもなのかもしれないですけど行動に大人らしい黒々した欲とか確固たる思想がないっていうか。それってすごい今の日本の悪の在り方だなと思って、だから池井戸潤原作の映画って俺好きなんですけど。
でそういうのをこの映画『最後まで行く』にも感じたな。悪対悪。ヤクザから賄賂をもらってる悪徳刑事の岡田准一とその前に現れた何かを企んでいるらしい監査課の刑事・綾野剛が戦うというか足を引っ張り合う映画ですけど、なんかね、笑っちゃう。ひったすら人間が小さいんだよ二人とも。そして頭が悪い。原作の同名(邦題)韓国映画は観てないからそっちはどうか知らないんですけどこの日本リメイク版は悪対悪っていう言葉から想像されるようなノワール感は全然ないしそうは撮ってない。
コントなんだよな。ブラックユーモアでもなくてコント。酒気帯び運転中に男を轢いて咄嗟に車のトランクに隠しちゃった岡田准一が一難去ってまた一難でその場をしのいでしのいでまたしのぐというコント。そのしのぎのせいで思うように事が運ばず苛立ちぶち切れる綾野剛の振り回されっぷりを笑うコント。ブラックユーモアとコントの区別がついていないんじゃないかという気もするが客を盛大に笑わせようとしているのは間違いない。だって金だらい(※)まで落ちてくるからね。頭の上から金だらい(※)落ちてくるんだよ! 正直それまではユーモアとサスペンスの両立に見事なまでに失敗している演出の下手さに失笑ものだったがあのシーン観たらこれはもうこういうコントの映画としてアリだと一回転して感心したね。今の日本映画でこんなにフィジカルなギャグなんか他で観たことないもん。ドリフだよこのノリは。
コント映画なら数え切れないツッコミどころをいちいちあげつらうのも野暮だろう。ご都合以外の展開がむしろないご都合主義、あまりにも薄っぺらい人物造形、あえて紋切り型を演じているような大根芝居、R指定が付かないよう配慮したのか裏社会の話なのに皆無なダークとダーティさ、そのすべてはコントならまぁいいかと思える。もしかしたら笑えるところもありつつ多少の社会風刺も込めつつのノワールを撮りたかったのかもしれない。巨悪に翻弄され社会の底辺でお互いに食い合うことしかできない野良犬の悲哀みたいな。監督の藤井道人といえば代表作がズッコケ映画『新聞記者』、この人は映像造形力はあるが物事を捉える視点の方はそれと比して著しく貧しく幼稚というアンバランスな人である。
しかし、作り手の狙いがどうあれ出来上がったものはクレイジーキャッツやコント55号なんかが出ていた往年のコント映画のスマート版。ラストのオンボロ車でランデブーもめちゃくちゃそれっぽい感じである。だからこれはもうこういう映画として、イイ。きっと現代日本の悪をそのまま描こうとしたら間違ってもノワールになんかならずコントになってしまうのだろう。ラストの殺し合いも子供の遊びにしか見えないが、それは今の日本では大人の殺し合いを想像することも、それを演じることも、撮ることもできないということなんである。それだけ今の日本は犯罪率も低く貧困でもそれなり楽しく暮らせ薬物や銃なども身近になく平和なのだと思えば、なにやら複雑な気分にはなるが。
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どうなんですかねオリジナル版は。さすがにもうちょいノワールっぽいと思うのだけれども。