《推定睡眠時間:30分》
文字通り盗んだバイクで走り出すこの主人公はバイクと共に生まれたみたいなことを言う生粋のスピード狂のわりにはスピードを追求することがなく真面目に病院かなんかで働いていたらしいのだがこんなの面白い人生じゃないやいと一念発起、男ばかりの暴走族の仲間入りを果たすのだがこの暴走族というのが日本みたいに公道をぶんぶん言わせて突っ走るタイプじゃない。これがフランスの暴走族の王道なのかこのチームというか烏合の衆に特有のものなのかはわからないが、人と車の通らなそうな周囲になんもない一直線の道を占拠してひっくり返る一歩手前のウィリーみたいな曲乗りを競う、とそのような感じ。警察が来ると逃げるのだが事故っても死ぬのは乗ってる本人だけで近隣住民には迷惑をかけたりしないのだからなんだか平和な暴走族である。
というわけで暴走族の映画なのだがスピードに酔わされるようなシーンはとくになし。ラストだけ多少スピードが乗るがそれも展開のために必要だから描いた程度のものでカメラにスピードの魅力と狂気を切り取ろうとする意志は感じられない。物語の軸は寝ていたのでよくわからないが暴走族内で主人公が受ける嫌がらせなどらしく、どうやらこれは暴走族男社会で苦労する女の人をテーマにした映画のようだ。そんなの幼稚な奴ら相手にする義務はないんだから一人で突っ走ってしまえばいいのになぁ。
ところでこれを観ていて思ったのだが日本には女子暴走族チーム俗称レディースの文化がある。『ロデオ』の主人公は他が全員男の暴走族に入ってしまったので苦労するわけだが、もしフランスにレディースが存在していたらそこに入ればいいので苦労しなかったかもしれない(とはいえレディースの上下関係も男暴走族同様に強烈なものがあるだろうが)。こう考えてみると日本のヤンキー文化もなかなか捨てたもんではなく、こと不良界隈においては人権先進国フランスよりも部分的にだとしても進んだところもあるんじゃなかろうか。思えばフランス映画には不良男は出てきても不良女はほとんど出てこない、ましてやスケバンなど観たことない。不良になりたい女の人には案外居場所がないのがフランスなのだとすれば、ジェンダーバランスというものについてなにやら考えさせられるところである。まぁ不良になんかならないに越したことはないですが。
あとはそうだな…あとは…とくにないな。まぁ俺としてはやっぱこれだな。バイクに乗るならちゃんと公道をぶっ飛ばせ。現実では困りますがこれは映画なのですから主人公にはそれぐらい元気に交通違反をやってほしかったと思います。なんだかねぇ窮屈なんだよ、頭の良い真面目な人が考えた不良映画って感じで。バイカーの曲乗りとか任侠映画みたいな結末は良かったですけど。
【ママー!これ買ってー!】
やはり不良の人たちには映画の中でぐらいは元気に無茶をしてほしいものです。それにしても最近の不良映画は男不良ばかりでけしからんな。女不良が爆走して殴りまくる映画を作れ。