《推定睡眠時間:20分》
主人公のライブ配信者がラッパー設定なので終始ラップを捻っているのだが字幕付きで聴くラップとはこんなにつまらないものなのかとか思ってしまった。英語のラップはなんとなくカッコよく感じられるがそれは単に音として聴いていたからなんだろうな。確かに日本語ラップなどは最近アイドルとかが普通に楽曲に取り入れたりするぐらい一般化しているが、スチャダラみたいなコミック的なものを除けばカッコいいとか面白いとか思ったものは今までに一つもない。
とにかく詞世界が貧相。韻を踏むことを最重視するラップは語の選択に当たってはその意味よりも語感で選ぶわけじゃないですか。実際にはそこに意味も乗せようとすることが多いだろうが、語感と韻で限定された語の中から意味の連関を持たせようとすればその表現は非常に凡庸なものになるのは当然で、したがって意味などは考えずに右から左へ状態で聴いている間はまぁカッコよく響くこともあるとしても、その詞世界に分け入ろうとするならば言葉の貧しさに気付かざるを得ない。詩や散文の言葉などと比べて圧倒的にダサいし面白くないんである。
というわけで最初から最後まで無意味なラップラップラップで突っ走るこの『ダッシュカム』、その部分に関しては開始5分も経たずに飽きてしまった。それでも作ってる方は面白いと思ってるのか頑なにラップ要素を捨てず、この主人公はトランプ主義者のバカという設定なので店に置いてある食いもんを勝手に食うとか寝てる友人にツバをかけるとかの超オモシロ行為を片手に持ったスマホで配信しながら乱発するのだから、二重に面白くない。ラップはともかくあははヒデーと客を笑わせるつもりなら杖をついた老人を階段から突き落とすぐらいの残酷イタズラぐらいは主人公にさせるべきだろうと思うが、決してそこまでの悪事はさせない腹の据わらなさがブラムハウス製作の映画だなとか思う。
結構、わかった、しょせんそんなものは単なる設定。これはホラー映画なのだから設定がつまらないのはいい。オバケだかなんだか知らないが主人公が遭遇するホラー体験の方が面白ければ別に設定なんてなんでも構わない。出てきたのはウンコを漏らして宙に浮く老婆であった。あとそいつを撃ち殺そうとやってくるショットガンの人である。まずウンコを漏らして宙に浮く老婆が怖いかと言われれば怖いわけがない。ショットガンの人はショットガンをめっちゃ撃ってくるとはいえ人であることは明白なのだから更に怖くない。そういえば銃撃ってくるオバケっていないよね。面白いかどうかはわからないが誰かそういうの作ってみたらいいんじゃないだろうか。
ショットガンを撃つ人は現実にいたらめちゃくちゃ恐いとしてもしょせん映画の中のことだからその存在が観客に恐怖を与えることはないだろう。なのになんで出てくるかと言えばショットガンを撃つとすごく大きな音がするのでびっくりするからであった。ショットガンの大きな音でびっくりする映画かー。これが無差別乱射を描いたシリアスなPOV映画ならそれも効果的ではあろうが『ダッシュカム』はウンコを漏らして宙に浮く老婆が出てくるスーパーナチュラルなPOVホラーである。撃たれている間にも主人公は発想の貧しい軽口をずっと叩いているし(バカなので自分がどんな状況に置かれているか理解できないため)、怖くない上に面白くもなく、その面白くなさが怖さを減じ、怖さが減じれば軽口の滑り具合も増すという負の相互作用。
そこから先は寝ていたのでどんなことになっていたのかよくわからないが、どちゃんどちゃんとやたら大きな音だけは聞こえていたので、なんか大きな音の出ることがたくさん起こっていたのだろう。最後まで大きな音で驚かそうとする一本調子は逆にすごい。せめて脚本に捻りの一つでもあればまだ見られないこともなかったが、POVゆえのリアリティ醸成という言い訳をフル活用して脚本も工夫がゼロとはいわないが10段階評価の2くらい。リベラルな主人公がリベラルであることに理由はいらないという時代なのでトランプ主義者の主人公がトランプ主義者であることに理由もいらないかもしれないが、映画を面白くするためにはそうした主人公の属性を展開に組み込むべきだったんじゃないだろうか。
色々書いたが要するにつまらない映画だった、の一言だけあれば感想としては充分だろうと思う。主人公がバカすぎてカワイイところだけは楽しめないこともなかったけれども。
【ママー!これ買ってー!】
陰謀論者の迷惑系ライブ配信者が主人公のPOV映画というなんだか似たような道具立ての映画だが『スプリー』の方はちゃんと脚本を練っていたし映像的な面白味も(『ダッシュカム』よりは)あった。