ヤツが来る…来てしまう…逃げることはできない…どこに逃げてもヤツはやってくる…もうダメだ…ああ…窓の外に…窓の外に見える…ヤツの姿が…近づいてきた…どんどんこちらへどんどんこちらへ…ああ…ああ! ヤツだ! 助けてくれ! ヤツが来たんだ! クリスマスが! 今年もクリスマスがあああああああああああ!!!!!!!
という茶番+クリスマスホラーを10本ぐらい観る会(会員俺のみ)を例年この時期にやってたぶん8回目なのでもうあれだろクリスマスホラーカタログ的な感じでZINE出せるくらいはレビュー溜まったろと思っていたのですがどうせなら100本集めたかったところまだ70本ほどしかレビューがないのに加えて11月の時点でなにかをやるための気力がオール尽きたので今年は結局出せずじまいでした。しかし100本まであとたったの30本となれば来年ZINEを出さない理由はない。「映画にわかセレクション クリスマスホラー百物語」が来年の早ければ夏頃には出る予定(出ないに違いない)なのでクリスマスホラー好き界隈とかいう限界集落のみなさんはぜひとも半笑いでお待ちください。
ということで今年はひとまずこの10本! 今年のクリスマスもホラー映画で脳内を血に染めろ!(くも膜下出血)
※タイトルは配信かDVDのアフィリエイトリンクになってます。
『クリスマス・ブラッディ・クリスマス』(2023)
軍用人型ロボットが動くサンタさん人形に転用された少しも近未来に見えない近未来かもしれない時代のアメリカ。主人公のバー経営者は予約していたマッチングアプリでのワンナイトラブをすっぽかして店の従業員とファッキンクリスマスを過ごすことにするが、そこに現れたのは理由もなく暴走し人々を殺して回る殺人サンタロボットであった。
殺人サンタロボットがクリスマスに大暴走と聞けば俺と全世界のみなさんが想像するのは口から火炎を放射し目からは殺人破壊光線に違いないのだが火炎放射もなければ破壊光線もなく、終盤になって目から緑色のビームを放ち始めたのでおおついにと思ったらサーチ用のライトに過ぎなかった。いったい何のための軍用殺人ロボットサンタさん設定だったのか。殺人サンタさんのロボット感のなさにガッカリだが、そもそもクライヴ・バーカーにオマージュを捧げた幻覚ホラー『BLISS ブリス』で知られるジョー・ベゴス監督のこの映画は若者風俗の描写やサブカルネタ満載のヴィレヴァン通いの高校生みたいなクソつまらない会話が大きなウェイトを占めており、蛍光色を基調にした画作りはキマっているのだが殺人そのものは拘りが薄くやっつけ仕事的というのがムカつく。『ターミネーター』オマージュの追跡劇なんかやってる場合じゃない、オタク知識を披瀝したいだけのサブカル会話だってどうでもいいから破壊光線出せ。
『江南ゾンビ』(2023)
ソウルのクリスマスは雪が降らないのかそれとも予算がなく雪の降る中での撮影ができなかったのか、限りなく後者の可能性があるこのソウル特別区江南が舞台のゾンビ映画は、クリスマスなのに将来性ゼロの会社での仕事を余儀なくされている主人公が最近よくある低層階が商業施設で高層階がオフィスになっている複合型ビルの中でゾンビパニックに遭遇、果たして切り抜けることができるのかという定番のお話だが、クリスマス設定はまったく意味がないしクリスマス的な装飾や風景も全然出てこないので、クリスマス感が完璧にゼロだった。その祝祭感のなさは超競争社会となった現代韓国の殺伐とした都市空間のアレゴリーなのかもしれない…というのは言うまでもなくウソである。
複合型商業施設が舞台と聞けば『ゾンビ』や『ダイ・ハード』を想起せずにはいられないわけですがこれは予算のない映画なので当然そんなスケール感はなく基本的には吹き抜けの廊下を行ったり来たりしてるだけで物語を回すという貧乏さ。しかしながらそこに映画を面白くするための様々なアイデアがあまり活かされないとはいえとりあえず思いついた分だけ放り込まれ、部分的にはモダンな香港ゾンビ映画の佳作『香港ゾンビ』(まんまじゃねぇか)を思わせるところもあった。ゾンビエキストラの数は多いとは言えない。とにかく予算がないので『新感染』の1/100ぐらいかもしれない。けれども、ながらも、狭い空間に少ないゾンビを密集させることによってしっかりとゾンビの脅威を感じさせる作りとなっており、低予算をカバーするためのその工夫と努力には大変グッときてしまう。ぼかぁ好きですよこの映画。
『トイズ・オブ・テラー』(2020)
曰く付き物件のお屋敷に引っ越してきた訳あり夫婦の子供たちは前の住人が残したらしい怪しげな封印ボックスを見つけてしまう。とくに考えもなく開けてみたところ中から出てきたのはオールドスクールなオモチャたち。だがこのオモチャたち、まぁ当たり前なのだが魔の憑いた殺人トイズだったのだ…!
オモチャが動く場面はストップモーションかもしくはストップモーションアニメ風のCGで撮られておりレトロな造型と併せてなかなか味わい深いも、どうやら子供向けホラーなのでこのオモチャたちは動き回るわりにはあまり凶行に手を染めず、人死にはごくわずか。なんか『スプラッターハウス』と『ダークシード』をミックスしたような全然面白くはなさそうだが気味の悪いレトロゲームをやってたらゲームの内容通りに人が死ぬとかそのへんは多少怖さがあるのだが、最後の最後になっても殺人オモチャは登場人物を騙して事故死させようとする程度の邪悪さしか発揮しないので、どうせオモチャだからと卑下することなくもう少し頑張って人間に挑んで欲しかった。でも妙に後味の悪いラストは少しだけ『クランプス』風味で悪くないかもしれん。
『サンタキラーズ』(2019)
あの面白くなかった『Once Upon a Time at Christmas』の続編。ハーレイ・クイン風味の殺人サンタコス女とその殺人サンタ彼氏が捕らえられていた医療刑務所みたいなところから脱走して再び殺人行脚に出るわけだが、前作が面白くなかったのにどうしてわざわざその2年後に続編を作ろうと思えたのかわからないし、前作の面白くなかったところをそのまま踏襲してまた面白くなかったので、この続編だけ日本で配信スルーになっている点も含めて何がどうしてどういうあれなのか掴めず混乱させられる。
とにかく面白くない。面白くない理由は基本的にはセンスもないのに無駄に真面目だからで、せっかく殺人サンタのカップルが出てくるのに会話シーンがまぁ長いこと長いこと長いこと、それでいて気の利いたこともとくに言わないのでホドロフスキーの観念映画よりも意味がわからない。しかも主人公は殺人サンタではなく前作の事件で心に傷を負った被害者の女子高生と殺人サンタの足取りを追う刑事の方であり、そのためスラッシャー映画やホラー映画というよりは刑事ドラマに近い雰囲気になっているのだが、犯人が誰かわかっていてその犯人がなんだかんだ捕まらないか捕まっても逃げるに決まっていることもわかっているのに真面目な刑事ドラマを見せられてもそんなの面白いわけがない。
真面目な映画は真面目な映画で別に観るのでクリスマスホラーでこういうことは本当にやめていただきたい。人死にも少なくその描写も切れ味鈍く、貴重な見せ場であるはずの医療刑務所内での虐殺を回想形式でダイジェスト処理する暴挙あり。
『パラノーマル・アクティビティ7』(2021)
自らのルーツをアーミッシュと知ったYouTuberはネタ撮りも兼ねて雪に閉ざされた故郷のアーミッシュ集落を仲間たちと訪れる。最初は警戒心の強い住民たちに追い返されるもどうにか滞在を許された彼女はやがてアーミッシュの質素で敬虔な生活っぷりに感銘を受け、集落出身の今は亡き母の存在をそこに感じてエモい気分になったりするようになるが、この集落には実は裏の顔があったのだ…。
邦題はナンバリングタイトルになっているが原題は『Paranormal Activity: Next of Kin』で、前作までの物語と直接的な繋がりのない、流行り言葉でいうところのリブート作である。もはや他のシリーズ作と共通するのは悪魔が恐いという点とPOVという点ぐらいで、そのPOVもこの映画ではシリーズのスタイルであった定点観測ではなく普通の手持ち動画撮影によるファウンド・フッテージのスタイルなので、これはもう『パラノーマルアクティビティ』ではないのでは…と思わざるを得ないのだが、監督が深海ホラーの快作『アンダーウォーター』のウィリアム・ユーバンクだけあって、邪教村ネタのファウンド・フッテージ・ホラーとして完成度は高い。
『アンダーウォーター』でクトゥルー神話のイメージを援用したユーバンクなのでおそらく元ネタはラヴクラフトのクリスマス奇譚『祝祭』(The Festival)。『パラアク7』の方は設定的にはクリスマスではないものの、終盤に用意された悪魔の誕生はキリストの誕生の裏返しと見てまず間違いない。裏の教会の不気味なムード、世界の崩壊をPOV画面に凝縮した地獄絵図、緊迫感のある怪異とのバトルなど、見所たくさん。
『The Retaliators』(2021)
ありふれたゾンビ映画のように始まるのでふぅんゾンビ映画かと思っているとシーンが変わって全然ゾンビと関係ない話になってしまう。たしかにゾンビ襲撃のシーンで変な男が「いや、そいつらはゾンビじゃあ…」と言っていたが、じゃあなんなのだろうか? この変な男は福音派の人気牧師。暴力に暴力で抗してはいけません。愛と寛容こそが救いとなるのです…みたいな説教が十八番なのだが、ある日のこと暴力的な悲劇に見舞われ信仰が揺らいでしまう。そんな彼のもとに現れたのは極悪犯罪者絶対に許さない刑事であった。はて、この話とゾンビがどう繋がるのだろうか?
Blu-rayソフトを買ったら血まみれのジャケットにマイケル・ベリーマンみたいな悪人面の人が描かれていたのでゴアゴアしい映画なのかと思ったが、見所はゴア描写やバイオレンス描写よりもやはりタランティーノ脚本から臭味を抜いたような一捻りあるシナリオだろう。なるほどそういうことか…ってそんなわけねぇだろと思いはするが、一見して全然関係なさそうな二つの話の繋げ方が巧いので、無茶のある話もスルッと受け入れてしまう。そしてその後に続くクライマックスは嫌悪感の湧かない程度に容赦のないゴア&バイオレンスに満ちた疾走感ある「ゾンビ狩り」。オチもストンと決まって溜飲の下がる、愛と寛容のクリスマス精神にツバを吐きかけるような痛快クリスマスホラーであった。これ面白いからそのうち日本でも配信されんじゃないかな。
『Christmas Blood』(2017)
大変だ! 冒頭の説明テロップによるとこれまでに何百人とか殺してきたサンタ殺人鬼がこともあろうにクリスマス直前に脱獄してしまった! この殺人サンタさんは自作の悪い子リストに則って殺人を行っていたことから警察は次なる犠牲者を大急ぎで割り出そうとするが、そんな努力を嘲笑うかのように殺人サンタさんのクリスマスがついに始まってしまう…メリークリスマス!
サンタの本場ノルウェーから届いたこちらの映画も『サンタキラーズ』同様に刑事の捜査パートと殺人サンタの凶行パートを交互に描くものだが、北欧サスペンス特有の無情感と噴き出す血の量の多さで、こっちの方は結構見応えのあるものとなっている。例によって殺されるワカモンどもがけしからんホームパーティをやっているのだがその人間関係もギクシャクドロドロとしており厭な空気だし、殺人描写およびシチュエーションもスプラッターな爽快感のあるものではなく、致命傷を負ってから人が死ぬまでの静かな「間」をよく捉えたこちらも実に厭なもの。そうした厭さが効いて「刑事早く来てくれ!」という気持ちにさせられるので、刑事パートも活きてくるあたり好感度が高い。
バケツをひっくり返したようなというかたぶん実際に血糊バケツ的なやつをひっくり返してる血の土砂降りのシーン、吹雪の中下着に近い格好で外を歩き回る男女など、結構撮影も力入ってます(役者さんは大変だったでしょうが…)
『Christmas Cruelty!』(2013)
そしてこちらもノルウェーのクリスマスホラー。三度の飯より強姦殺人が好きな脂気たっぷり殺人鬼オッサンも普段は真面目なお仕事人間であり優しいパパ。こんなことをやってはいけない…いけないんだ…とは分かっているのだが異常性欲は歳を重ねても衰えず、陰でコソコソとシコシコやるもののそんなものでは満たされない。そしてクリスマスの日、ついに殺人鬼オッサンはサンタコスプレをして凶悪な欲望を再び解放するのであった。
なにか、ノルウェーのクリスマスホラー界には観客を厭な気持ちにさせよという不文律でもあるのだろうか。アメリカのスラッシャー映画であれば大抵被害者側の誰かしらは殺人鬼に反旗を翻し撃退してしまうものだが、この映画では被害者がただただ殺人サンタに蹂躙されるばかり。しかも最初の1時間ぐらいかけてダラダラと被害者側のワカモンどもの日常を描写するので、好むと好まざるとにかかわらずワカモンどもに感情移入したところで殺人サンタ乱入→一方的に強姦なぶり殺しの流れ。BGMは対置法的に軽快なもので、殺人サンタ乱入後のあえて弛緩した展開は、そこまでの完成度ではさすがにないが『ファニーゲーム』を思わせる不快感である。
数は少ないながらも頭蓋かち割り脳みそ飛散、ねっとりとした頭部切断など、ゴア描写は手抜かりなし(丸鋸を使った赤ちゃん殺しはさすがに画面外処理)。殺人サンタの昂ぶる異常性欲をサブリミナル的な目のチカチカする編集で表現するところなども含めて、観客に対する嫌がらせとして作られた映画なのかと思ってしまう。
『Hanukkah』(2019)
クリスマスクリスマスと言うがよく考えたらキリスト教のお祭りに過ぎないクリスマスばかりを取り上げるのは公平性の観点から問題があるだろう。今は多様性の時代である。ということでこちらは日付的にはユダヤ教におけるクリスマスといえるハヌカーを舞台にしたハヌカーホラー、ユダヤ人の家系に生まれたがユダヤ教なんか知らねぇよという不信心なワカモンたちがキリスト教徒のワカモンたちと同じようにハヌカー・ホームパーティなんぞをしているところに信心深い殺人鬼登場、血で清めよというわけで殺していくのであった。
ハヌカーにはサンタさん的な存在がいないと思われるのでこの殺人鬼をなんと呼んでいいのかはわからないが、ともかくこの殺人鬼は信仰心が深すぎてどうかしてしまった人、不信心なユダヤ人ワカモンも殺すが頭に鍵十字のタトゥーの入ったファッションネオナチなども殺してその皮を剥ぐのであった。ネタ映画のようだがあんまりネタっぽくやると怒られるかもしれないので作りはあくまでもシリアス。最終的には殺人鬼に殺されないようにユダヤ教の戒律はちゃんと守ろうというラビの説教で終わる…ってなんだそれは! 逆に怒られるよ!
殺人鬼役は『デビルズ・リジェクト』のシド・ヘイグ、説教ラビ役はジョー・ダンテ作品などで知られるディック・ミラーで、ともに2019年に亡くなっているためこれが遺作となった。
『Hallucination』(1986)
空前のZ級サメ映画ブームがネット空間を汚染…いや席巻している昨今。中でもとりわけヘボいZ級サメ映画の作り手として日本のネット空間で認知されているのがマーク・ポロニアであるが、その高校時代に撮影された初期作品がこのクリスマスホラー『Hallucination』、クリスマスの夜にお母さんが夜勤シフトで帰ってこれないことを知った三兄弟が謎の幻覚現象に見舞われ殺し合うという映画である。
マーク・ポロニアはもともと双子の兄弟であるジョン・ポロニアと共に映画制作を行っており、ジョン・ポロニアが2009年に死去するまではポロニア兄弟の名で知られた監督だった。やはり片割れの死は堪えたのか現在はヘボいサメ映画の人となったマーク・ポロニアだが、『Hallucination』は高校生の無予算映画ながらも斧で脳天をかち割る、ウンコをしてたらケツから包丁が出てくる、掃除機の変身した怪獣みたいのが襲ってくるなど、プリミティブながらもSFXや編集マジックを用いたファンタジックな見せ場の多い作品となっており、サメ映画はサメ映画でまぁ面白いとしても、この人が決して単なるサメの人ではないことが伺える。
実はジョン・ポロニアが既に亡くなっていたことはこの感想文を書くためにネットでポロニア兄弟の経歴を調べている時に知った。残酷でバカバカしくも映画作りの楽しさに溢れた『Hallucination』を頭に浮かべながらR.I.P.ジョン・ポロニア。ちなみに「クリスマスの夜にお母さんが夜勤シフトで帰ってこれないことを知った三兄弟が」と書いたので小学生ぐらいの男の子の話かなと思った人もいるかもしれませんが、出演者はポロニア兄弟と友達なのでみんな高校生です。高校生がお母さんの夜勤シフトぐらいで発狂するなよ!