《推定睡眠時間:20分》
なんだか評判のよろしくない映画でそりゃそうだろ綾瀬はるかは悪い役者では全然ないと思うが作品をあんまり選んでくれないので主演映画なんか『本能寺ホテル』とか『今夜、ロマンス劇場』みたいなしょうもないやつばっかじゃんかなんでそこにむしろ期待が出来たんだよと出来の悪さに怒っている人たちに対して怒るというかむしろ呆れるというそれは綾瀬はるかの擁護になっているのかむしろ綾瀬はるかをバカにしてる感じになっていないかとうっすら気付きつつともかく期待一切ゼロで期待しないのだからたとえどんなにつまらなくても楽しむことはできるだろう加算法よ加算法日本人は減算法でばかり映画を観ますからなはっはっはと余裕の構えを取っていたわけですがいや、別に0からの加算法じゃなくてもかなり良かったぞこれ!?
時は大正13年、台湾に置かれた幣原機関とかいうなんか知らんがスパイ機関のようなところで養成されたという女暗殺者の綾瀬はるかは50人ぐらい要人暗殺を行ったのち失踪、現在は東京の玉ノ井つまりいわゆる赤線ですなその一角の飯屋かなんかに身を隠してどう生計を立てているのかはよくわからないが(たくさん殺したからお金はいっぱいあるのかな)とにかくそこで探偵だか弁護士だがをやっている長谷川博己や台湾時代からの盟友シシド・カフカと共に戦間期の平和な日々を送っていた。そんな折事件発生、軽井沢だかの名家に何者かが押し入り一家は惨殺されてしまう。その犯人として新聞に載っていたのは綾瀬はるかもよく知る人物、まさかあの人がそんなことするわけない…ということで一路軽井沢に向かった綾瀬はるかは偶然一家の生き残りの子息と出会う。どうやらこのガキ、理由は不明ながら陸軍と海軍に身柄を狙われているらしく、袖触れ合うも多生の縁ってなわけで綾瀬はるかはガキを守るべく壮絶な死闘に身を投じるのであった。
なんで評判がよろしくないのかはぶっちゃけわかってる。俺はこの映画、まるで押井守の実写映画のようだったから大変よかったのだが、押井守の実写映画は世間一般ではクソというのが痛切な通説である。なんででしょうねぇ。面白いじゃんねぇ。まぁあれだな具体的に言えばさ『リバルバー・リリー』たくさん銃撃戦とか出てくるんですけど今風の実践的なアクションでもなければアトラクション的な迫力や楽しさがあるわけでもない、静かで哀しみ漂う様式美的な銃撃戦で要は美しいがテンション上がらないのですな。カメラはフィックスが基本だしその近接戦など戦いというよりも舞踏のようである。身も蓋もないのだがそのような舞台的なケレン味のある様式美アクションは今の世では求められていないのだろう。押井守の実写映画というのもやはり様式美に満ちたものだった(過去形にはしたくないのだが)
俺に言わせればだからこそなのである。このアサシン綾瀬はるかは『るろうに剣心』よろしく不殺の誓いを立てているので敵は殺さず戦闘不能になれば良しとする。そんなキャラが主人公の映画で銃撃戦でたくさん人が死んでウォー殺せー! って気分になっちゃったらおかしいではあるまいか。そりゃそういう気分になるのは楽しいことではあるがTPOってもんがあるじゃない。もう人は殺したくない綾瀬はるかがそれでもガキ一匹を守るために銃を抜かざるを得ない、敵を撃たざるを得ない、盟友たちを巻き込まざるを得ない。撃てば撃つほど綾瀬はるかの戦いは悲愴の色合いを増して、観客の方は悲しくなりこそすれ気分を高揚させることはできないんである。
そうした殺しの無残を強調するためかこの映画では近年の邦画アクションとしては珍しく弾着を全面的に使用し、銃撃戦となれば激しく血が舞い散り綾瀬はるかの全身は血に染まる。俺はその点だけでもこの映画は充分評価に値すると思うのである。銃で人を撃つと血が飛び出す。おそらくレイティングの関係からこの当たり前を愚直にやっている映画というのはメジャー作品ではそれほど多くない。っていうか全然ないと言っていいくらいだ。あるとしても過剰に血を出すことで逆に銃撃の生々しさを薄めているようなところがある。ところがこの映画の血は違う。銃で撃たれればこれぐらいの血が出るという慎ましい出血を全編に渡って展開している…エライ! と俺は思うんですがどうでしょう、そうでもないですかね…? まぁわかってもらえるかどうかはともかく、銃撃は暴力であるということをこうしっかりと画面に刻みつけている映画というのは俺の倫理観ではとてもエライ映画なのである。
その舞台的なケレン味志向からいって鈴木清順の『ピストルオペラ』や石井隆の『黒の天使』あたりを参考とした映画なのかもしれない。銃の持つ暴力性を誠実に描いているという点もこの二人の独創的な監督と共通する。終盤、濃霧の中の敵を綾瀬はるかが撃ちまくるシーンが出てくるが、そうした幻想味は鈴木清順や石井隆の映画ならありそう(というかある)と思わせるところだ。敵は霧の向こうの見えない誰か。だから撃っても撃っても敵が消えることはない。その敵は暗殺者の業を背負った綾瀬はるか自身かもしれないし、いずれ破滅に向かう大日本帝国という巨大にして得体の知れないものかもしれない。これは空転する暴力の虚しさを描いた反-暴力映画なのである。
それにしても綾瀬はるかの大正モガメイクはかなりバッチリ決まってたな。おれ綾瀬はるかはそこまで美人と感じたことはないんですけどモガはるかは土下座したくなる美人加減でした。そうかこういうメイクとかファッションが似合う人だったんや。その綾瀬はるかが舞うように戦うのだから満点もう満点です。漫画的に誇張されてはいるがコミカルというほど振り切れてはいない共演陣の芝居も劇画的で面白く、それから音楽も沈痛なアンビエント中心でかなり良くて、大正オープンセットの書き割り感も様式美の映画と思えばこのさい味だ、ストーリーも王道ハードボイルド仕立てで変な飛躍がないのが地味といえば地味かもしれないが俺はそういうのが好きで、あと綾瀬はるかと仲間たちの関係性もなんか良いんだよね、ベタベタしなくて乾いてるけど水面下では親友や恋人以上に繋がっててお互いに命を預けてる感じっていうかさ…いや、これやっぱイイ映画だったと思うなぁ。
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『ピストルオペラ』っていうか鈴木清順の映画だって結局コアな映画ファンが熱狂的に支持しているだけで一般的にはわけわかんなくてつまんない映画だと思うので、ああいうイメージでやりましょう(というやりとりがあったかは不明だが)という『リボルバー・リリー』が一般ウケするわけないというのはそれはそう。
武田梨奈 主演で撮って欲しかった。銃より空手メインになりそうだけど…。
武田梨奈さんはなぜかスター街道を蹴って(?)地方映画のアイドルになってしまわれた…
東映特撮で敵幹部役とかやってたらスター街道のルートが変わってたのかな?
なんでそうならなかったんですかねぇ。いや、今からでも行けると思うんですけど…