《推定睡眠時間:25分》
ジャンル映画の続編ものに前作とどう繋ぐかのルールなしと偉大なるジョン・ウーは『男たちの挽歌Ⅱ』で教えてくれたものだがとはいえ、いや、だからこそと言うべきなのかもしれないが、あのラストから果たしてどう繋がるのかは顔面破壊スラッシャー『クロムスカル』の続編であるこの映画『クロムスカル リターンズ』を観るに際して気になっていたことで、というのも前作ラストでどう見ても殺人鬼クロムスカルは顔面をぶすぶすにぶっ潰されて死んでいたので、実は生きていた系の話法は使えないだろうと踏んだのである。
俺の予想はこうだった。前作『クロムスカル』は殺人鬼が背の高い男である点や町の死体安置所から始まる点などから類例のほとんど見当たらない唯一無二の夢幻ホラー『ファンタズム』の影響を色濃く感じさせ、『ファンタズム』と違って『クロムスカル』は悪夢的な雰囲気を漂わせつつもあくまでも現実の話ではあったのだが、続編であれば「実はあれは夢だった!」も使える。前作主人公が前作ラストで殺人鬼クロムスカルを殺したのは残念ながら夢だった…こうした開幕がまず考えられるだろう。あるいは殺したのは現実でもトールマンが現実的な存在とは限らない。確かに殺したはずなのに夜になれば夜霧に紛れてヤツは何度でも現れる…こんなより『ファンタズム』に近いシナリオの立て方、キャラクターの立たせ方もあるかもしれない。ジェイソンだって不死身の殺人鬼キャラが定まったのようやく5作目からとかだし。
答え合わせのコーナー。正解は殺人鬼クロムスカルはめちゃくちゃ瀕死だが一応生きていて、前作ラストで惨劇の舞台となった店に駆けつけたパトカーは警察のものではなく実はクロムスカルが頭目を務める謎の組織スカル団のもの、迅速に事件の痕跡を消去すると共にボス=クロムスカルを運び出したスカル団は巨額の報酬であんなにどう見ても死んでる人を蘇らせることのできるスーパー外科医を雇ってクロムスカルを治療、かくして見事クロムスカルは復活し再び刃物と殺人ビデオ撮影用のカメラを手に取るのであった。
謎の組織スカル団…いったい何者なんだ。仕事をサボって携帯ゲーム機で遊んでいるティーンエイジャーと思しきメガネをバイトで雇っているご近所感と死んだ人を蘇生させるドクターを知っていてしかも雇える財力にあまりにギャップがありすぎるこのスカル団、そもそも何をしている人たちなのかが謎の組織なのでわからない。世界征服を目指しているわけでもない。殺人は好きだがそれを目的としているわけでもない。クロムスカルは殺人ビデオ撮影をしていたので殺人ビデオを作って売ってる組織なのかなと思っていたが組織のナンバー2が「ボス! 勝手に殺人ビデオなんて撮られちゃ困りますよ! もうあんたにはついていけない!」とか言っていたので違うらしい。あれボスの個人的趣味だったんだ!
スラッシャー映画に頭の良さを求めるのは無粋だろうと俺は思う。しかし…コメディでもないのにちょっとこの設定はバカすぎないだろうか。バカなのは設定だけではない。殺人鬼はクロム製のドクロマスクを着けていたというサバイバー証言から担当刑事は近隣のクロム工場に目星をつけて殺され要員の捜査員を一人だけ送り込むのだが殺人鬼がクロム製のマスクを着けていたから近隣のクロム工場があやしいという発想がまずおかしい。そりゃ聞き込みぐらいはしてもいいとは思いますけれどもその時点で別の被害者がスカル団に拉致されてるから明らかに優先順位がおかしいんだよなぁ…と思ったらこの刑事の直感は当たりそのクロム工場がスカル団のひみつアジトだったのだ!
前作も今作も頭部破壊にやたらと拘りを見せるこのシリーズだが、シナリオを書いている方(監督のロバート・ホール)の頭部まで破壊されてしまったのだろうか。いや、もしかするとこの執拗な頭部破壊はかのブルース・リーがクンフーの極意として伝授した「考えるな! 感じろ!」を視覚的に表現したものなのかもしれない。本職は特殊メイクアップ・アーティストのロバート・ホールにとって「感じさせる」ことはなによりも大事なことのはず。観客に感じるよりも考えさせてしまったらその特殊メイクは失敗だろう。そうした映像哲学がこの『クロムスカル リターンズ』には込められているのかもしれない。
しかし人気のない夜の田舎町が舞台だから不気味なムードがあってよかった前作に比べてこの続編の方はもう少し栄えたところが舞台だし謎の殺人鬼だったクロムスカルもスカル団の頭目という属性を与えられて背景が見えちゃったから不気味さがなく、個々の頭部破壊も技術的にはそうでもないのだろうが前作に比べてパッとしないというか、いろいろと余計な要素が邪魔してそこだけキラリと光る感じがない。シンプルな映画だったからこそ考えることなく感じることのできた前作に対して、こちらはあまり感じる映画にはなっていないんじゃないだろうか…。クロムスカルVS二代目クロムスカルの座を狙うナンバー2の戦いとかいったってそのナンバー2続編でいきなり出てきたやつだし盛り上がったりできないぞ別にそれ、その対戦カードは。どうせ初代クロムスカル勝つわけだし。
予告編にハリウッドを練り歩くクロムスカルの映像があったのでへー今度はハリウッドの繁華街で、と思いきやこれはエピローグに過ぎず、次回作ではクロムスカルがついにハリウッドへという匂わせのためのオマケ映像であった。ちくしょう騙された。あとハリウッドに向かったクロムスカルを秘書の女が「その街を選ぶとは…さすがボスです」とヨイショしていたが誰でも思いつくだろと思うしその街を殺人の舞台に選んだからなんなんだよ。お前らの仕事はいったいなんなんだよ!
【ママー!これ買ってー!】
日本ホラー界の考えるな感じろ派といえば北村龍平ですがその渡米二作目のこの映画も特殊メイクがロバート・ホール、なにかやはり通じるところがあったんでしょうか。