《推定睡眠時間:0分》
アメリカにはピザがある。あらゆるところにピザがある。ニンジャもいる。あらゆるところにニンジャもいる。そして喋る脳みそもいる…まだ就学年齢に達していない幼少期の俺がアメリカという国を知ったのは恐らく『ゴーストバスターズ』『ホームアローン』そして『ミュータント・タートルズ』であった。黄色いツナギ姿のテレビリポーター・エイプリル見ればなんとなくアメリカはたいへん進んだ国だと思い、メトロポリスニューヨークの荒んだ街景を見ればなんとなくアメリカはたいへんおそろしい国だと思う(これには『ファイナルファイト』の影響も確実にあるが)。未来と危険のダブルの誘惑をたたえた国、アメリカ。そんな『ミュータント・タートルズ』の世界が幼少期の俺にとっては現実のアメリカだったのだ。
そんな『ミュータント・タートルズ』の2023年最新作は既に幼少期を脱した俺にもしっかりとアメリカを叩き込んだ。ビーバップとロックスティディといえばシリーズのファンにはお馴染みのイノシシとサイのミュータント、毎回タートルズの前に立ちはだかっては絶妙な使えなさでさっさと撃退されるおとぼけ悪役コンビであったが、そのビーバップが、ビーバップが、び、ビーバップのち、乳首に…ピアスが付いており…両乳首がピアスの重みで垂れ下がっている…!
衝撃的なアレンジだった。乳首にピアス…たしかにビーバップは不良(?)サングラスをかけているし頭はモヒカンだし鼻にはピアスがついている。そのストリート感性なら乳首ピアッシングを施していても不思議ではないかもしれないが、これはタートルズというコンテンツにあってはいささかオトナの魅力である。想像してしまうではないか。ビーバップが女王様に乳首ピアスをビーンと引っ張られてアアッウウッも、もっと強くお願いします…なとど恍惚の表情で懇願している姿が。ここへきてタートルズは俺にアメリカの性文化をも叩き込もうとしているのか…そんなものは見たくなかったがしかしそれもアメリカと言われば否定はできない…いや、しかし、だが…なぜタートルズでちょっとマニアックなSMプレイを学ばなければいけないのだ? してみたくないと言ったら嘘になる、俺も女王様に乳首ピアスを引っ張られてブサイクに伸びた乳房を嘲笑ってもらいたいという願望がないとは…そんな話はしてないだろ!
やめよう脱線なくそう下ネタ。映画にわかは現在映画感想美化運動に取り組んでおります。ということで『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック』ですが泣いた。タートルズで泣いたよ。なんでもかんでも泣かせを入れりゃいいってもんじゃないしタートルズは軽妙さがやはり大きな魅力であったわけだからそんなもの期待していなかったのだが(そもそも泣きを期待する映画なんかない)悪役との最終決戦でのあの美しい連係プレーを目にしたら自然と涙があふれ出してきてしまった。今回はストリート・カルチャーがテーマのようなので出てくるキャラもホワイトカラーなどではなくストリートの生き物たちばかりなのだが、そのストリートの連中がな、強大な力を持つ悪役を前に文字通り手を取り合って戦う。
主な舞台を大都会マンハッタンとしつつもタートルズに漂うのは濃厚な下町ブロンクス感だったのだが(タートルズの住むマンハッタンの下水道とはブロンクスのイメージで創造されたものだったのではないだろうか)、そのブロンクス感が件の最終決戦では全開。俺たちゃ下町の生物じゃいという矜持すら感じられてこんなものは泣くしかない。今回はエイプリルだって昔のスレンダー美人じゃなくてドレッドヘアで首から上はかっこよくキメてるがそこから下は横幅の広い短足チビとかいう下町体型のしかもキャスターですからなく単なる高校生だからな。都会的スレンダー美人がなんぼのもんじゃい! こちとら脂肪にエネルギー蓄えてるから災害とかあったら生き残るのはこっちじゃい! しかしこういうついつい好きになっちゃう女キャラを作るのが上手いねこの監督は。ネッフリアニメ『ミッチェル家とマシンの反乱』の主人公メガネお姉さんとかもめっちゃ好きだったよ。
ストリートアートのイズムで作られたアニメなので映像のタッチは統一感なくブリコラージュ的な使えるものは何でも使え、『スパイダーバース』ほど目まぐるしいものではないだろうがバスキア風の描線もあればコミック的に塗ったところもゴッホのように荒々しく塗りの厚い油絵のようなところもあって実写映像の引用と切り貼りも多い。「三人のクリス」のくだりは笑ってしまったよな。折よくそのうちの一人のクリスの映画監督デビュー作がクソ作として散々な評価を受けているところでもあったし。3DCGアニメだがモデルの部分はクレイアニメ風に撮られていてあえてカクカクした動きになっているのが面白い。これも下町的暖かみってやつでね。
なにか難点があるとすれば今回はコメディアンのセス・ローゲンが結構本腰を入れて絡んでる企画なのでタートルズの掛け合いの部分は個性が出ていて面白いのだが、バトルシーンになると四人のバトルスタイルの違いがあまりわからずアクション的な面白味に少し欠くところがある。人種差別の乗り越えが物語のテーマとなっているというのもあり、さすがに最後は派手なバトルが繰り広げられるのだが、バトル面での見所はこれまでのタートルズと比べると少なかったかもしれない。ドラマ面では笑えるところも泣けるところもあり充実してるんすけどね。スプリンター先生も今回は師範的な頼りがいはなく子供思いのやさしいパパって感じで(でも俺はスプリンター先生には師範でいてほしいとおもう)
思いがけない見所…というか聴き所は音楽だったのだが、ストリートな映画ということでヒップホップを中心とした既成曲が…ではない。もちろんそこもヒップなホッパーの人には大いに聴き所だろうが、俺としては劇伴の方に「おおっ!」と思った。というのもまさかこの映画でこのコンビが起用されているとは思わなかったのだがスタッフロールを見て驚く劇判担当トレント・レズナー×アッティカス・ロス。今やロスとのコンビですっかり映画音楽の人となってしまったトレントだが、映画音楽の人となったことで近年の担当作では自分のカラーを抑えて映画のトーンに合わせた職人的曲作りをしていたように思う。
ところが今回、スタッフロールでは最近の映画には珍しくポップス既成曲などではなく劇伴メドレーが流れるのだが、そのメドレーときたらナイン・インチ・ネイルズのミニアルバムが如し、いやこれは過去の劇判担当作と比べてももっともトレント・レズナーらしい曲作りを行った映画なのではあるまいか。あの基調音のこもり具合とかすごいナイン・インチ・ネイルズっぽくて…曲によってはボディ・ミュージックに回帰したような路線のものもあり…いやこれはかなり良かったな。スコア盤サントラ欲しくなったもん、ナイン・インチ・ネイルズの新譜として。
最後にあ、そういうことなの? って思ったところ。前に劇場で見た予告編はたしか日本語吹き替え版でドナテロの声が女の声優さんだったようなのでへぇ今度のタートルズはドナテロが女の人設定なのかぁとか思っていたのだが、さにあらずでこれまで通り全員性別オス設定、ドナテロは原語では声変わりしていないキッズなので女の人ボイスっぽくも聞こえるということなのだった。タートルズが全員オスであることにとくにこだわりなどはなくみんな仲良しでピザ好きならそれで良い派のゆるタートルズ好きなので女ドナテロも見てみたい気がしたのだが、変なハシゴの外され方をしてしまった。まぁでも日本アニメでは伝統的に子供男児を女声優がやってるからおかしな声優チョイスではnないのだが、ほらタートルズの場合見た目で性別が判断できないからさ…そこらへん難しいよね。難しくはないか。
ということで新生タートルズですけれどもまぁ深いこと考えずともパロディとジョークいっぱい(空手ハウツービデオとカンフー映画ビデオで忍術を学ぶぞ!)でたのしいたのしい、案外ピザとカワバンガの出番は少なくスプリンター先生がせっかく用意してくれた大量のピザを無視するなどのお前ら先生に土下座しろシーンなどもあるが、タートルではいや違う違うトータルではとてもよい映画であったからみんな観なさい。そしてビーバップの乳首ピアスにアブノーマルな大人の世界を垣間見ろ!
【ママー!これ買ってー!】
スーパー7 ミュータント・タートルズ アルティメット ビーバップ 7インチ アクションフィギュア
昔のビーバップは街のファンキー兄ちゃんみたいな感じだったのだが年月を経て腹部は太鼓腹と化しついには乳首のピアスまで…人に歴史あり、ミュータントにも歴史あり。
吹替版ドナテロの声優さんは男性の方ですよ〜!今回のタートルズは過去作と比べてあどけなさが残るかわいい感じになってた気がするので、言われてみれば初見では性別どちらにも取れるかもですね。
でも可愛かったからヨシ!
あれ男の人の声なんですか!女の人かと思ってました…それで、勝手に「時代に合わせてタートルズも変わるのだなぁ」とか思っていたものです笑