《推定睡眠時間:55分》
日本のメジャー映画はそんなに難しいことでもないような気がするのに案外テロップに拘らないというかテロップをデザインするという発想がそもそもないようなものが多くてデザインされたテロップの出てくることが当たり前の外国映画(なにもハリウッド大資本映画とかのことではなくどこの国の娯楽映画も基本的にそうである)に見慣れた身からするとちょっとだけ不満な感じだったのだがその点この映画『お前の罪を自白しろ』はしっかりとタイムカウントのテロップなんかがデザインされていたしタイトルロゴも新聞とかから色んなフォントの文字を切り貼りした例のアレ的な誘拐脅迫文風、ところでこのタイトルロゴは総理と近く次期経産大臣と言われる野心にぎにぎの腹黒政治家(堤真一)の孫を誘拐した犯人から届いた電子メッセージの長い脅迫文面からその部分だけが浮かび上がりタイトルロゴに…というなかなか気の利いたものだったのだが、なんで電子メッセージなのに例のアレ的な誘拐脅迫文デザインなんだろうね。
紙の脅迫文なら筆跡鑑定で特徴を割り出されないように新聞とかの文字切り抜きで文章を作るというのはまぁわからないでもない。でも筆跡の残らない電子メッセージだしな。MS明朝とかでよかったんじゃないかな普通に。しかもこの誘拐脅迫文正確にはテキストメッセージではなくわざわざ動画になってて上から下にテキストがスクロールするんだよ。なにその手の込みよう。愉快犯ならこんなゲームじみたっていうかマンガじみたっていうかな誘拐脅迫文動画作って送る人もまぁいるかもしれないけどそのわりにこの犯人あんま被害者で遊ばないし…それ以上は犯人のネタバレになってしまうといけませんからねと別にネタバレになってもこんな映画なら構わないだろとは思うが一応の配慮を見せる俺のやさしさをみんなわかってない!
まぁ、そういう映画だよ。それぐらいのリアリティラインのさ、テレビの二時間サスペンスをちょっとだけ映画向けにゴージャスにしたようなっていうか、もうだって演技だってすごいんだから、誘拐捜査にあたる熱血警官が「ヨォ~~ジョのぉ? い~~~のちがかかぁっているぅんですヨォォォォォォ!?」とか上司の捜査方針に異議を唱えるところなんかの芝居のクセが強すぎて歌舞伎かと思っちゃった。コッテリしとる、コッテリしとってイイですね。堤真一の腹黒政治家も実にクサいコッテリ芝居をしており、そのザ☆昭和の政治家キャラおよびコテコテの表情は見ていてたのしい。狂った人は「ヒ~ヒヒヒヒヒ!ヒィ!」って叫ぶしな。バカか。
主にコメディ映画で知られると思われる水田伸生が監督ということで誘拐&政治サスペンスは畑違いだが大丈夫かと思っていたが大丈夫ではなかった。けれどもその大丈夫でなさはテレビの二時間サスペンスとかではむしろ普通だろうし土日ならともかく疲れ切って鑑賞中の睡眠が確定している金曜夜の仕事帰りにはちゃんとしたやつよりそういうやつの方が観たくなる。過剰な説明台詞が続いてストーリーの方は遅々として進まないという問題はあるがそれは裏を返せば進まないうちに眠ってしまっても起きたところで状況を説明してくれるから寝るのを躊躇しなくていいということである。これは観客にやさしい。サスペンスもしくは政治劇として面白いかどうかはともかく、ともかくというか捻りはないしディテールも無なので面白くはないが、やさしいから気楽に楽しめる映画であることは確かである。
まぁ気楽に観ましょうよこういうのは、クサいな~とかベタだな~とか(一人で)言いながら。日本の政治に物申す的な内容かと思わせておいて直接政治の問題に切り込むことはなく最終的に世襲政治の肯定に辿り着いてしまったので観客みんなで応援する代わりにツッコミどころで観客みんながズッコケるズッコケ上映なら俺あそこで食べかけのポップコーンぶちまけてズルゥゥゥゥ!ってジョジョ的な擬音鳴らしながら椅子から転げ落ちてたよ。みんなで一斉にそれやったら楽しいと思うのでコロナ禍の沈黙期を経て最近インド映画中心に応援上映も復活しつつありますし、『お前の罪を自白しろ』、ズッコケ上映やりませんか? やらない!
【ママー!これ買ってー!】
テレビ的・マンガ的なクサみのある群像サスペンスで主演が堤真一ということで微かに被るのは原田眞人が監督した映画版『クライマーズ・ハイ』。『お前の罪を自白しろ』も原田眞人向きのネタだったかもしれない。