幽霊も人間もどっちも怖い映画『トンソン荘事件の記録』感想文

《推定睡眠時間:0分》

殺人行為を記録したいわゆるスナッフビデオのかなりタチの悪いやつが韓国にあるらしいというところから話が始まるモキュメンタリーなのでいったいどんなおぞましい映像がと思ったら「そのビデオに変なものが映っていましてね…」と語る捜査関係者、スタッフがビデオを確認すると殺人者の背後になにやら人影が映り込んでいるように見え、「この幽霊はいったいなぜここにいるのか?」などと監督のナレーションが入るので、その驚きのなさに驚いてしまった。いったいなぜここにの前にそもそもこれはなんなの的な段階があるだろ。幽霊の存在ありきで話を進めるんじゃない。まず幽霊のように見える何かに君たちは少しぐらい驚きなさい。驚いたのちにそれが本当に幽霊なのか検証してそれから話を先に進めてくれ。真面目なドキュメンタリーの撮影クルーという設定なのに君たちの幽霊咀嚼があまりにも早いものだから俺は驚いとる。驚いとるよ!

というわけで始まる幽霊の身元大調査。うーむ幽霊が理由もなく殺人現場に紛れ込むこともないだろうから事件の起きたトンソン荘の関係者にゆかりのある霊なのでは? ということで関係者の身元を洗っていくのだが幽霊の存在を前提として受け入れた上で幽霊がここに来たのは理由あってのことと一秒も悩まずに確信して人間側の闇を暴こうとする姿勢がなんか知らんが新鮮である。考えてみれば心霊ビデオも含めてモキュメンタリーというのは起源不明の怪現象の不気味さを強調するために用いられる手法。ここにはこういう曰くがあってと過去の惨劇を聞かされた上で幽霊を目撃しても確かに怖いだろうが、そんな前情報のなにもない状態でいきなり幽霊を目撃したら心の準備ができていないものだから何割か増しで怖かったりすることだろう。

その意味でこの『トンソン荘』はモキュメンタリーホラー的な怖さ面白さは薄く、映画サイトとかでジャンルを見るとガッツリ幽霊出てくるのにホラー/ミステリーとか書かれているように、ミステリー映画的な興趣の方が強い。しかしそこは韓国映画だってんで終盤は幽霊に乗り移られた人が次々と人間を襲撃し動物を屠りのまさしく血祭り、ゆーてそこまで画面には血映りませんが幽霊はやたら出てくるものの生物に実害をもたらす幽霊は案外少なめな日本の心霊モキュメンタリーと違ってこちらは犠牲者出まくりです。日本の幽霊はきっと大人しい人がおおいのだろう。

最初ミステリーで最後オカルトバイオレンス。一粒で二度おいしい。その一粒がいささか小粒という気はするが、当たり前のように出てくる祈祷師の儀式や廃墟捜索に少しの躊躇いも見せないスタッフ、証拠隠滅のためにスタッフの事務所を火炎瓶で襲撃する犯人など、展開もキャラクターも「ガンガン行こうぜ」。このアグレッシブなノリならモキュメンタリーにしないで普通に撮った方が面白かったのではと頭をかすめもするとはいえ、楽しい映画でございましたっ。

【ママー!これ買ってー!】


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案外オカルト味よりもミステリー味の方が強いモキュメンタリーということで昨年話題を呼んだ『女神の継承』もちょっと彷彿とさせなくもない『トンソン荘』です。

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