犯人が綾瀬はるかに似すぎ映画『デシベル』感想文

《推定睡眠時間:0分》

予告編を見たら周囲の音を感知して爆発する爆弾が出てくる映画のようだったのでそこから『スピード』を連想するか『新幹線大爆破』を連想するかは人によって異なるだろうが『スピード』も『新幹線大爆破』もめっちゃおもしろい映画の代表格であるからこれもおもしろいに違いない韓国映画だしと思って観に行ったらあれなんか違うな…という『白頭山大噴火』のパターンであった。

ざっくりプロットは潜水艦事故から生還し英雄として祭り上げられた副艦長が何者かの恨みを買い周囲の騒音が閾値を超えると即爆破、とはならず爆破までの時間が半分になっちゃう中途半端なギミック付きの時限爆弾を街中に仕掛けられ、副艦長はそれを解除するために韓国のシティを東奔西走しながら犯人の正体に迫っていくが、それは意外な人物だった…みたいなやつ。

爆弾が音に反応するタイプなのは潜水艦が水中の音を捉えるソナーで疑似的に視界を確保するためだろう。この犯人わざわざそんな凝った仕掛けの爆弾を作るぐらいだからさぞや潜水艦を憎んでいるのだろうと思ったら違った。この騒音感知ギミック、犯人が爆弾魔になった動機とあんまり関係ない。っていうか街中に爆弾を仕掛ける動機が動機になってない。それどころか『スピード』とか『新幹線大爆破』みたいな爆弾処理をどうするみたいな話にはならず後半は犯人と副艦長の因縁を描く過去編に入ってしまいむしろ爆弾とかちょっとした添え物程度の扱いになってしまう。

『白頭山大噴火』は予告編から想像されたようなパニック映画からはかなり外れたスター総出のアクションロードムービーみたいな映画だったが、こちらも予告編から爆弾パニック映画と思わせておいての潜水艦乗りの男たちの因縁と友情みたいな、なんかそういう感じの潜水艦だけにウェットなサスペンスであったというこの残念な意外性。こんなに面白そうな韓国映画なのに東京のシネコンでは新宿バルト9ぐらいでしかやってないの? と観る前には思ったが、広く上映されないことにはそれなりの事情もあるのであった。

もちろん爆弾パニック映画じゃなくても面白ければそれでいいのだが、そんなに面白くない。これはこの映画に限らずそれこそ『白頭山大噴火』とか『非常宣言』みたいな近年の韓国映画超大作にありがちなことだが、いろんな面白い映画のオモシロ要素を節操なくパッチワークしたらまぁお祭り感みたいのは出るが迫力とか整合性がなくなってあらゆる面で中途半端になってしまった。

たとえばポリティカル・サスペンスとしてどうかということ。韓国の娯楽映画で潜水艦=軍隊が出てくるので当然のように体制側の陰謀的なものが絡んでくるのだが、この犯人のこの動機なら別に陰謀要素わざわざ噛ませなくてよくない? と思うし、逆に一枚噛ませたならガッシリと物語に組み込んで、最終的に犯人がその陰謀を仕組んだ連中を爆破成敗しに行くとか、そういう展開を作ったらいいと思うのだが、そうならないので「それ、いる?」って感じで面白くなるどころか白けてしまった。

あるいは途中で副艦長に同行する新聞記者のオッサン。爆弾解除のバディものといえば『ダイ・ハード3』のブルース・ウィリスとサミュエル・L・ジャクソンなんかが頭に浮かぶが、この新聞記者のオッサンはサミュエル・L・ジャクソンほど物語に絡んでこず(『ダイ・ハード3』のサミュエル・L・ジャクソンも大概ブルース・ウィリスの横にくっついてるだけであんま意味はなかったのだが)、ちょっとした賑やかし要員程度の存在意義しかない。

副艦長の妻は都合良くもなんと爆弾処理班の隊長みたいなポジションということで犯人は副艦長に『ダークナイト』よろしく「解除できる爆弾はひとつだけだ。妻と子供、さぁどっちの爆弾を選ぶ!」などと迫るのだが、爆弾の威力がそんなでもなかったのでボムブラストスーツを着た妻は無事だったし周辺の建物にも別に被害とか出なかった。これではなんのために選択をさせたのかわからないし、妻が出てくるのはそのシーンぐらいというオモシロ要素の使い捨てっぷりであった。

そういうところがちょっとこの映画多過ぎじゃあないかと思う。騒音感知ギミックもうまく活用されているとは言いがたく、普通こういうギミックがある爆弾ならどうやって周囲の音を止めるか(そしてどんな予期せぬ出来事によって努力が水泡に帰すか)という点が面白さになると思うのだが、音を止める方法および過程は非常にアッサリしていてハラハラ感なし、最後の方に出てくる爆弾ともなるともう騒音感知ギミックも搭載されていなかったので『デシベル』なんていうタイトルは嘘ではないがミスリード感ありありである。そういうところが、ちょっとこの映画は多すぎるのである。

なんか変に色々付け加えたりしないで副艦長と犯人の因縁を軸にした潜水艦ドラマにすればよかったんじゃないのと思うし、実際その部分はミリタリー描写に強い韓国映画だけあってちゃんと引き込まれるものになっているのだが、まぁ、想像するにそれだけだと企画通らないってことなんじゃないすか。だから爆弾が出てきてその爆弾には音のギミックがあって体制側の陰謀があって主人公の妻は爆弾処理班で…とかどんどんオモシロ要素を付け足していく。そうしていくうちに映画の主軸となるべき潜水艦ドラマはどんどん削られて軸の定まらないブレブレな映画になってしまった。実際にそうかどうかは知らないけれども。

ただね、これはとても良かったという点がひとつありましてね、それは犯人の顔がかなり綾瀬はるかに似ているということです。髪型を綾瀬はるかにしたらレタッチなしで98%綾瀬はるかだろってぐらい似てたと思います。そこ、良かったですね…良かった点なのかそれは?

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