《推定睡眠時間:15分》
タイトルのニュアンスも含めて『アンダー・ザ・シルバーレイク』の影響下にあることはほぼ間違いないと思われるこの映画は見ようによってはSFホラーで見ようによってはシュールコント。数多くのヒッピー・アーティストがかつて暮らしたLAローレル・キャニオンの汚いアパートに引っ越してきたズボラなバーテン男は部屋で見つけたなんとも不安定な謎のガラスオブジェ(男は灰皿と推定)が光を放ちながら宙に浮くのを隣人のハゲと共に目撃してしまう。周期やメカニズムは不明だがその後も何回か同じ事が起こったので幻覚のたぐいではないらしい。これは大変なことだ…よしドキュメンタリーに撮って売ろう! 金持ちになれるぞ! かくしてズボラとハゲは『パラノーマル・アクティビティ』の要領で部屋で起こる地味な異常現象のドキュメンタリーを撮影しはじめるのだった。
明らかに既知の科学法則を超える現象を目の当たりにしているのにそんなもの撮ってる場合かと思うのだがその撮影もそんなにやる気がないというのはやはり観客にツッコませようとしているんじゃないだろうか。今日もまた灰皿が飛んだのでダラダラと撮影準備をしながらタイトル案を練る二人。「『光の中のなにか』、これがいいだろう。光ってるし」「いや、実は俺には考えがあってな、見てくれこのドア…建てつけが悪くちゃんとしまらない」「ああ」「だからタイトルは『閉じない扉』だ」「……まぁ、そうだな、うーん、それも悪くないがちょっと音節が多いんじゃないか?」「なんだよ音節って! お前のタイトル案も大して音節数は変わんないだろ!」
バカの会話だが演出はきわめてシリアスでBGMなどホラー的。そのギャップがおもしろい。ズボラの名前をネットでなんとなく調べたら性犯罪者前科者リストに同姓同名の人が載っているのを発見してしまうハゲ。二人の間に緊張がはしる。性犯罪者だと…? いったいこの男は何をした…? しばしサスペンスなムードが続くがその間にも灰皿は光を発しながら宙に浮いてるのでたしかに隣人が刑期を終えたとはいえ性犯罪者であると知ったら動揺はするかもしれないがそんなことを追求している場合ではないしそこにサスペンスムードは別に出さないでよい、みたいなシーンが続く。ちなみにズボラの性犯罪の前科とは幼稚園の壁に立ちションしたことによる公然わいせつ的なやつだった…。
ズボラの方はバカなバカだがハゲの方は訳あって今は電動キックボードの充電で生計を立てている(謎の生計手段!)元数学教師、最初はバカと真面目の役割分担でのシュールコントかと思ったのだがハゲの方は日常生活を送る上でなんの役にも立たない知識が頭にありすぎてズボラおいてけぼりでどんどん論理を飛躍させ勝手にあれもこれもと結びつけて壮大な陰謀論体系を空飛ぶ灰皿から編み上げてしまう学のあるバカだった、のでいつまで経っても横滑りするばかりで話がちっとも前に進まない。単調とも言えるが、笑い飯やポイズンガールバンドのようなダブルボケスタイルのシュール笑いとも言えるので、その話の進まなさをどう受け取るかで評価はけっこう変わりそう。
まぁシュールコントとして受け取ったとしても2時間弱の上映時間はちょっと長いので途中から飽きてくるが、二人のドキュメンタリー撮影パート(※POVではありません)にちょいちょい完成した劇中ドキュメンタリー映画からのインタビュー映像が挿入され、これが真顔のツッコミの役割を果たしているので多少は飽きない工夫もある。「それで、あなたは私たちに〇〇教授を紹介してくれたわけですね?」「ええ、幻覚でも見てるのかなと思って…あの教授はそういうの詳しいですから」「精神医学とか心理学とかの教授なんですか?」「いや、音楽史の教授」ズコー!
こんな変な映画も『アンダー・ザ・シルバーレイク』の後ではさすがにインパクトは薄いが、超常現象のショボさがそんなもので一攫千金を狙う人生の上手くいかなかった二人のバカの背中に哀愁を漂わせ、シュールでくだらなくて笑っちゃうけどちょっと自分の姿を重ねて切なくなるというのは『アンダー・ザ・シルバーレイク』にはなかったこの映画のよいところ。万人に勧められるものではないが、この貧乏感にグッとくる人でかつ基本的に部屋の中でダラダラとおっさん二人が話しているだけの作劇に抵抗がなくシュールコントが好きで陰謀論とかムー系のネタにわくわくするという人ならば楽しめる映画ではないかと思う。ターゲットが狭い!! っていうかそれは俺だよ!!
※ただしラストシーンの解釈によってはゾッとさせられる話ではある。