みなさま明けましておめでとうございます!!! …と元気よく書き始めようとしたタイミングで能登半島大地震勃発。大いに書く気を削がれたのでこれを書いているのは地震発生から10時間後、地震の規模に対しての被害者数が少なくともこれを書いている時点では比較的少なかったらしいということがわかってからであった。いやー、なにも正月に起こってもらわないでも…と思いつつ正月だから家に家族で集まってる人とかが多くて逃げ遅れる高齢者とか動けなくなって助からない人とかが少なかった可能性もあるような気がしたので、不幸中の幸いということもないのでしょうが、最悪の被害は免れたのかもしれないっすね。
という波乱の2024年開幕、だがまずは去年一年の振り返りだ。反省なくして前身なし。誰が言っているかは知らないがきっと人類史のどこかで何らかの偉人がそんな言葉を残しているに違いない。2023年、俺が超個人的にこれがベストだなと思った映画10本+1本を誰の役に立つかまったくわからないが、どうぞ!!!
※タイトルは観たときに書いた感想文のリンクになってます
【人生を感じたベスト】
『エンパイア・オブ・ライト』
映画は光と影の芸術だなんて言いますが光と影でできているのは人生も同じです。廃館も近そうなクラシカル映画館従業員の影おおめでもそこに差し込む一筋の光はまったく眩しい人生の1ページを透徹した眼差しで捉えたこの映画、そうだよな~人生こんなもんだよな~ということでたいそう沁みました。主演オリヴィア・コールマンおよび朽ち往く老映画館をどこまでも魅惑的に映し出した撮影ロジャー・ディーキンスはいずれも2022年度の俺デミー賞10個受賞。
【魂吸われたベスト】
『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』
こんなもんは映画としての出来がどうとかそんな話じゃあなくてですね初めて買ったCDがボウイ1995年の異端傑作アルバム『アウトサイド』という遅れてきたボウイファンの俺ですからベストにしないわけにはいかないわけですよ、ええ。ボウイ最後のワールドツアーは2003年作『リアリティ』リリース後のリアリティ・ツアー、その模様はライブDVDを買って何度も観ているが、ついぞ本人を生リアルで体感することは叶わなかった…。この映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』はジャンル分類上はドキュメンタリーとなっているが、内容的にはボウイ曲とボウイ映像が2時間超ぎっちり詰まったフィルム・ライブ。初出の映像はほとんどないはずのでコアなボウイファンが何か新しいものを得ることはないだろうが、もう二度とリアルには体験できないボウイの世界を映画館の暗闇の中で疑似的に体験できる、俺のような出遅れボウイファンからしたらこれは堪えられない映画だ。
【思考たゆたうベスト】
『独裁者たちのとき』
アーカイブ映像から切り抜かれた第二次世界大戦時の欧州各国指導者+αが黄土色の冥府を夢遊病のように彷徨う奇怪で美しい幻想譚。これユーロスペースでの上映時に監督のアレクサンドル・ソクーロフのオンラインQ&Aがあって、行けなかったんですけど行きたかったなー。ソクーロフって眠りをテーマにしてるようなところのある監督なので「あなたの映画を観るといつも寝るんですがそれは意図的な仕掛けですか、もしそうならあなたは睡眠にどんな可能性を見出したのですか」って聞いてみたかった。このQ&Aのときにソクーロフは活動そのものはロシア政府から禁止されていないが過去作の上映は禁止されたと言ったらしくて、それで先月2023年12月だと思いますけど、ついに映画監督としての活動も禁止されてしまったそうで。ロシア政府はこの愉快なファンタジーにいったいどんな危険性を感じ取ったんですかね。そういうことをちょっといろいろ考えさせられます(寝ながら)
【アメリカの貧乏ベスト】
『レッド・ロケット』
2023年っていうのは俺の中で俺とか俺より下の世代にとってアメリカの虚飾が剥がれた年だと思ってて、言うまでもなくそれは従来から多額の軍備費をイスラエルに投じていたアメリカがイスラエル軍のガザ侵攻とそれに伴う二万人以上ものガザの非戦闘員の殺害をハマス壊滅の建前のもと積極的に支持して、国連安保理の場では停戦決議案に拒否権を行使したことによる。アメコミ映画が映画界を席巻した2010年代、ポリティカル・コレクトネスの推進やアメリカ政治に対する批評性の高さでアメコミ映画=アメリカは知的で先進的で人権を尊重する国というイメージが広く行き渡ったが、どっこいそれはしょせんイメージでしかなく、それもごく一部のイメージでしかないのであった。
これはこれでアメリカの一部を切り取ったに過ぎないので何もこの『レッド・ロケット』をもってこれがアメコミ映画には決して出てこないアメリカのリアルだ! などと強弁するつもりは一切ないのだが、貧しくて愚かでけれども妙に愛おしいテキサス田舎の人々を描いたこの映画は、アメコミ映画やディズニー映画が打ち出す理想的なアメリカのイメージを解毒する、よい薬となるのではなかろうか。うつくしい理想も、度が過ぎれば現実を覆い隠す毒になるのである。
【めっちゃ緊張したベスト】
『イノセンツ』
俺の観測した範囲ではこの映画の評価はわりとパックリ割れてて、大友克洋世代の人は「でも『童夢』じゃん」ということで総じて評価が低く、俺を含むもう少し若い世代の人は好き嫌いはともかくすごい映画だと言っている感じ。まぁでも大友克洋世代の人の意見もわかるんですよ。ワカモンどもがすごいすごいと騒いでるコンテンツなんか大抵過去の作品の焼き直しだったりするので、元ネタを知っているといやいやこれは〇〇のパクリだから、もうとっくの昔に先人がやってるから、みたいに否定したくなるっていうね。はい俺もその理屈で『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の大ヒットをわりと冷めた目で見てます。
でもこの『イノセンツ』は超能力を持った子供同士が戦うという点が『童夢』とは違うし、そこが作品のキモといえる。疎外され行き場をなくした子供たちの遊びが殺し合いへとシームレスに変貌していくサマは衝撃的、ものすごい緊張感です。例の『童夢』はなんとデヴィッド・リンチが過去に実写映画化しようとしていたらしいがそれは超残念にも頓挫してしまったので、もうこれを実写版『童夢』ということにしたらいいんじゃないだろうか。監督も影響を公言してるし。
【愛とは何かベスト】
『大いなる自由』
俺は人が悪いので何にしても単に美しいだけのものというのは基本的に信用していなくて、2023年の映画でいえばヴィム・ヴェンダースの『PERFECT DAYS』が劇中に出てくる公衆トイレがキレイすぎるみたいな理由でどうかなこれはーという感じだったのですが、この『大いなる自由』は何事も現実的に描きがちなドイツ映画ということで同性愛者が法律で処罰された苦難の時代のゲイを、苦難の時代の人だからと美化することなく、また汚いところを隠すこともなく、公衆トイレでのハッテンとか刑務所の独房ドア越しの男男フェラとかしっかりと汚く見せる。この露悪趣味は決して意味のないものではない。たとえそれが露悪的だとしても、汚く見えるという理由で人を差別したりして良いのだろうか? というのが俺の考えるところではこの映画のひとつの問いかけなんである。それになにより、トイレ清掃という行為がウォシュレットの飛び散りウンコと格闘している時こそ輝くように、汚らしいセックスがあればこそ、その向こうに愛を求めるこころが見えるのではないかと思うのだ。
【どうぶつ最高ベスト】
『愛しのクノール』
野生どうぶつのドキュメンタリーなんかでどうぶつが捕食する場面がないとガッカリするということもないのだがやはりどこか真実味に欠いているように感じられたりするのだが、その意味では排泄もまた同じで、野生だろうがペットだろうがどうぶつというのはとにかくあちらこちらでウンコをしまくる存在であり、どうぶつを愛するとはウンコも含めて愛するに等しい。この『愛しのクノール』というクレイアニメはかわいらしいブタちゃんがやたらとウンコをまき散らす映画なのではいもう素晴らしい。ブタちゃんを取り巻く人間たちもこんなヤツがおるかいという理想的な存在ではなくある意味でみんなウンコみたいな人である。ウンコだからこそどうぶつも人間も愛おしい。2023年最高のどうぶつ映画、そしてウンコ映画である。
【人間社会とはベスト】
『あしたの少女』
映画の感想はリンク先の感想文の方でかなり長く書いているのでここでは枝葉の枝葉を顕微鏡で拡大したようなことを書くが、この映画の監督チョン・ジュリがファッション誌かなんかのインタビューを受けてて、その中でたしか男性インタビュアーだったと思うが「あなたはフェミニストですか?」みたいな質問をしていたことに俺は結構呆れてしまって、それはその問いに対してジュリが「女性の抱える問題を描くという意味ではフェミニストかもしれません」みたいな、これ受け取るニュアンスは人によって違うかもしれないですけど俺にはちょっと質問に対して距離を置いたクレバーな返答と見えたからでもあった。
俺からすれば『あしたの少女』は男女の違いとか人種の違いとか国の違いさえも超えて人間社会の本質に迫るようなところのある非常に鋭い映画だったのに、このインタビュアーはあくまでも「女性の抱える問題」だけの映画としてこれを受け取ったらしい。でなければ「あなたはフェミニストですか?」なんてトンチンカンな問いは出ない(別にフェミニストじゃなくても「女性の抱える問題」を描いてもいいので、本当はその質問が出ること自体どうかしているのだが)。そういう見方はハッキリ言って薄っぺらいんじゃないですかと思います。
【暴力ノワールベスト】
『ハント』
最近の韓国映画はエンタメ路線が多くてつまらないと書けばハァ? かもしれないですけど、何が言いたいかって今の韓国映画界というのは小さいハリウッドみたいなもので、ハリウッド映画がそうであるように今のエンタメ路線韓国映画も観ている間は楽しく観終わったあとはスカッとするが、それ以上のものはない。でも90年代後半から2010年ぐらいまでの韓国映画って一見アクションとかサスペンスとかエンタメ路線に見えても観終わった後にはこれまで自分が持っていた世界観とか信念がグラッと揺らぐようなところのある映画が少なくなくて、そういう広い意味での芸術性を欠いた純粋なエンタメ路線映画が今の韓国映画の主流になっちゃった気がするので、それで今の韓国映画はつまらない。けれども全部がそうというわけでは当然なく、この『ハント』は俺の中でそんな一本。らせん状にどこまでも続く強烈な暴力の応酬の、その果てに見える彼岸の光景は、決して単なるエンタメ映画のものではない。
【想像力の可能性ベスト】
『ペルリンプスと秘密の森』
2023年は12月に入って『鬼太郎誕生』と『窓ぎわのトットちゃん』という国産アニメの良作が相次いで公開されたことから今年のアニメ映画は豊作だな~という声がネットのあちらこちらで見られたが、たしかに豊作だとは俺も思うものの、『SAND LAND』や『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック』、『愛しのクノール』、そしてこの『ペルリンプスと秘密の森』と、それぞれ違ったベクトルでたいへん優れた今年公開のアニメ映画たちがどれも劇場わりとガラガラだったことを俺は知っているので、ケッなんでぇおめぇら、なぁにが豊作だよ、どいつもこいつも自分の好きなコンテンツを繰り返し摂取して気持ちよくなってるだけでアニメ映画全体を見渡すヤツなんかほとんどいやしねぇじゃねぇか、おめぇらなんかに豊作も不作もわかるかよ! とやさぐれてしまいます。
イヤァねぇ日本のアニメ映画観客って、物事を俯瞰する視点と、その礎になる想像力がなくて。『ペルリンプスと秘密の森』はそんな狭い世界とは無縁の想像力の解放区。『鬼太郎誕生』を100回観るのもいいがどうせ100回も観るんだったら1回ぐらい『ペルリンプス』を観てやってくださいおねがいします。
【リバイバル上映ベスト】
『おばあちゃんの家』
コロナ禍に入り窮状に置かれた映画館を多少なりとも救ったのが旧作のリバイバル上映。新作が世界的に撮れないなら旧作でも流すしかないという苦渋の判断と思えたが必要は発明の母、映画館にもよるが以外と旧作でもお客さんは入り、ウォン・カーウァイ作品リバイバルのような大ヒットも生まれるなど、映画館に新たな興行の道を開いた。
ということで旧作リバイバルがたくさんあった2023年、その中からこれはというリバイバル映画を2023年ベスト10とは別に1本選んでみた。こちらは2002年の韓国映画で、もうね、すばらしいですよ。生意気なガキがクソ田舎のババァの家に行くだけの映画なんですけれども涙が止まらない。なにか感動的な場面がケバケバしく頻出というわけではない。全然ない。そういうのじゃなくて、こんなに豊穣な世界がスクリーンの中に広がっていることに泣いてしまう。豊穣っつっても出てくるのは韓国田舎のババァぐらいでしかないのだが、そこには決して映画向けのしつらえ物ではないホンモノが放つ重み深み、そして詩情がある。かくも見事な傑作なのに俺が観た土曜か日曜の昼の回は3人ぐらいしか客がいなかったのでビビったし誰に対してかはわからないが脳内で若干キレた。ちょっと最近、映画館のヒットコンテンツとヒットしないコンテンツの落差がヒドすぎませんか?
↓配信など
『エンパイア・オブ・ライト』
『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』
『独裁者たちのとき』
『レッド・ロケット』
『イノセンツ』
『大いなる自由』(※いまのところ配信もソフトもなし)
『愛しのクノール』(※いまのところ配信もソフトもなし)
『あしたの少女』
『ハント』
『ペルリンプスと秘密の森』(※いまのところ配信もソフトもなし)
『おばあちゃんの家』
おおっ!
一本も被ってない
参考になります(笑)
参考になってなによりです!
三本かぶってます!まさか!
今年も良き映画体験を*\(^o^)/*
三本被りはなかなか珍しい気がする!よい一年を~!
自分は知的障害のある自閉症の子供の親なもんで、そのテのものは気をつけてけたんですが『イノセンツ』うっかりスルーするところでした。よかったー、見逃さないで。
早速アマプラで鑑賞。う〜む。確かにこの緊張感はMade in ハリウッドにはない尋常レベル超え。
ネタバレとかそういうんじゃなくて、これは前知識なく沢山のひとに観て欲しいし、率直な感想が聴きたいと心から思いました。
この作品を推して下さったさわださんに感謝です。
それはなによりです!『イノセンツ』、公開時にはあまり話題になりませんでしたし、どちらかといえば『童夢』に似すぎているという否定的な感想の方がネットでは目立ったような気さえしていたんですが、さきほど検索しましたら去年の映画ベスト10に入れている方がたくさんいて(いや本当に、たくさん)。あまりポピュラリティのある内容ではないので広まりにくかったんだと思いますが、実際に観た人にはやはり強烈なインパクトを与えたようです。
これから各地の名画座などでも上映されるでしょうし、配信も始まっていますから、ぜひとも更に多くの人になにげな~く観ていただいて、衝撃を受けて欲しいと俺も思います!