【未体験ゾーン2024】1週目の感想文(映画2本)

テアトル系列映画館毎年恒例のDVDもしくは配信スルーのつもりで配給が買い付けてきたと思われるつまりは一般劇場公開の予定のない映画を一匹一匹は弱くても数が集まれば立派な魚に見えるんだというスイミー理論に則りたくさん集めて一挙上映する「未体験ゾーンの映画たち」、今年もいよいよ始まってしまいました。

まぁ詳しいことは検索してくださいですが未体験ゾーンといえば基本的にはジャンル映画の祭典、中小予算のアクションとかSFとかホラーとかの劇場での居場所が年々狭くなってきている中でやはりこういう企画は嬉しいもの、一般公開がスルーされたという事実によってまず大半の上映作が一般的な意味ではそんなに面白くなく観る人を選ぶ映画だということはわかっていても、砂利だらけの川底に砂金を探すような愉しさがありますね。これは逆に一般公開される万人受け映画では決して味わうことができません!

ということで第一週目ですが今週の上映作は三本、その中でフレンチ・コメディの俊英フィリップ・ラショーが監督・脚本・主演を務める『アリバイ・ドット・コム2 ウェディング・ミッション』は安定のラショー映画であるからして面白いに決まっているのであえてスルーし、残り二本を観た。果たしてどんな未体験がそこには待っているのかッ!

『オン・ザ・フロント・ライン 極限戦線』

《推定睡眠時間:10分》

観てきた帰りの電車でフィルマークス開いて感想書いちゃったので新たに書き直すのも面倒臭いしなんとなく禁じ手感もあるがとりあえずそのまま引用しちゃうか。


シナリオの焦点が定まらず散漫とかウクライナ国外の人には人物の関係性がかなりわかりにくいとか映画っていうかこの編集の感じからするとテレビ向けのスペシャルドラマ的なやつなの?みたいな難点はあるが、「オレンジ革命によりヤヌコーヴィチ独裁が倒され」というナレーションから始まったのでもっと愛国愛国しい軍事ものかと思うたら案外ルハンシクのウクライナ国境防衛隊側と親ロ分離派側が平等に近いトーンで描かれていて、考えは違うがまぁ元々は同じところに住んでたのだし通じ合うところはそりゃあるよね、という意味で国威発揚の気は薄く、わりあい厭戦というか、戦争疲れを感じるのは意外なところだった。

もっとも、ウクライナ側はドンバス(ドネツク・ルハンシク)の独立とロシア勢力圏編入を認めていないので、なんだかんだ言っても俺たちは仲間なんだ感を出すことが、2023年(製作時)の現状ではクリミア半島およびドンバスの奪還なしに戦争終結はあり得ないとするゼレンスキー政権の方針と合致しており、その意味では戦意高揚というか戦意維持の愛国映画とも言えるのだが。

戦争映画といっても多くの尺が割かれるのは開戦前のルハンシクの日常であり、ロシア系住民女性とキーウ出身のヤンチャ兵士の他愛ない交流などが描かれる中、ロシアのバックアップを受けた分離主義勢力による破壊工作や諜報活動が徐々に日常を侵食していく、そのサスペンスが映画の主軸。

派手な見せ場は少ないが、冷たいトーンの映画が多い気がするウクライナ映画の中では珍しく人間味が感じられ、ウクライナ戦争の起源がオレンジ革命(ユーロマイダン革命)にあり、その本質はロシアの帝国主義的対外政策にありということも再確認できるので、まぁまぁ悪くない映画だったんじゃないだろうか。


ぶっちゃけもうここに付け足すことはほとんどないのだが、何か付け足すとすれば、これはあれだね映画単体で観ても結構楽しめるんですが、やはりウクライナ現代史をざっとでも頭に入れて観た方が楽しめるのは間違いなく、なるほどウクライナの中央(キーウ)はこういう世界観でロシアとの戦争をやってるのかぁみたいな、そういうところが面白い映画だったかもしれない。

あと暗視ゴーグルの映像がたまに入ってきたと思うんですが、前にヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ映画の大学の先生プチ講義付き上映会に行ったら、ウクライナで大ヒットしたなんとかっていう2010年くらいの?ミリタリー系の映画で暗視ゴーグルを使ったショットが使われて、以降ウクライナのミリタリー系映画ではこれが定番化したというような話をしていた。題材からすれば当然なのですが、そういう点でもウクライナ現代史と密接に結びついた映画って感じがありましたね。

『シミュラント 反乱者たち』

《推定睡眠時間:60分》

設定はまぁ定番で高知能アンドロイドが人間のお世話係とか恋人代わりになってる近未来で自我の芽生えたアンドロイドが持ち主のもとから逃亡する事件が頻発し…という『ブレードランナー』の何番煎じなんだというやつなんですが、逃走アンドロイド捜査班の刑事が逃げるアンドロイドを追ってる時に電磁パルス銃というのを宙に向けて撃って、これの効果で周囲何キロだかは電子機器が一時的に使用不可になるからアンドロイドも停止、その隙に刑事がアンドロイド逮捕というシーンがあって、これがなかなかカッコよかったからそういうアクションものSFなんだなと思って観てたら、なんかミステリーとかサスペンスっぽい方向に展開してアクション系じゃないっぽかった。

大部分寝ていたため委細不明も断片的に得た情報を総合するに『ブレードランナー』というよりはミステリー版もしくはエモくない『アフター・ヤン』といった方がテイスト的には近そう。そのドライな世界観は嫌いではなかったがなかなか渋い映画だったのでこの睡眠時間に。ろく観られていないので刑事とは別に筋肉の人が出てくるのだがその筋肉の人の脇の下なんか臭そうだなみたいなどうでもいいし失礼なことばかり考えていた。すいません。

ところで、重要な役回りで『シャン・チー』のMCUスター、シム・リウが出てきたので、なにせ中小予算見え見えの映画だし下積み時代の出演作かなと思ったら2023年の作。『シャン・チー』は公開が2021年だからよほど塩漬けされていたのでなければ『シャン・チー』後の出演作ということになる。ハリウッドお金持ちになってもこんな映画にちゃんと出てくれるシム・リウ、良い人だと思います。

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