ということで年初のヒュートラ風物詩「未体験ゾーンの映画たち」、二週目です。今週の上映作は三本+前週から続映の『アリバイ・ドット・コム2』の四本ですが一週目と同じ理由でそちらはパスして三本鑑賞。今週はこんな感じで余裕なのだが来週が…とにかく感想どうぞ。ちなみに基本的に無名役者しか画面に出てこない未体験映画ですが、今回の三本のどれかには意外な大物がゲスト出演してます。さがそう!
『バーチャリィヒーローズ』
《推定睡眠時間:0分》
ゲームの中の操作キャラたちはいったいどんなことを考えているのだろうという『フリー・ガイ』のような着眼点の映画だが、こちら『バーチャリィヒーローズ』は製作が2013年とかなので『フリー・ガイ』よりも早かった。もっともその中身は冒頭にでかでかと「製作総指揮:ロジャー・コーマン!」のクレジットが出ることから完璧にわかるようにあからさまな無予算映画なので『フリー・ガイ』のようなテーマの掘り下げとか整合性がどうとかそんなもんは微塵もなく、あくまでもゲームあるある盛り沢山の気楽なパロディ映画という感じではあった。
プリレンダリングのイベントシーンになるとビスタの画面の上下に黒帯が入ってシネスコになる映画風演出、ステージクリア時に表示されるリザルト画面がやたらかっこつけた操作キャラの止め画(のつもりで役者が静止している…!)、前に進もうとしてオブジェクトに引っかかる「向こうに敵がいるぞ!」しか言わない味方NPC、オンラインモードでヘマをしたら一斉に始まる同チームのプレイヤーからの「初心者は帰れ!」コール、そして最終兵器コナミコマンド…的なやつ! 2012年の映画なのでゲームあるあるネタが若干古い気がするが、観ているこちらの頭も古いので問題なく大笑いだ。
すごいのはこの映画、劇中ゲームがベトナム戦争もののFPSかTPSらしい設定なのだが、ベトナム戦争なんてお金がかかってとてもこんな予算規模の映画では撮れないので、銃撃戦のカットや爆破のカットはすべて80年代のコーマン映画のどれかと思われるベトナム戦争映画からの流用、近所の森の中で役者たちが無に向かって銃を撃つふりをしている画を撮ってそれと流用カットを繋げることであたかも近所の森の役者たちがベトナムで戦争をしているかのように全然見えないが見せているのだ!
ボートを出すのだってお金がかかるから主人公たちがボートを運転しているシーンでのボートの全景だって当然流用、それだけではなくボートなのに「よしバックして戻るぞ!」なんて言ってそのボート全景の流用カットを逆再生することでボートのバックという無茶を実現させているのだから、その開き直りとも言える創意工夫には脱帽。安い。あまりにも安い。だがしかし、あまりにも安いからこそ響く主人公の心の叫び。「こんなのクソゲーだろ!」。クソゲー世界で死ぬこともできず延々虚無の戦争をさせられる主人公と相棒の友情には、不覚にもちょっとだけ感動させられた。でもこれよく考えたら2012年の『シュガーラッシュ』の便乗作だね。ごめん感動撤回。
『プッシーケーキ』
《推定睡眠時間:5分》
チラシに載ってたスチルがイケイケファッションの女の人たちが横並びになってるやつだったので『スプリング・ブレイカーズ』のスラッシャー版とかそんな感じでこの人たちが襲ってきた殺人鬼を逆にボコボコにするみたいな映画を想像していたら、冒頭に現れたのは科学者が異次元を発見したとかなんたらという新聞記事の切り抜き、そしてどうもその息子と思われる人物がコンピューターで謎計算を行っているの図であった。心に何かを秘めた様子で家の地下室に降りていく息子。なにやらでかでかしい覆いを取っ払うと…ジャーン! そこにはアナザディメンションへと続くSFゲートがあるではないか!
なにっ、SFだったのか! ホラーと聞いていたのに! だがその直後、異次元から現れた牛乳を吐く人により息子殺害! そうなのである。これはあくまでも惨劇のプロローグ、いったいこれが何の映画かといえば、異次元より到来の怪生物および怪生物に寄生されて牛乳を吐くようになったゾンビとレディースロックバンド・プッシーケーキが戦うゾンビ映画であったのだ! タイトルにしてもスチルにしても内容が読めないことこのうえない。
寄生エイリアン系のゾンビものということでぬちゃぬちゃしたナメクジ型のエイリアンはイイ感じだし牛乳ゾンビの造型もなかなか本格的、血よりも牛乳の方がよく飛ぶ映画ではあるが、寄生エイリアンが産み付けた卵がゾンビの腹をかっさばくとダラァと出てくるなどの変則的なグロ描写もちゃんと気持ち悪いのでお楽しみ要素がいっぱいある。プッシーケーキの面々もかっこいいし映像もサイケデリックで面白い映画なのだが、ただ牛乳ゾンビが一つのシーンにつき一体ずつしか出てこないので、そこはもう少し数を増やしてほしかった。カメラにあんま映らない後ろの方の人とかはゾンビメイク手抜きでいいですから…。
『犬人間』
《推定睡眠時間:40分》
公開中のお料理映画『ポトフ 美食家と料理人』よろしく小綺麗なキッチンで身なりの整った男がお上品に料理していく過程を丁寧に切り取ったシーンから始まるので束の間べつの映画のシアターに間違って入ってしまったのかと思ったが、しばらくお料理を見ていると男、出来上がったフランス料理みたいなやつを犬用の深皿に入れて床に置いたのであぁこれは『犬人間』と一安心。それからちゃんとワンちゃん人間がやってきてご飯を食べてました。
いったいこの完璧に犬仕草の人間は何者か…お風呂に入る時はワンちゃんコスチュームを脱いでいたので人間であることは間違いないのだが、ご主人との関係も含めて序盤では一切説明なし。ひとまずこの整った男と犬人間が正気ではないことだけはわかるのでそれから男がマッチングアプリで知り合った女の人とデートをする場面でドキドキしてしまった。逃げろ! なんか知らんがたぶん食われるぞお前犬人間に! だが整い男の家で彼女と俺を待ち受けていたのは予想外の展開、おずおずと姿を現す犬人間に当然びっくりの彼女は整い男に説明を求める。「いやあれなんなの!? 誰!?」「何って犬じゃないか」「いや人間だよどう見ても! えそういうプレイとかなの!? 犬みたいにしてるってこと!?」「犬みたいっていうか、犬なんだよ」。なにこのシュールコント。
普通の映画なら(?)命からがら狂気ハウスからこの女の人が逃げ出すかもしくは逃げ出せず犬に食われるところだが、『犬人間』は普通ではなかったのでこの人はとくに危険なく帰宅できてしまうししかも犬の飼い主の整い男に車で送ってもらっていた。早速信じられない狂気体験をルームメイトに話す彼女。その反応はまたもや予想外だ。「でも金持ってるんでしょ? 付き合っちゃえば?」。かくして2人の交際が始まるのだがって始まるなよ! 絶対そいつヤバイ奴だよ! ルームメイトとYouTubeで犬プレイのカップル動画を見ながらまぁそういうフェチの人もいるよねとかそういう問題じゃないんだよ!
いやはやなんとも人を食ったシュール&オフビートな映画である。オフビート度数が強く淡々進行のため途中からはすべて寝ているが、ユニークな映画なのは間違いない。ホラーとかではたぶんなかったと思います(サスペンス?)