【ユーネク】『キラー・マネキン』感想文

《推定ながら見時間:30分》

昔から人形ホラーというのが好きでくわしい理由は自分でもあんまりよくわからんがともかく人形が動いて人を殺しにかかるというのは怖いと同時になんか夢がある感じで観ていてたのしいのである。この映画は『キラー・マネキン』というタイトルだからマネキンが人を殺す映画だろう。いいではないか。マネキン殺人といえばカルトホラー『デビルズ・ゾーン』である。あの映画のマネキンが(後ろからスタッフに押されるなどして)動いて襲いかかってくる場面グッときちゃうよな。

もちろんそんなシーンを期待してこの映画を観始めたわけだが最後までマネキンが一切動かないという衝撃。そんな…なにもぬるぬる動かないでいいしカメラに映らないところに隠れたサード助監督が手動でマネキンの腕を動かすとか顔の方向変えるとかぐらいでもいいのだが、それすらも無いだなんて…これはさすがに人形ホラーとは言えないだろう。まぁ配給が人形ホラーとして売り出してるわけじゃなくて俺が勝手に人形ホラーと思い込んでいたわけだが。

人形ホラーでなければなんなのかというと『イット・フォローズ』であった。交通事故を起こしてしまった主人公はその現場で不気味な(※そうでもないと思うが便宜上そういうことにしておこう)マネキンを目撃する。それからというもの彼女の行く先々でこのマネキンが見え隠れ、チラッと窓の外を見たりするとマネキンが立っていたりするのだが目を離してもう一度見てみるとそこにマネキンの姿なし。幻覚か? 幽霊か? よくわからんが、見かけるたびに段々とこちらに近づいて来ているような気がする…。

というようなことを仲の良い友達をたくさん呼んで話したら当然こいつら全然信じようとしない。だがそこにマネキン登場。「見てよほら! あれだよあれ!」ホラー映画のセオリー的には友人たちがどれどれと主人公の指さす方を見てみるとそこには既に怪異はおらずということになるが、この映画の場合は違った。謎のマネキンは呆気なく友人たちに目撃されてしまうのである。でもマネキンはしょせんマネキンなのでイタズラか集団幻覚のたぐいだろうということでその場はとりあえずお開き。真の恐怖はそこから始まった。それ以来ひとりまたひとりとマネキンを目撃した主人公の友人たちは怪死していくのだ。はたしてマネキンの正体とは。そしてその魔手から逃れる手立てはあるのだろうか? 魔手と言ってもこのマネキンは可動箇所がゼロなのだが…。

という感じでつまり『イット・フォローズ』からセックスの要素を抜いて『イット・フォローズ』の方では怪異おばさんとかが遠くからこっちに歩いてきてましたがあの怪異おばさんがマネキンに置き換わったのがこの『キラー・マネキン』。だからこのマネキンはチャッキーみたいにフィジカルで人をぶっ殺すわけではないんですな。死に方は窓から転落とか首切断とかいろいろあるのだが殺人シーンは画面に映らないので動かないマネキンがどうやって殺しているのか不明。まぁなんか超自然的な存在のようですしそこらへんは適当に魔力とか呪力とかそういうことで。

そういうことにしておいていいのだろうが。俺がというよりこの映画の作り手の方が。『イット・フォローズ』のパクリという時点でアイディアに魅力はないのだからせめて面白い殺人シーンを撮るぐらいはしてもよかったんじゃなかったのか。イタリアンホラーの巨匠ルチオ・フルチの代表作『地獄の門』にはゾンビみたいな幽霊が人を睨みつけると睨まれた人が内臓を吐き出して死ぬというビューチホーな場面があるが、仮に可動箇所がないとしてもマネキンだって人を睨みつけることはできる。であればマネキンに睨まれた人が凄惨に死ぬ場面は別に撮ろうとすれば撮れないことはなかっただろう。撮ろうとすればの話なのだが。

アイディアはパクリ、面白い殺人シーンはなし、ならマネキンの造型はどうだといえばなんか、服屋に置いてあるのっぺらぼうのマネキンが暗闇にボーッと立ってたりしたら怖いなと思うんですけど、口と目がついてるのであんまりマネキンって感じしない。イコール怖くない。これは完全に余計な装飾だと思う。落ちくぼんだ眼窩に目玉はなく落書きみたいな口はニヤリと笑ってこれはどうだこわいだろ~というつもりの造型なのかもしれないが…逆効果じゃないだろうか。のっぺらぼうのマネキンでいいのになんでこんな余計なことしたの。動かないマネキンをショットの切り替えでこっちに近づいてるように見せるくらいだから決して予算が潤沢な映画ではないと思われるが、その貴重な予算の一部をマネキンの表情作りになんか使わないでよかったよ、その予算があるんだったら人が死ぬシーンをもっと頑張って作ってほしかったよ俺は…。

終盤の展開も唐突で意味がわからないわりには飛躍が足りなくて面白くなくそればかりかマネキン恐怖の主題がその唐突展開のせいでどっか行っちゃったのでダメである。良いところが全然ないような気がするが、まぁでも映像はオシャレに撮れてていかにも安い感じはなかったので、なんとなく流し見する分にはそこまで悪い映画でもないかもしれない。あとバッドエンド気味というのも少しだけいいところだ。こんなつまらない映画でハッピーに終わられたらいくらなんでも納得できない。

※それにしても急に『シャイニング』のオマージュが入ってくるの、マジで意味がなくて謎だった。

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