次世代ホラー映画『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』感想文

《推定睡眠時間:65分》

怖いところをすべて寝ている。これは熟練睡眠鑑賞者の俺でもまさかの展開だった。ホラー映画を観に行って怖いところを全部寝るなんてAVのエロいところで寝て女優インタビューとか街歩きのパートだけ見るようなものではないか。そんなことがあり得るのかと俺自身いまだに疑問なのだが、実際に起こってしまったことなので否定のしようがない。『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』、上映時間が109分ということで仮に1時間寝てもまだ1時間弱は観ているパートがあるはずなのだが、そのパートはすべて怖くない人間ドラマのパートだったのである。

しかし俺にも少しは弁解させてもらいたいのだが、ホラー映画なのに怖くないシーンが1時間ぐらいあるというのはそもそもおかしいのではないだろうか…いや、わかる、わかります。もはや俺には理解できない価値観とこれは素直に認めなければならないのだがなんとななんと最近の若者の中には「ホラー映画だけど怖くないからよかった」とか「ホラー映画は怖いから観たくない」とかいう意見が決して少なくないらしい。なんとななんとなななななんと最近の若者の一定数は怖い映画を観てぎぇ~ってなりたくないらしいのである。そのことは上映時間の半分は怖くないし怖いシーンもたぶんそんなに怖くなさそうなこの映画が原作ゲームの知名度は無視できないとはいえ本国アメリカでは若者の間でブームとなったことが小さく裏打ちしている。さっき俺が観に行った回もキャパ100ぐらいの劇場が満席だったのでこれは決してアメリカだけの特異な現象ではないのだろう。

俺がこんなにも寝てしまったのはいつまで経っても殺人人形が人間の首を刎ねたり内臓を引きずり出したりしないで主人公の人間ドラマばかりやっていたからというのもあるのだが、もしこの映画が(それがコワイかどうかはともかくとして…)映画が始まるやさっさと若者の二三人を殺してその後も人間ドラマなどなく殺人人形がせっせと人間解体作業に勤しむような90分の映画だったならおそらくこんなふうにヒットしていなかったんじゃないだろうか。バカ言え去年は2時間半もあるエクストリームなゴア映画『テリファー2』が全米スマッシュヒットを飛ばしたではないかとの反論も予想されるところだが、たしかに『テリファー2』、ゴア描写は手抜きなしで本格的なのだが、実際に観たらどちらかといえばゴア描写よりも主人公の人間ドラマの方に作劇上の比重が置かれていたのが意外に感じたところで、考えるにつまり最近のワカモンというのはホラー映画で怖いものではなく人間ドラマを観たいのかもしれない(そういえばこの映画は思ったほど日本ではウケなかった)。

人間が面白く死ぬだけの楽しいジャンルという認識でホラー映画を捉えていた我が輩にとってこれは衝撃的な大ショック、そのショックの度合いは自称が突然我が輩になってしまったことから窺えるだろう。そういえば『M3GAN/ミーガン』とかいう去年ぐらいにやった殺人人形映画も俺は全然怖くなくて落胆しその後日本で公開されたのは本国上映版から残酷シーンを削って全年齢対象にしたお子様版ということを知りムカつくやら呆れるやらだったのだが、ネットでワカモンと思われる人々の感想を観ると驚くべきことにこの映画はエモいとかなんとか大変好評であり、おい怖くねぇじゃねぇかと怒っている人はオッサンぽい人ばかりというむしろその現実の方が怖かった。

あまりにも『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』の感想になっていない気がするのだが、俺にとってホラー映画の人間ドラマは全部人間が面白く殺されるための前振りでしかないので、たしかに主人公の過去の心の傷がどうとか息子との関係がどうとかみたいな人間ドラマの部分は寝ないで観ていたが、そんなもん興味ないしなんも面白くないので感想といったら「どうでもいい」しかない。ワカモン世間的にはむしろ逆であろう。たぶんこの映画はそんなに怖くない上に人間ドラマが充実していてついでに殺人人形のキャラも立ってるのでとても面白い「ホラー映画」ということになるのではないだろうか。

世の中には流行り廃りがあるからな、まぁ今はそういう時代ということなんだろう。もはや旧世代の遺物と化した俺としては、映画が始まって30分経っても40分経っても人が面白く死なないホラー映画なんてダメだろう、とか思うのだが。

※あと未就学児ぐらいの子供を連れたお母さんが観に来てたのが印象的だった。お子様でも安心して観られるホラー映画という宣伝がどこか知らないところでされていたのかもしれない。

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