電気もねぇガスもねぇでも殺人鬼はある映画『デストラップ/狼狩り』感想文

《推定睡眠時間:10分》

タイトルロゴがHUNTERの文字が鏡映しになったものだったからふぅん原題はHUNTERというのか、ずいぶんシンプルだなと思っていたが、この鏡映しの部分は飾りではなく原題は『HUNTER HUNTER』らしい。ハンターハンター! もちろん念能力であるとか過剰書き込みの頭脳戦などは出てくることなく、これはおそらくハンターのハンターという意味だろう。主人公は山奥に暮らす狩人一家。この家にはガスも水道も電気も通っておらず、森で獲れた動物の肉とか毛皮を売って食うや食わずやの生活を送っているというのでとても現代の話とはおもえないが、これはアメリカ映画なので18世紀頃の話とかではなくちゃんと現代の話である。同じような生活をしてる人が出てくるニコラス・ケイジの『PIG/ピッグ』という映画もあったし、国土が広大でそのぶん文化も考え方もあまりに多様なアメリカでは、今でもこのような昔ながらの暮らしを送っている人たちがいるのだ。フロンティア精神があるのかないのかどっちなんだ。

この一家が今年の冬は獲物が獲れんくて困ったななんて言ってるところで不吉な気配。森の中で見つけたウサギかなんかの死骸の食い荒らされ方からしてどうやらこの森に群れからはぐれた一匹狼がやってきたらしいのだ。山暮らしに馴染みのない俺としてはだからなんだと思ってしまうが一家の表情はシリアスに硬直する。もしも森で狼と出会って食われたらどうしよう…死んでしまうぞ! かくして一家の毎日はサスペンスフルなものとなり、夫は狼狩りのためにしばらく家を出るのだが、その最中、彼は思わぬものを見つけてしまう。それはシリアルキラー=人間ハンターによるものと考えられる無残に殺害された女の人たちの死体置き場であった…。

狩人×狼×シリアルキラーの三つ巴バトル的な映画かと思ったらなんかあんまそういう感じではなく、狼は添え物のようなものというか、映画に寓話性を与えるための装置っぽい使われ方であった。映画のメインはあくまでもシリアルキラーVS一家のバトル。中盤までは狼の襲来に怯える一家が緊張感たっぷりに演出されるが、それ以降は一家とシリアルキラーの攻防になる。といっても『要塞警察』みたいな籠城戦とか『悪魔のサバイバル』みたいなゲリラ戦とかではない。このシリアルキラーなかなか変則的に登場するのだが、その登場の仕方がまるで『赤ずきん』の狼のようなのだ。よってシリアルキラーと一家のバトルもまた『赤ずきん』のように描かれるんである。

寓話テイストで描かれるバイオレンス&ちょっとだけゴア。似た作品でいったら去年日本公開された『PIGGY ピギー』とかになるだろうか。その世界観は面白いし演出も緊張感があり、画作りや音響設計も丁寧にされているのはわかるが、でもなんかあんま面白くねぇと感じてしまったのは展開が平板で盛り上がりに欠いたからだった。まぁ、森の奥の前時代ハウスを舞台にできることなんかそんなにないので仕方が無いかもしれないが…でもこう、もう一捻り二捻りほしいというか、それがダメならやはり籠城戦とかゲリラ戦をやってアクション的な見せ場を作ってほしかったというか。ちょっとこれは映画全体の統一感を出すためか、狩人×狼×シリアルキラーなんで顔合わせのわりにはこじんまりとまとまりすぎてしまったような気がするな。悪い映画では決してないのだが。

そんなわけで俺が個人的に面白く感じたところはVSシリアルキラー戦よりも(っていうかそのへん寝てるからあんま観てない)文明から切り離された一家の暮らしぶりだった。俺ぐらいの文明人ともなると電気ガス水道エアコンスマホパソコンSwitchウォークマンなどのない生活なんか考えられないわけだが、この一家はそのすべてを持っていないので、水を使うにも近くの川に毎朝水を汲みに行ったりするんである。明かりはランタン。火はどうやって起こしてるのか知らないがともかくセルフで起こす。なんか映画の根幹を否定する感じになってしまうがそこまで我が道を行ってるんだったらシリアルキラーとかじゃなくてもうちょい普通寄りの犯罪者とかと戦わせて文明の衝突テーマにした方が面白かったかもしれない。ある意味『ヒルズ・ハブ・アイズ』の逆バージョンみたいな。

一家の妻が狼をなんとかしてもらおうと地元の保安官事務所に行くシーンはなんか文明の衝突感あって面白かったよ。妻が狼なんとかしてくれっつって、でも保安官はいやあんた山は狼の生息地なんだからこっちゃなんもできないよ、そこ国有地だしそんなの勝手に小屋作って住んでるあんたらの方が悪いじゃない、狼の方じゃなくて、と取り合わない。妻は憮然としてその場を去るのだったが、保安官の言うことに十理あったので、ちょっと笑ってしまった。考えてみれば狼も災難だよな、人がいなさそうだから来たのにそこに人が住んでてしかも狩人だから標的にされちゃうっていう。

※三つ巴バトル系の映画は流行っているのかここ数年で他にも何本かあり、さまざまな猛獣×シリアルキラー×ニコラス・ケイジの『ザ・ビースト』、ライオン×武装集団×ミーガン・フォックスの『ローグ』とかがわりと面白かった。

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