圧倒的にアイスランド映画『ゴッドランド』感想文

《推定睡眠時間:60分以上》

予告編を見た感じだとポール・トーマス・アンダーソンの『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』っぽかったが実際に観るとヘルツォークの『アギーレ 神の怒り』とかに近いような近くないような、といっても半分以上激睡しているためストーリーもよくわかっていないのだが、まぁ頭の中で重大な欠落部分を勝手に想像して補うと、これはどうやらアイスランドの僻地に教会を建てなさいと言われた牧師さんが写真機片手に当地へ向かい案外協力的な住民たちと教会建設を始めたはいいが、そこで人妻かなんかと恋仲になって?それ原因で一部住民と不和が生じたりして?殺人事件にまで発展してしまう。

牧師さんが不倫とはまったくダメだなこいつはなのだが、アイスランドの雄大にして荘厳な自然(教会のバックには火山も見える)とそれに適応した人々の生活に触れているうちに、キリスト教道徳とか信仰心なんかというのをこの牧師さんは見失ってしまうのだなどうも。そんなもの大自然の前では小さい小さい。人間もしょせん動物だ、動物のように生きなさい。終盤に印象的なカットがあって、それは野原に打ち棄てられた馬の死骸が腐敗し分解され土に還っていく過程を定点観察カメラで捉えたものなのだが、意味深げでありながら何の説明のないこの不思議なシークエンスはあたかも自然の力を誇示するかのようであった。

余談ながらこの映画が上映されている渋谷のイメージフォーラムでは現在グリーナウェイの『ZOO』も特集上映でかかっていて、この『ZOO』もまた動物の腐敗過程を定点観測カメラで捉えるものだったので、『ゴッドランド』をイメージフォーラムで観れば期間限定で動物腐敗映画二本立てが組めることになる。これで人間の腐敗を定点観測カメラで撮ったブットゲライトの『死の王』もあれば完璧なのだが。イメージフォーラムさんどうでしょうか、次はブットゲライト特集というのは。余談にもほどがあるだろ。

で『ゴッドランド』、まぁまぁ面白い映画であったが面白さよりも寝た記憶が圧倒的に勝っているのでなんというか掴み所のない感じではあった。最終的に殺人事件に発展するとはいえほとんどの住民はのんびりと暮らしてるだけなので劇判は不協和音を鳴らして不穏だがサスペンス的な緊張感はなく、人が死のうが馬が腐ろうがカメラは動物園の動物のように淡々と人間を観察するのみ、そんなもんまるで興味がないと言わんばかりに牧師が死体をどうにかこうにかしようとする(はずの)シークエンスなんか大胆にカットしてしまっているので、「気付かない内にまた眠ってしまったのか?」と混乱させられたくらいである。

まぁ細かいことはいいだろう。アイスランドの自然はすばらしい。アイスランドの自然は圧倒的。アイスランドの自然こそはまさしく神の地だ。細かいことは気にせずアイスランドの自然をボケーっと観てさえいればなんか知らんがそういうものだろうと謎の納得感が出てしまう、これはたぶんそんな映画である。アイスランドの自然の中で撮ればどんな他愛ない話でも映画として成立してしまい神話性を帯びるのでズルいと思う。『ひつじ村の兄弟』とか(邦題がもこもこしているが、これも最終的に殺し合いに発展する映画であった)

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