コテコテ尼崎下町ドラマ映画『あまろっく』感想文

《推定睡眠時間:0分》

『あまろっく』などと言われれば自動的に『海女ロック』に変換され和田アキ子や梶芽衣子などが出ている東映フィメール・バイオレンスが連想されるが当然ながらそんな映画ではなく「あまろっく」というのは尼崎の沿岸に設置された閘門(こうもん、と読むそうです)の通称でこの閘門によって海抜ゼロメートル地帯にあり水害の街であった尼崎は水害の無い街となった、とのことであった。江口のりこがクールな裏社会の仕事人に扮して海女映画の歴史的傑作『人魚伝説』ばりに尼崎の闇に蔓延るクズどもを大阪湾に沈めていく痛快映画ではなく残念である。

それにしても! なぜ人は鶴瓶を映画に出そうとするのか。別に鶴瓶は全然もう全然嫌いではないのだが、それはテレビタレントとしての話で、この人が役者として魅力があるかといえば俺的にはかなり否寄りであり、いや魅力があるないで言えばまぁ独特な存在感はあるので魅力がないわけではないにしても、いささか存在感が強すぎてどんな役柄を演じても完全に鶴瓶になってしまい、演技に幅がある人でもないので、映画に鶴瓶が出てくると普通に「あ、鶴瓶だ」とかなってしまってなんかテレビ観てるみたいな気分になるのだ。

ということでこの映画『あまろっく』も鶴瓶がメインどころで出演している上にあんまり映画的な撮り方やシナリオ作りをしていないというのもあって映画というよりテレビドラマの観だったし、実際MBSテレビが製作しているのでこれは尼崎のご当地2時間テレビドラマであった。MBSのテレビドラマだからもうキャラとか展開とか価値観とかコッテコテのベッタベタである。MBSのテレビドラマなのでなんか城とか橋とかやたら出てくる。何城だか何橋だか知らないがとにかくなんか城とか橋とかがやたら出てくる。キラキラ映画でもよくあるご当地映画あるあるである。

冷酷東京民の俺としてはこういうコッテコテにベッタベタな関西下町人情ドラマに心が動かされることは一時もなく、コッテコテにベッタベタなので適当に笑いながら楽しく観られる軽い映画にはなっていたが、しかしまぁそれだけの映画といえばそれだけの映画であった。東京のモーレツビジネスパーソンだった江口のりこがすげぇ雑な理由でリストラされて尼崎の実家に戻ると町工場を営む鶴瓶お父ちゃん再婚宣言(お母ちゃんは学生時代に死んだ)、その相手は江口のりこ39歳ぐらいよりも大幅に歳下20歳の中条あやみ。ここからどんなドタバタが展開されるかと思ったらそこは案外スルーっと進んでしまい江口のりこのお見合いがどうだとか町工場の行方はとかなんかそういう普通のテレビ的な下町ドラマになっちゃうので、つまらなくはないが何か期待して観るような映画でもないだろう(あとなんか江口のりこが出てるという共通点もあり『ツユクサ』と似てた)

とはいえである。『覆面系ノイズ』などの安易なキラキラ映画に出てた頃は不覚にもわからなかった(その頃は成長期でそれからでっかくなったのかもしれない)中条あやみの恐るべきスタイルの良さには目を瞠るし、それになによりパーカーの上にモスグリーンのアーミーコートという韓国ノワールに出てくる連続殺人鬼みたいな出で立ちで尼崎の街をぶらつくニート江口のりこの無頼感は最高である。あの肝の据わった仏頂面とストリート感覚の関西弁恫喝。その最高な江口のりこにお見合いのシーンで恥じらい女子的な芝居をさせるのだからギャップ萌えを狙った可能性もあるとしてもこの監督はわかってないなと思う。尼崎が舞台なのにタバコの一本も吸わせないしな。『愛がなんだ』を観ればわかるが江口のりこは日本でトップクラスにタバコの吸いっぷりがサマになる役者だというのに…!

たしかに江口のりこは当代きってのバイプレーヤーであるが、日本映画界はちょっと江口のりこを便利役者として使いすぎではないだろうか。『“それ”がいる森』だって江口のりこがそれをボコすシーンを期待したのに後半ろくに出てこないじゃねぇか。『ツユクサ』だってあれでいーんすかね。あれだけで良かったんですかね江口のりこの出番は。どいつもこいつも…もう俺に演出させろ! 絶対に俺の方が江口のりこを魅力的に撮れる! 江口のりこのクールな魅力を引き出すべく江口のりこが不屈の女囚を演じる『女囚さそり』シリーズ最新作などどうか。昨今はなんでもかんでもリブートブーム、今こそ江口のりこで『女囚さそり』をリブートしてはどうか! 出資者、募集してます!!!

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