《推定睡眠時間:0分》
ポスターとかあらすじの感じからあんまり観たい気にはならなかったのだが漫画の実写化らしいとどこかで目にし漫画の実写化で主人公が男女で音楽絡みの青春ものということはこれはキラキラ映画の可能性もあるかもしれずキラキラ映画であれば見逃すわけにはいかないのであまり気乗りしないまま観に行ったらなんか原作漫画はスピリッツかなんかに連載されてる青年向けのものらしかったのでキラキラ映画じゃなくてちょっとガッカリした。
しかしストーリー展開の無茶さ加減はキラキラ映画とさほど変わらない。主人公は住み込みの団地管理人で知人友人恋人家族はおらず(いるのかもしれないが一度も話す場面はない)DTMだけが人生の伴侶というマニアックな人なのだがその人が迷惑にも自室で自作曲を流していたらその曲を気に入ったらしかった上の階の開催弁チャンネー(桜田ひより)がなんと上の階のベランダから降りてきて主人公の部屋のガラス戸を破壊!
実は主人公がDTM曲を流していたのは失恋した桜田ひよりが「失恋したんやー! あの曲聞かせてーな! ウチすっきやねん!」みたいなコテコテ感で深夜に突然訪ねてきたからなのでベランダガラス割り侵入は桜田ひより的にはありがとうの意味合いがあったらしいのだがありがとうのつもりで上の階のベランダから降りてきてガラスを破壊とか意味がわからないしそもそも主人公もヘッドホンで聴かせるとか音源渡すとかすればいいのに急に深夜に大音量でDTM曲を流し始めるのでどういうつもりなのかよくわからないのであった。
それから主人公は当然ながら団地を追い出されるのだがDTM曲を海辺で演奏してるところを主人公が気に入ってしまった桜田ひよりがスマホで撮ってツイッターにアップしたら諸事情により引退したカラテカ入江に代わってお笑い界の音楽オーガナイザーのポジションに収まっているエレキコミックのやついいちろうもリツイートするぐらい激バズり、ということで孤独だった主人公のもとにどんどん音楽で通じる仲間たちが集まってくる王道展開を見せるのであったがバズるとは有吉に言わせればバカに見つかるということ、この映画の場合はバカというよりは小賢しい悪党といった感じだがやがて主人公はレコード会社の大物プロデューサーに目を付けられレコード会社の地下にある秘密部屋に案内される。「ここが君の居場所だ…好きに使っていいから曲を作りなさい…」。
せっかくいろんな仲間ができた主人公だったが巨額の契約金に目がくらんだのか(そんな場面ないのだが)それからというものレコード会社の地下にある秘密宅録部屋にこもりきってまるで外に出てこない。これじゃあ軟禁だ! 俺たちでアイツを取り戻す! ということで主人公の仲間たちは一旦はバラバラになりかけるも再集結しレコード会社の地下にある秘密部屋から主人公を救い出すべくレコード会社に潜入するのであった…って『ファントム・オブ・パラダイス』かよ! 普通に会社の外で待ってろよそのうちコンビニにコーヒー牛乳とか買いに出てくるよ潜入しないでも!
というなかなか無茶なお話ではあるが一方で音楽周りのディテールにはたしかな拘りを感じさせてDTM&バンド映画としては結構リアルなのでなかなか掴み所のない映画である。まぁ映画なんて「ここッ!」っていう一点だけ良いとこありゃいいですからね。ストーリーだけ見ればアホみたいな映画だが坂本秀一による劇判も丁寧に作られていて音楽の映画としては『蜜蜂と遠雷』ぐらい良かったんじゃないだろうか。俺には音楽しかないんだッ! と理由は語られないのでわからないがそう思い込んでいる人が主人公の映画なので他の面はわりとズコーでも音楽周りだけは本格派というのは味わい深いところである。
ほかの見所としては長髪のミステリアスな音楽プロデューサーが悪役でかつ音楽が金になる世界という時代錯誤な設定に漂う90年代っぽさ、バンドの旬が既に過ぎてしまったことを悟りつつも音楽を続けアラサーのロックバンドの人に漂う哀愁、主人公が最初に管理人をやってる団地が各階二戸ずつ一本の階段で繋がってるのを一ブロックとしてそれが横にズラーッと並んでそれぞれのブロックを繋ぐ廊下はなくエレベーターもないウーバーイーツで当たるとしんどい系の旧式団地、など。ところで俺も常駐管理じゃなくてゴミ捨て+清掃の方ですけどマンションの仕事してたんですが、清掃系のお仕事って邦画の中で惨めで寂しい仕事として描かれ過ぎじゃないすかね。あれはあれでなかなか充実感あるのよ、このマンションのキレイを保って住民の人たちの生活を秘かに守ってるのは俺なんだという感じで。一人仕事だから自分のペースでできて気楽だしね。いつか清掃のお仕事たのしいよのスタンスで撮られた邦画というのも観てみたいものだ。
※ちなみに主人公の作ってる曲はこう、なんて言うんでしょう、リバーブ効かせた低温タイプのクラブ系で、『バジーノイズ』というがノイズ音楽とかではない。キラキラ音楽映画の『覆面系ノイズ』も別にノイズ音楽はやってなかったがノイズを鳴らせよそのタイトルなら。