《推定睡眠時間：15分》
『ハッピーツリーフレンズ』は観たことがないのだがたぶん『ハッピーツリーフレンズ』みたいな悪趣味アニメというのはピタリと一致しているわけではないにせよそう外れたものではないだろうというこの『ユニコーン・ウォーズ』なのだが、タイトルからしてアメリカとかで大人気のピンク色で虹色のたてがみを持った可愛いユニコーンが血まみれになって殺し合うのかなと思いきや主人公はテディベア…なのか？ というとにかくなんか丸っこい別の生物であった。ちなみにユニコーンは例のピンク色のポニー的なやつではなくわりとリアル路線というかレフ・アタマーノフの『雪の女王』とかに出てきそうなやつ。
それでそのテディベアと本人たちは自称しているこの丸っこい連中は顔に似合わず訓練中の新兵でその目的は森に棲むユニコーン退治らしい。テディベアたちはテディベアたちの聖書を信じていてそれによれば邪悪なユニコーンどもはかつてテディベアの先祖たちを殺しまくって居住地だった森を奪ったのだという。以来定住地を持たない流浪の民となったテディベアたちはいつかユニコーンどもを皆殺しにして森を奪還してやろうと固く誓い、今はこうしてユニコーン戦争継続中というわけである。テディベアの絵柄はフラッシュアニメみたいだが設定は不穏にハードコアだ。
さてそんなテディベア新兵たちに森で行方不明となった部隊を捜索せよということでついに出陣命令が下る。主人公はテディベア新兵の中ではいちばん戦闘能力が低くて使えないがしかし心優しい兄と、兵士としては優秀だが常に自分が一番じゃないと我慢ができず心の底ではなにかに怯えている風な弟の二人。はたして二人はユニコーンの棲まう森の中で何を経験するのだろうか…というのがこの映画の最初50分ぐらいの展開でポスターにある通りテディベア版の『地獄の黙示録』のような『プラトーン』のようななのだが、そこからがすごく『もののけ姫』と漫画版の『風の谷のナウシカ』全巻を数十分に凝縮したような怒濤の超展開になってしまった。
なんなんだこの劇的なバランスの悪さは。弟がああなってああなってああなるところとか急すぎるだろ。主人公はテディベアだがユニコーンももちろん出てくるし映画はそこから始まるのだがなんか黒くてドロッとしてて近づくものを貪欲に呑み込んでいくなにやらクトゥルー神話めいた不定形の物体を崇拝するサルの群団というのも出てくる。テディベアとユニコーンは主にテディベアの一方的な恨みによって対立しているがユニコーンとサルも対立していて「未だ形をなさない邪悪な何かをサルたちは崇めている…」とユニコーンたちはそこに破局の芽を見ているというあたり『ナウシカ』の巨神兵とか『もののけ姫』のダイダラボッチを思わせるのだが、なにせ映画の大半はテディベア兄弟の話でユニコーンとかサルがどんな思想を持ってどんな生活をしているのかみたいなシーンはほとんどないので、こう壮大な物語をやるにはいささかかなり尺が足りてなさすぎるよとツッコまざるを得ない感じであった。
そのストーリーテリングはどうなんだと思うところはあるわけだがまぁでも基本はキュートな悪趣味アニメだからたのしくていい。俺はこういう可愛らしいキャラにあえてエグいことグロいことキモイことをさせるネット掲示板ノリ的な悪趣味はあんまり好きじゃないのだが、テディベアがテディベアの脳天をかち割りユニコーンの首を狩りイモムシ食ってラリって首を吊るなどなどの悪趣味をこう惜しげもなくお出しされると好き嫌いは別としてよくやってるなぁと感心させられ面白くなってしまう。
それにただのパロディ的な悪趣味アニメに終わっているわけでもない。テディベアの設定は旧約聖書の変奏だし漫画版『ナウシカ』とか『もののけ姫』とか書いちゃってるので比較的察しのいい人ならそこからこの血みどろファンシー戦争映画の着地点がなんとなく見えてしまうのではないかと思うが、つまりこれは…な映画なのであった。うーむこれは。ついこのあいだ観たばかりのU-NEXT配信映画『アウト・オブ・ダークネス 見えない影』がテーマ的にほぼ同じだったので、流行っているということもないだろうが、コロナ禍とウクライナ戦争とガザ侵攻というビッグ波乱が確変状態のこの数年間で、やはりこういう大きなテーマに映画を作る人の目が向いたりするようになったのかなとかはまぁ思う。
日頃フィリップ・K・ディックの魅力はあの貧乏でみみっちいリアルな生活描写なんだよと力説していながらのダブルスタンダードで恐縮だが、日本映画とかもこういう大きなテーマをやればいいのにね。別にやろうと思えば手法なんかいくらでもあるんだから。生きづらさがどうとか丁寧な暮らしがどうとか半径5メートルの小さな物語なんかどうだっていいとまでは言わねぇがそんな映画ばかりこの激動時代に作るというのも逆に不健全なんじゃないだろうかと『ユニコーン・ウォーズ』とは全然関係ない愚痴で感想おわり！