バキボギ映画『FRANG/ファラン』感想文

《推定睡眠時間:70分》

主人公はムショ上がりというかまだ仮出所らしいのだがムショを出てとりあえず街をブラついていると即座にかつての悪友らしきバイクの二人組に捕捉されおい誰々んとこに顔出せよと明らかに裏稼業へのお誘いで主人公に表街道を歩かせる気はゼロ。だが主人公は違った。「もうヤバイ仕事はしねぇんだ」。見た目は悪いが根は真面目らしいこの男は翌日からさっそくまぁまぁキツめの現場仕事に精を出し、ついでに仕事中に怪我をした同僚を気にかけたりして好感度抜群、はたして彼が何をして臭い飯を食うことになったのかは知らないがきっとしたくてした悪事ではないのだろう、どうかこの男には更生して平穏な生活を送って欲しい…だがその翌日は例のバイクの二人組が仲間を連れて現れて更生への道あまりにも早く暗雲、ひとまず逃げ出す主人公であったがバイクの二人組一味の一人と揉み合いになって事故的にそいつを殺してしまう。人生の表街道、終了。今度はもう何十年もムショを出られねぇと踏んだ主人公は母国フランスを捨てタイへと飛ぶのであった。

それから5年。フランスとは何もかもがぜんぜん違うタイであったが主人公は漁師として真面目に働き副業的に賭けムエタイのファイターとしても闘っている。家に帰れば現地で出会った妻と可愛い娘。異国の地で人生の再起をかける主人公のチャレンジは見事成功を収めたようであった、のだが……のだが何があったのだろうか。まったくわからない。わからないが、疲労が頂点に達した金曜夜のまどろみの中で俺が目にしたのはあちらこちらで大量の返り血を浴びながらタイの裏社会人たちをバギボギにぶん殴りまくっていく主人公の修羅のごとし姿であった。わからん、なんでそうなったのかよくわからんが…しかしこれはすごいぞ!

逃亡先のタイで暴力新生活のあらすじからは強烈な臭気を放つ実録ムエタイノワール『暁に祈れ』を想像したが良い意味で期待を裏切って主人公がタイに渡航してからの展開はまるでトニー・ジャーの格闘映画のようだ。さすがにこの映画の主人公ナシム・リエスにジャーほどの身体のキレはなくジャーのようなアクロバティックなアクションもやらないが、しかしその不足は監督ザヴィエ・ジャンお得意の過剰なゴア・バイオレンス描写で補足。自身の身体もバギボギになりながらとにかく激しくタイの裏社会人を殺しまくるのである意味これもひとつの「怒りのデス・ロード」、微笑みと死体写真とクーデターとムエタイの国として知られるタイはこうも西洋人を狂わせるのかと思わされる壮絶さであった。

よくわからないもののラストの感じからするとこれはたぶん因果応報のお話。ジージャー・ヤーニンの鮮烈なアクション・デビュー作となった『チョコレート・ファイター』やトニー・ジャーの『マッハ!弐』などタイ本国の格闘映画はもとより、香港・タイ合作でソイ・チェンが監督したアクション・ノワールの傑作『ドラゴン×マッハ』のような他所の人が撮った映画でもタイが絡むとアメリカ的なスカッとする勧善懲悪アクションにはあまりならず、暴力には必ず暴力が返ってくるという仏教的な無情感が漂うのがおもしろい。この『FRANG/ファラン』も人を何十人も殴り殺す映画だが、主人公をヒロイックに見せる演出法は取っておらず、画面に広がるのはカタルシスなき不毛な暴力のみ(あと死体)。人の死とそして犯した罪がきっちり重いという意味で、なかなか啓発的な映画である。俺は寝ましたがみなさんは目をかっぽじって観て下さい!

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