【ユーネク】『ジェスター』感想文

《推定睡眠時間:70分》

そんなもんは決していいもんではないのだがレンタルビデオ屋が俺の生活圏内からは消滅してしまったため久々に感じた「騙された!」であった。U-NEXT独占配信と思われるこの映画、作品ページの見所の箇所にはこう書かれている。

『ターボキッド』の製作陣が放つ新感覚ホラー。監督の僚友、マイケル・シェフィールドが共同脚本とジェスター役を務める。神出鬼没の不条理キャラが人の心の闇を刺激する。

『ターボキッド』といえばカルト的な人気のある『マッドマックス2』風の未公開SFアクションコメディの快作、『ターボキッド』を作った人の映画ならこれは面白いに違いないとよく読まずに思って再生ボタンを押してしまったわけだが、よく読むと「『ターボキッド』の製作陣」であるし、『ターボキッド』の監督ではなく「監督の僚友、マイケル・シェフィールドが共同脚本とジェスター役」であるし、その監督というのも『ターボキッド』の監督ではなくこの映画『ジェスター』の監督コリン・クロチャックのことらしさが濃厚である。IMDbを見るとマイケル・シェフィールドと『ターボキッド』の監督ユニット(3人で共同監督してる)の繋がりはわからない一方、コリン・クロチャックとマイケル・シェフィールドは2015年ぐらいからずっとコンビ組んで短編ホラーなんかを撮っていることが確認できる。

なるほどな…じゃあもうそれはほぼっていうか全然『ターボキッド』は関係ないな…騙された! U-NEXTにまんまと騙されたよ! くそーなんてウソを吐かずにウソを吐くのが上手いんだ! でもなんか嬉しい! こんなに清々しく騙されたのは本当に久々だもんね! ここまでの騙されはビデオ屋が消滅するだいぶ前からなかったよ! たぶん2007年の『実録・リアル食人族』にまで遡ることになると思う! 「『ターミネーター』のプロデューサー、ゲイル・アン・ハードが放つ」とかジャケ裏に書かれていたこの映画はいくらなんでもゲイル・アン・ハードが関わっているならカスにはなってないだろカス臭はすごいがと思って借りたら血とか内臓どころではなく食人族自体がそもそも3分ぐらいしか出てこないカスのVシネで『ゾンビ・オブ・ザ・デッド』を初めて観たときよりも驚いたし、ゲイル・アン・ハードの翌年の製作担当作は『インクレディブル・ハルク』『パニッシャー:ウォー・ゾーン』なので仕事がなく落ちぶれたわけでもなく何で急にゲイル・アン・ハードこんなカス映画やったんだよとかそのへんも意味がわからず衝撃的な映画であった。

『ジェスター』に関してはぜんぜん面白くなく書くこともないので思わず別のつまらない映画の話をしてしまった。面白くない映画の感想から面白くない映画の感想が生まれるというまるで貧困家庭の子供は成人しても貧困率が高いというような負の連鎖である。これは断ち切らねばならないので私は貧困の大きな要因となっている学力ないし学歴の不足を補うべく貧困家庭の高等教育学費免除などは推進していくべきだと思っていますが、このセンテンスからみなさんに汲み取っていただきたいのはとにかく『ジェスター』は面白くないので感想を書こうとしてもこんな風に話が逸れてしまう、それぐらいの映画だということです。

ジェスターとはイコール道化なのでこれは『道化死てるぜ!』とか『テリファー』とかっていうピエロホラーの一つであり、元となった短編は『テリファー』1作目と同年の2016年に制作されているので、どちらが先かはわからないが、それがこうして2023年に長編映画化された背景にはおそらく『テリファー』シリーズの予想外の興行的成功があることだろう。今なら俺たちの『ジェスター』も売れるに違いない! 2匹目のドジョウ作というわけだが、『ジェスター』が『テリファー』と大きく異なるのはゲロとかグロとか刺激的な表現が皆無という点であった。

心に闇や負い目を抱えた人の前に現れてはそれをグロテスクな小芝居で茶化して苦しめるジェスターはスラッシャー殺人鬼のように実体的な存在ではなく、『ハロウィン』のマイケル・マイヤースのように人々の心が生み出した存在。そのくせとくになんか悪いこととかはしてなさそうな墓掘り人の前に現れて殺したりもするので設定がブレていてよくわからないが、とにかくそのような設定では一応あるので、これは『テリファー』のように人がザクザク死んで楽しいホラーではなく、最近のアメリカのつまんないホラー映画によくある主人公(だいたい女の人)が自分の過去の痛ましい記憶と向き合うその過程を見せる、ホラー風味の心理ドラマといった方がいいだろう。

そのようなわけでこの映画にピエロホラーと聞けばつい期待してしまいがちな残酷シーンは全然ない。あれば面白いというものでもないにしても、本筋の心理ドラマの部分は今までに何千回擦られたかわからない『クリスマス・キャロル』の劣化コピーでしかないので、それならばせめて残酷シーンとか、いや残酷ではなくてもいいのだが、とにかくホラー的になんか面白いものを入れて欲しい。非実体的な存在なのでジェスターが超能力的な感じで人を殺すのは悪くないが、その超能力の使い方ときたら靴紐を結んで転ばせて墓石に頭をぶつけて殺すとか窒息させる(殺され役者の人が苦しむ芝居をするだけ)とか、あまりにもショボすぎると思う。

ホラーとしてつまらないことの言い訳のようにあくまでもこれは真面目なドラマですからね感を出してくるラスト近くの展開はよく観てなかったから詳しいことはわからないがつまらないでは済まずちょっとムカついた。つまらないならつまらないで構わない。フルチの遺作『ヘル・クラッシュ』だって俺は幻想怪奇譚の好編だと思うがホラー的に面白いかと言われたら別に面白くはないだろう。しかし、この映画がつまらなく見えるのは真面目なドラマを描いてるからなんですよ的ななんかそういう態度はまったくけしからんもんである。つまらなくて何が悪い、俺には映画の才能がないんだ。つまらない映画の作り手にはそれぐらい胸を張っていてもらいたいと思う。

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