特撮愛は世界を救う映画『Iké Boys イケボーイズ』感想文

《推定睡眠時間:0分》

コロナ禍直前2020年に撮影されて日本ではコロナ禍真っ只中の2021年7月のジャストタイミングで公開されてしまったカナダ産ウイルス感染ホラー『ロックダウン・ホテル 死・霊・感・染』を観た時にはこれが海外映画初出演という釈由美子さんの演技がこう言っちゃなんだがこんなビデオスルー系の映画にしては相当力が入っていて英語の発音もキレイだし感染した時の身体の動きも見事なもので、釈由美子さんといえばよく知らないが天然系キャラとしてテレビに出ていた人の記憶があったので、こんなに巧い役者さんだったのか! と映画はあんま面白くなかったのだが感銘を受けたのであった。

その釈由美子さんが映画公開時のインタビューで話していた「今アメリカで『ゴジラ×メカゴジラ』を観てオファーをくれた監督と仕事を…」というのがこの『イケボーイズ』であった。『ゴジラ×メカゴジラ』は言うまでもなく役者・釈由美子の代表作、メカゴジラこと三式機龍を操縦する自衛官を熱演し…と物知り顔で書いているが実はゴジラなんか5本かそこらしか観たことないガメラ派の俺は『ゴジラ×メカゴジラ』観たことなし、ということで昨日U-NEXTで観てみたのだが、いやオモロ! 『シン・ゴジラ』よりも『ゴジラ-1.0』よりも面白いだろこれ! 怪獣ものと巨大ロボットものの良いとこ取りじゃん! そしてなにより主演・釈由美子の愛しさと切なさと心強さを兼ね備えた…それは別の人だが、とにかく釈由美子さんの魅力がスゴイ。『イケボーイズ』のオクラホマ在住アメリカ人特撮オタク監督が初めて買ったDVDが『ゴジラ×メカゴジラ』で釈さんにオファーを出す際にも持参したというのも頷けるところだ。なんだそのオタクイイ話は!

このエピソードからも窺えるだろうが『イケボーイズ』は「オタク!!」もはやそうとしか言いようがないオタク映画であった。タイトルはイケメンのもじりであり同時に劇中登場の伝説のレア日本特撮アニメ『行け!虹の世紀末決戦』の「行け」ともかかっているダブルミーニング。時は1999年、オクラホマ在住の冴えないが親友(インド系)と一緒にいつも特撮とか怪獣とかロボットアニメとか観てそれなりに充実した日々を送っていた主人公は日本から届いたソフトに大興奮。「『ガメラ3』のビデオか!?」喜ぶ親友だったが残念ながらそのソフトは『ガメラ3』ではなく『行け!虹の世紀末決戦』であった。主人公曰くこれはかつて電波を受信したある特撮映画監督(岩松了)が自ら視た世紀末ビジョンに基づいて製作し興行的に大失敗して会社を潰した曰く付きの一品。そのフィルムは火災で焼失したかと思われたがオタクネットワークによりどこかに残っていたらしかった。ということでそのブート版を主人公はついに入手したのである。

主人公が胸を躍らせる出来事がもう一つあった。なんと日本から黒髪前髪パッツンの必死な片言英語が激チャーミングな清純派メガネ女子とかいうオタクの理想的女子同級生像を体現しすぎてギャルゲーみたいになっている留学生(比嘉クリスティーナ)がやってきたのである。彼女がホームステイ先に選んだのはなんと主人公の親友の家。ドッキドキの主人公であったがその理由にクラスメイトたちはずっこける。「わたしインディアンに会いたくて、それでオクラホマに来たんです!」。なるほど、インディアン=ネイティブ・アメリカンとインディアン=インド人を勘違いされて主人公の親友のインド系ファミリーにホームステイすることになったのね。

とはいえそんなことは主人公にとってどうでもいい。さっそくお近づきになるべき親友と留学生の三人でビデオを観る回を開く。観るビデオはもちろん伝説の『行け!虹の世紀末決戦』。そこで空気を読まずに自分の趣味を最優先するチョイスがさすがオタクである。案の定留学生はぜんぜん興味を持たずにさっさと寝てしまうがそのときブラウン管テレビから三人に向けて謎の光が放たれた。ぐわー! 気を失う主人公と親友と最初から寝てた留学生。翌日目を覚ますと主人公はおかしなことに気付く。なんと、手からビームが出るようになっているではないか! いったい何が起こっているかわからないがまるで特撮番組のようだと喜ぶオタク主人公。だが同じ頃、同じオクラホマでは、世界の終末と古の神々の復活を待望する闇の秘密結社が動き出していた…そう、まるで『行け!虹の世紀末決戦』に描かれていたように!

このあらすじを書いたらみなまで言うまいという感じである。『幻魔大戦』みたいなアニメ、平成『仮面ライダー』みたいなヒーローコスチューム、ガラモンみたいな怪人着ぐるみ、『宇宙刑事ギャバン』の主題歌も登場…『イケボーイズ』はそういう映画である。もちろん最後は変身合体して巨大ロボットみたいのになる。特撮とあまり縁の無い俺にはついて行けない領域だが、こうもストレートに特撮愛をお出しされるとなにやら感動してしまうから不思議である。いや、出てくるネタはめちゃくちゃオタクだけど展開は結構普遍的なところがあるしね。いつも主人公の親友に彼女ができたことで二人がちょっとした口論になって親友が「もうアニメは飽きたんだよ!」と言い放つところなんか涙なくしては見れないよ。わかる、わかるぞ…みんなやめていくんだよ…みんな仕事が忙しくなったり結婚したり子供ができたりすると今まではアニメとか映画とかロックとかマジック:ザ・ギャザリングの話ばかりしていたのにもうアニメは観なくなるし映画は行かなくなるしロックも聴かなくなってマジック:ザ・ギャザリングもやらなくなるんですよ…! 俺だけだぞ俺の周辺でまだそういうの続けてるの!

というような普遍性に加えて特撮的な平和主義と男女平等の精神、多様性尊重を嫌味なくユーモラスに提示しているところも良きである。こういうものはハリウッドのビッグバジェット映画の上から目線でやられるとなんかムカつくもんな。でもこの映画なら素直に受け取れる。アメリカ人、インド人、日本人、ネイティブ・アメリカン、ドルイド教的な人たち…世の中にはいろんな人がいるが、いろんな人がいるからたのしいのじゃないか。戦隊ヒーローだって出てくるのがレッド一人だけだったら全然面白くないに違いない。みんな喧嘩しないで仲良くやっていきましょうネッ!

そして釈さん…! 出演時間的にはゲスト出演という感じだが、さすが監督が出演を熱望しただけあって意外にして重要な役柄、俺は釈さんがその正体を現した時には素直にびっくりした。ナニッ! まさか釈さんが…!? このへん、まぁ具体的には言えないが、釈さんがフィルモグラフィーを考えれば「そう来るか!」という実にニクい配役であった。いや~それにしても釈さんの芝居は貫禄あるな~。一貫したキャラクターイメージと演技プランがあるから映画全体を通して芝居にブレがないのが釈さんのスゴいところだ。釈さんは知性派かつ演技派の役者さんなのである。

オフビートなコメディかと思ったら世界の終末がどうのとだいぶスケールの大きな話になるところも面白いし青春映画としても共感度が高め(ちょっと『スーパーバッド 童貞ウォーズ』を思わせるが下ネタとかブラックなネタは無い)でかつ爽やか、ちょっとした社会風刺・社会批判も隠し味になっていてイイのだが、惜しむらくはアクションシーンの多くがアニメパートになっており、特撮ヒーロー的なアクションとか怪獣プロレスはあまり見られないところ。あと古の神々はやっぱりでけぇ怪獣であってほしかった。アニメも古の神々もそれ自体は悪くなく作り手の熱意が感じられるものなのだが、やっぱほらせっかく特撮コスチュームと着ぐるみ怪獣作ったんならガツンガツン闘わせてほしい…! 『ゴジラ×メカゴジラ』はゴジラと機龍の怪獣プロレスとロボットアニメを融合させた対決シーンが大きな見所だったわけだし!

でもこれだけ愛を感じる映画ならもはや面白いとかつまんないとかどうでもいいのでどうでもいいです。イイ映画だ。イイオタク映画だった。それにしても、この映画の完成は2021年。同年公開の『ゴジラVSコング』にはメカゴジラのパイロットとして小栗旬が出演していたため、釈さんも笑いながら「機龍を出すなら呼んでほしかったですよ!」と言っていたが、『イケボーイズ』監督のエリック・マキーヴァーも「そこは釈さんだろうが!」と『ゴジラVSコング』を観ながら心の中で叫んでいたに違いない。おいハリウッド! レジェンダリー! 釈さんにどうかオファーを…!

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