もはやこれは昭和ガメラだ映画『温泉シャーク』感想文

《推定睡眠時間:8分》

いったいいつからサメ映画はZ級の代名詞となってしまったのであろうか。言うまでも1975年公開の『ジョーズ』に端を発するサメ映画(ただし1971年公開の『ガメラ対深海怪獣ジグラ』をサメ映画の元祖とする急進過激派もひそかに存在すると言われている)は当初こわいものとしてサメを扱っていたが、100匹目ぐらいのドジョウをまだ狙おうとするサメ映画乱獲製作者たちによって最低予算で乱造されているうちにどうやら視聴者の方はサメが怖くもなんともなくなってしまったらしい。すると逆にサメをおもしろキャラとして使う輩が出てくる。サメ映画史のくわしいことは俺にはわからないので正確な歴史は各種SNSに生息するサメ映画専門家に聞いてみてほしいが、そうした流れの中で出てきたのがC級以下の映画のみを製作するアメリカの映画会社アサイラムによるご存じ『シャークネード』だろう。

『シャークネード』自体も好評を受けて7本目ぐらいまで作られたらしいが、これがおそらく少なくともアメリカや日本などにおけるサメ映画史の転換点となって、以降サメといえばZ級のネタ映画として認知されると同時にそうした需要を当て込んでZ級サメ映画が量産されることになったようだ。最近のサメ映画話題作にフレンチ・スプラッター派のザヴィエ・ジャンによるNetflix映画『セーヌ川の水面の下に』があるが、これなんか「サメ映画なのにちゃんとしてる!」と評判になったぐらいなので、サメがちゃんと怖かった時代の『ジョーズ』や『ディープ・ブルー』を思えば隔世の感である。いや、でも、『ディープ・ブルー』は結構ネタ映画っぽさもあったな…。

『アタック・オブ・ザ・キラートマト』はマイフェイバリットの一本とはいえサメ映画に関してはこれも最近のフランス産サメ映画の『シャーク・ド・フランス』とかみたいなあんまふざけてないやつの方が個人的には好きである。野菜とか果物が襲ってくる映画ならいくらバカげていてもいいがサメならやはり一応はちゃんと怖がりたい。そんなわけで予告編の時点で100%のZ級ネタ系サメ映画であることを打ち出していたこの『温泉シャーク』、ぶっちゃけ俺にはハマらないだろうなと思っていた。思ってはいたが和製サメ映画の期待値は前に『妖獣奇譚 ニンジャVSシャーク』を観たことで底まで落ちていたので、ハマらなくてもまぁいいや寝ればいいし、とまぁそんな気分で観に行ったのであった。

ところがこれがおもしろいではないか…! いや、怖くはない。1ミリ1秒もサメは怖くないのだが…サメ映画というかこれは怪獣映画だな。具体的にどのような関係にあるのかはわからないがたしかこの映画は熱海でロケしてるので熱海怪獣映画祭でちょっと宣伝したりエキストラ募集なんかしてたはずで、それで熱海怪獣映画祭とはちょっとした縁のある湯河原在住のヒカシュー巻上公一とかも出てるんだと思うんですけど、そんなわけで作り手にもたぶんサメ映画にして怪獣映画を、という思いがあったんじゃないだろうか。なにせこの映画に出てくる蘇った古代サメときたら軟体を活かして水道管を移動しそのうち水道管とか関係なくもうなんか普通に地面から生えてくるとかに留まらず、口からは高濃度メタンガスを発し頭からは電磁パルスを発していわゆるひとつのEMP攻撃を行うツワモノ、最終的にしっかり怪獣サイズのサメも出てくるのでこれはもう怪獣映画である。

怪獣映画だってちゃんと怪獣が怖くないとダメだろという反論もまぁわかるが、昭和ガメラのあの子供騙しをまるで隠すつもりのないところに大人の顔が透けて見えてなんか恐くなりつつも、脚本の高橋二三の手柄か縁日の色の悪い謎お菓子みたいな設定や展開が次々飛び出すところは妙に夢や高揚感がある感じが俺は好きなので、この『温泉シャーク』もそういう系の怪獣映画として楽しんだ。こちらは作ってる人にちゃんとサメ愛とか怪獣愛があるので昭和ガメラ特有のテキ屋感はないものの、サメの超絶能力ひとつひとつにちゃんと科学的な説明を(無謀にも)付けていくあたりは昭和ガメラ的、というかたぶんこれは『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』とかのオマージュだろう。潜水艦でサメの本拠地に潜入するところは『ミクロの決死圏』みたいに小型潜水艦でガメラの体内を冒険する『ガメラ対大魔獣ジャイガー』が元ネタかもしれない。

昭和ガメラ系統の怪獣サメ映画なので設定はそんなわけあるかに次ぐそんなわけあるかだが、序盤はミステリーとして案外しっかりしたストーリーが展開され、サメ映画の定番サメ被害を無視する無能市長によってサメ大パニックが巻き起こってからは怒濤の勢い、と演出は雑CGやミニカー特撮をあえて駆使したりとZ級狙いだが、実はB級映画として構成や編集がかなり練られていたのは嬉しい驚き(音楽も案外本格派)。本物のZ級はこんなメリハリなどないしメリハリという概念を作ってる側が知らない。メリハリがあるというだけで嬉しくなるのが逆に悲しくなるが、いやまぁそれはともかく、サメ大パニックのフェーズに入ってからは事態が拡大する一方、サメVS自衛隊、サメVSアメリカ海軍第七艦隊、サメのせいで新幹線大爆破、もはやサメ退治のためには舞台となる熱海ならぬ暑海を隔離&ミサイル攻撃で破壊するしかない!

絵面は完全にチープとはいえこんな大スケールの怪獣サメ映画はなんだか夢のようである。スプラッターばりに血も吹き出すがグロさはゼロというバランス感覚も良し、正体不明の最強マッチョ等ゆるギャグも良いスパイスで、77分間ひたすら楽しいが詰まった映画、それが『温泉シャーク』と言っても過言で…いや、それは過言かもしれないが、とにかくまぁ変な期待とかしないで行くとかなり楽しい、アマプラとかによくある海外のC級以下のサメ映画なんかよりもよっぽど面白いサメ映画の快作であるとは言ってもいいだろう。とりわけ昭和ガメラ好きには堪えられない映画ですよこれは。こんなサメ映画、観たことないッ!

※あと「シャ~ックックックッ!」っていうサメの笑い方すき。なつかしの特撮怪人感。

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