《推定睡眠時間:20分》
あのコはだぁれってそんなもん予告編に『ミンナのウタ』のメロディが流れてたんだから『ミンナのウタ』のあのコに決まってるでしょうがッ! とこちらとしては思うわけですが世の中みんながみんな毎日ホラー映画を観ているわけではありませんし俺だって毎日は観ていないので決まってはいなかったみたいです。その証拠にこのタイトル! 素直に『ミンナのウタ2』とか『ノロイのウタ』とか続編ぽいタイトルにしとけばいいのに『あのコはだぁれ?』ときたもんだ。
どこかで読んだが昔は違ったが現在の日本の映画興行においては新作映画が過去作の続編であることをアピールするタイトルだと逆に新規客の足が遠のくとかいう理由であえて続編ぽくないタイトルにすることが結構あるのだという。たとえば『ワイルド・スピード』(原題は『The Fast and the Furious』)シリーズの6作目『ワイルド・スピード EURO MISSION』の原題はFASTまで取っちゃってシンプルに『Furious 6』。『ワイスピ』ほどの大人気シリーズでもナンバリングタイトルを隠すのが日本流の映画興行戦術であり、『ミンナのウタ』の続編タイトルが一見続編とわからない『あのコはだぁれ?』になったのも、前作未見の新規客にたくさん映画館に来てもらうためだろう。
ご新規様優遇の姿勢は映画の作りにもしっかりと表れており前半45分ぐらいは前作を観ている人には自明なあのコこと女子高生オバケ音効さんサナチャンの設定説明。ホラー現象も大して起こらずいったいあのコは何者なんだということでその正体に迫っていくミステリー展開は前作未見の人にはそれなりに興味深いかもしれないが、前作を観ているこっちからすると「知ってるよ!」なのでなかなか退屈。年がら年中ホラー映画ばかり観ている脳細胞の壊死したオタクはウンコを投げつけてもホラー見たさに映画館に来るゾンビなのでそういうオタクには配慮しなくてヨシという判断だろう。たしかにそうなのでなんかくやしい。
そういえば前作を渋谷の映画館で観たときには若いにーちゃんがジャンプスケアのたびに「わぁぁぁ!」と絶叫しまくっていて映画よりもそちらの方にヒトコワ的な怖さがあったが、最近の日本の若者どもは若いくせにホラー慣れしていない人が意外と少なくないらしく、『M3GAN/ミーガン』みたいな俺が怖くなさすぎてムカついたようなホラー映画がネットの評価などを見ると逆にわけぇもん(と思われる人たち)には好評だったりする。そのわけぇもんトレンドをこの映画も意識したのかようやくオバケ音効さんサナチャンが本腰を上げて人々を理不尽に呪い散らしていく後半部、ほぼほぼ怖くない。前作もジャンプスケアが多くてびっくりするだけで怖いとは思わなかったが、その前作と比べても半分ぐらいの恐怖出力しかなかったんじゃないだろうか。
面白い感じの恐怖シチュエーションが少ないわけでは別にない。ゲームセンターでUFOキャッチャーやってたらいつの間にか中のぬいぐるみが球体関節人形化したサナチャンだったという予告編にも入ってるシーンとか他のホラー映画であんま見たことのない恐怖シチュエーションである。だがしかし、これは怖いというか…なんか恐怖演出を控えめにしているためかシチュエーションの奇妙さばかりが際立ち、その状況に直面した男子高校生の微妙な反応も含めて、よゐこのシュールコントとかロイ・アンダーソンの映画みたいな大声では笑えないがクスクスと笑える感じになってしまっていた。これはちょっとどうなのかと思う。
怖くないが面白いホラー映画といえば近年の中田秀夫ホラーだ。クズだのカスだの散々言われている『“それ”がいる森』だが、ヒドくて笑えるホラーとしてネットのわけぇもんの間でカルト的な人気を博したことを思えば、本気で怖いホラーは怖くて観られないジャリガキどもにもホラーを食わせてやろうとする(※個人的想像)中田秀夫の狙いは見事成功しているんだろう。『ミンナのウタ』と『あのコはだぁれ?』の清水崇も『犬鳴村』に始まる村ホラー三部作では「恐怖回避ばーじょん」などというコメディ演出を施した別バージョンを制作していたのでホラー耐性のない現代の貧弱なわけぇもんを主要客と想定しているのは想像に難くない。けれどもそれが中田秀夫ほど上手くやれているかというと、この映画を観る限りではどうも思えない。怖くはないがかといってゲラゲラ笑えるほどでもなく、清水崇的にはもうちょい怖いホラーを撮りたいがプロデューサーは怖くない方向を希望してるので…みたいな、これはあくまでも想像だが、なんかそういう煮え切らなさを感じるのだ。
民家で時空がねじ曲がったりする終盤の展開はだいたい清水崇の大出世作『呪怨』シリーズといっしょ。まだ『呪怨』ネタ擦るのかよと思うが、一度は都会の民家を脱して山奥の村々を渡り歩き、その後は『忌怪島』で島へ脱出したと思われた清水崇が、やはり田舎暮らしは不便だったのかここへきて都会の民家にUターンしてしまったということは、もしかして前よりも怖くない形でサナチャン主軸に『呪怨』シリーズの焼き直しを『ミンナのウタ』シリーズではやろうとしているのかもしれない。なにせトシオくんという名前のキャラが物語上の重要人物として登場するほどなのだ。超時空民家と幽霊とトシオくんが出てきてしまったらそれはもう『呪怨』である。『呪怨』の恐怖回避ばーじょんである。
『呪怨』のセルフリメイク的な作品と考えれば…『ミンナのウタ』はまだよかったが『あのコはだぁれ?』はちょっと厳しいんじゃないだろうか。そのへん、もはや存在すら知らない人も多いだろうが、『呪怨』シリーズのアメリカ版第4弾『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』なんかの方がよほど『呪怨』ぽさがあって面白かったと思うので、創始者たる自分よりも上手く『呪怨』が作れてしまう人が出てきたんだから、やはりもう清水崇は実家を出て村でも島でもジャングルでも行くべきだろう。いや、他はともかく『牛首村』とかはかなり良かったと思いますよ!