夏休み系映画二本立て感想文『HOW TO HAVE SEX』&『クレオの夏休み』

とくに関係はないがまぁ夏休みってことで夏らしい感じの映画の感想二本立て。イギリスの16歳女子3人組がギリシャのリゾート地でバケーションな『HOW TO HAVE SEX』と、フランスの女児がアフリカの島国カーボベルデでバケーションな『クレオの夏休み』です。

『HOW TO HAVE SEX』

《推定睡眠時間:0分》

先月くらいには『HOW TO BLOW UP』という環境テロのやりかた映画も公開されたがハウツー映画といえば『パーティで女の子に話しかけるには』(HOW TO TALK TO GIRLS AT PARTIES)が印象深くこのタイトルで内容は宇宙人コンタクトもの。ハウツー映画というジャンルがあるとすればだがこれなどハウツー映画の極北だろう。いったいここから何を学べばいいのだろうか。『HOW TO BLOW UP』、『パーティで女の子に話しかけるには』、そして『HOW TO HAVE SEX』。いつかこの3本でハウツー映画オールナイトなんてのも観てみたいもんだ。爆破! セックス! 宇宙人! こう並べるとなんかすごい感じである。

『HOW TO HAVE SEX』の方は宇宙人が出てくることもなくこれこそが『パーティで男の子に話しかけるには』というべき映画、イギリスの学校制度および学校カルチャーはよく知らないが、イギリスの卒業シーズン(なので実は夏休みではなく6月とかである)に16歳中3女子3人組が18歳と偽って世界中からパリピの集うギリシャのクレタ島マリアにやってタバコを吸う酒を飲むマリファナをキメるなどハメを外しつつハメた数を競おうとする。ろくでもない導入部だが実は主人公のはっちゃけ女子は処女で交際経験なし、仲間内だとギャハギャハとはしゃぐが一人では知らない人に話しかけるのもままならないしその相手が旅行先でギラついた学生男とかなら尚のことである。つまりこの人は3人組のほか2人よりも幼いのである。

そんな人が18歳と歳を盛って慣れないパリピ空間に身を浸したところで楽しめないのは当たり前、しかし他の2人とセックス競争だーとかこの旅で初体験するぜーとか盛り上がっちゃった手前無理にでも自分を奮い立たせて初体験をしないといけない、と思い込む。無茶な背伸びをしてリゾート地で1人孤独に心身をすり減らしていく主人公の姿は痛々しい。あるよあるあるそういうの。旅先なんかでの知らない人たちが盛り上がってる中で自分だけ輪には入れないでノれない時のあの孤独感な。ノリの良い連中に仲間に入れてもらって表面的にはハイテンションで楽しいフリをしてるけど心の中では怖かったり寂しかったり帰りたかったりっていう。だから主人公が思てたんとなんか違う初体験をした後ホテルに帰って静かな部屋でホッとしてすぐ寝ちゃうシーンなんか共感したな。俺も旅先でだいたいあんな感じだ。結局ホテルの部屋がいちばん良い。

その意味でこれは恋愛映画でも青春映画でもパーティ映画でもなくもう少し普遍的な本質的に孤独な人の人生の映画なのかもしれないと思った。妙に爽やかなラストは主人公の孤独を埋め合わせるものでは全然ないが、けれどもそこには、まぁ大人も子供も孤独気質の人はみんなこんな風に生きてるんだよ、みたいなやさしい眼差しがある。そのへんで少しだけセックス苦手さん映画の秀作『素粒子』を思わせたりもする映画だった。ギラついた映像とEDMサントラは対置法的に主人公の孤独を際立たせて効果的。

『クレオの夏休み』

《推定睡眠時間:40分》

序盤にある主人公の女児クレオの授業シーンにジーンときてしまってこれは子供たちがみんなでお料理をする授業なのだが自然体の演技とドキュメンタリー風の撮影によってニコラ・フィリベールの名作ドキュメンタリー『ぼくの好きな先生』を思わせる多幸感溢れる場面、うう、俺にもみんなにもこんなに無邪気でかわいらしい時期があったんだなぁ…それがいつかはセックス目的でギリシャに行って酒をしこたま飲んで吐くようになったりするのかと思うと泣いてしまうよ!

そんなクレオの幸せ生活は仕事で忙しいお父さんの代わりにクレオのお世話と遊び友達になってくれる乳母さんによって支えられている。離婚したのか死んだのか知らないがクレオにはお母さんがいないので実質的に乳母さんがお母さんだ。クレオ乳母さん大好き。ところがこの乳母さん海外から出稼ぎに来てる人で本国の家族の事情でその国、アフリカのカーボベルデへ帰らなければならなくなったという。乳母さんから離れたくないクレオは夏休みを利用してカーボベルデにある乳母さんの実家を訪れるのだが、そこでクレオが知るのは乳母さんはあくまでも乳母さんであって、カーボベルデには本当の娘や息子や孫がおり、クレオは決してそれと同じではないということだった。

島国カーボベルデの暖かみのある風景はフランス特有のジャンルであるバカンス映画のそれだがストーリーの方はなかなか現実的で厳しくバカンス気分でのんびり鑑賞とはいかない(と言いつつ寝ているが)。バカンスのムードの中で描かれるのは乳母さん一家の苦しい経済状況であり、フランスと西アフリカ諸国の経済的主従関係であり、乳母さんとクレオの絆も言ってしまえば金で買われたものに過ぎないという大人の世界である。しかしクレオはそれを理解するにはあまりに幼い。異国の地でひとり身も蓋もない現実に直面して孤独に困惑するクレオの姿はこれまた痛々しい。

けれどもこの映画はそれを悲劇としては捉えない。現実なんてそんなもの、とたしかに見せつつも、その現実に触れて少しだけ大人になるクレオの成長も見せる。クレオがフランスに帰るための飛行機に乗るラストシーンは乳母さんとの別れのシーンでもあるけれども、同時に乳母さんとの新しい関係性の芽生えを感じさせるものでもあった。いつかクレオも乳母さんがなんのために乳母の仕事をしていてどんな境遇に置かれていたのか理解する日が来るだろう。そのときにクレオは乳母さんと金で買った関係でもなく一方的に依存する関係でもない真に対等でお互いを思いやる親密な関係を持てるようになるかもしれない。切ないけれども明るくそして美しい、良いバカンス映画でしたな。切ないバカンス映画ということで似てるかもしれないのはなんとなく『菊次郎の夏』。似てないか。

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