疑似キラ映画『赤羽骨子のボディガード』感想文

《推定睡眠時間:30分》

主演がSnow Manのというより俺にとってはキラキラ快作『ハニーレモンソーダ』のラウールでそのラウールが恋してる同級生女子の出口夏希は何も悪いことはしてないのだが家庭の事情で本人も知らないうちに100億円の懸賞金をかけられた賞金首で実はそのクラスメートは全員それぞれ違った特殊技能を持つボディガードという設定を聞けばこれは多少ヤンチャなキラキラ映画だろうとこちらとしては思うわけで実際キラキラっぽい映画ではあるのだが原作は週刊少年マガジン連載作らしい。

どこで読んだか聞いたかは忘れたが近年の少年ジャンプは読者層が変動しており以前は男子が多かったが今は女子もしくは腐女子が多いのだという。少年マガジンはジャンプに比べるとまだ男子向けのイメージが強いがそれも変わりつつあるのだろうか。あるいは、紙の雑誌が年々売れなくなっているこの時代、男子向けの商売をしていたら先がないのでジャンプのように女子・腐女子層も取り込みたいという思惑がこの映画の製作動機としてあったのかもしれない。あるいはあるいは、カネになりゃなんでもいいだけだったのかもしれないが。

しかし基本的には女子向けのキラキラ映画として観るとちょっと物足りない映画ではあった。ラウールと出口夏希が水族館デートに行く序盤などちょっとコメディキラキラの映画版『ニセコイ』を思わせ、秀才設定だが異常なまでの鈍感さで自分が常時ヒットマン&ウーマンズに狙われていることに気付かない出口夏希の視線を、どうせ気付かないからいいと思うのだが自身もボディガードとなったラウールが楽しいデートを装いつつ襲い来るヒットマン&ウーマンズと戦う他のボディガードたちから必死に逸らすあたり、まぁ笑えつつキラキラしててよい。ドキドキの初キッス(と思いきや)シーンもある。

ところが原作がその路線ではたぶんきっとないためかこのキラキラ感が持続しない。以降基本的にはボディガード軍団と殺し屋軍団のバトルアクションであり、そこに裏切り者は誰だ的などうでもいいサスペンスが加わって、ラウールと出口夏希の恋愛はどこかへ飛んでしまう。俺のキラキラ映画定義によればキラキラ映画は主人公女子のビルドゥングスロマンなので、出口夏希の心理描写が無きに等しく、その内面の成長が描かれることもないこの映画は、雰囲気的にはキラキラっぽいとしてもキラキラ映画とは別物と考えた方がいいだろう。

で、じゃあキラキラじゃないやつとして観るとどういう感じかというとこれは映画版『バイオレンスアクション』に印象が近いと書けば分かる人には分かるでしょうが、まぁ要するにそういうことだ! ただこれに関しては演出とか脚本がどうこうというよりもそもそも2時間の映画向きの原作ではなかったんじゃないのか。クラス全員殺人も厭わぬなんらかの達人という設定を聞けば『暗殺教室』が思い出されるが、『暗殺教室』は性格の違いこそあれ能力的にはみんな殺し屋候補生の設定なのでわりと横並びであった。そのため実写映画化もされたが、その際には先生VS生徒たちの構図で物語を回すことができたわけである。

がしかしこの『赤羽骨子』は23人ぐらいのボディガード全員が違った特殊技能を持つという設定。したがって中にはネット配信者とかいうどこが特殊技能なのかわからないしお前はボディガードしてねぇだろという人もなぜか混ざっているそれぞれのボディガードが特殊技能を生かして敵の殺し屋連中と戦ったり学校のイベントなんかこなすという展開になり、読んでないから知らないが、それは週刊連載の形式なら話が作りやすくていいだろうとしても、なにせ特殊技能持ちが23人くらいもいるわけだから、2時間の映画にその面白さを凝縮することは不可能だろう。

実際、特殊技能持ち23人ぐらいといってもちゃんと活躍するのはほんの数人に過ぎず、序盤に8分ぐらいかけて全員の特殊技能と名前が紹介されるシーンがあるのだが、配信者とか新体操とかが見せ場を作りにくいのはわかるとしても、罠師とかメカニックとか頑張ればアクションシーンを盛り上げられそうなキャラも以降は単なる置物化してしまう。この手の映画にしてはやや長尺の上映時間117分というのも、たぶんキャラが多すぎてまとめきれなかったからだろう。主演がラウールの都合、ただでさえごちゃついているのにキラキラ映画っぽい要素まで入れなきゃいけないし、あと何人も出てくる殺し屋の一人が土屋太鳳なのでそこにも見せ場を作る必要があり、なかなかたいへんである。

てなわけでキラキラ映画なのかアクション映画なのかコメディ映画なのかのどっちつかずでつまらない映画だが、ぬるいとはいえアクションが多めに出てくるのでつまらないなりに観ていて退屈しないし、リアリティラインが極限まで下なのでラウールの大袈裟なマンガ芝居も映える映える。ヅカ風男装の麗人的な土屋太鳳はカッコよさよりもイタさの方が勝ってしまっている気がするが、でもまぁたぶんこういう悪役的な役柄は初めてでしょうからなかなか興味深く見た。しかし、せっかく土屋太鳳を起用したならもっとアクションしてもらえばよかったのにな。土屋太鳳、アクションできる人なんだから。

そんなところだろうか。こんな映画を律儀に観てちゃんとした感想を書いてる俺は偉いなと自分で思う。

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