《推定睡眠時間:0分》
世は大リマスター時代、フィルム媒体やテープ媒体の劣化の問題もあり過去のあんな映画こんな映画がデジタルリマスターされては映画館に流れてくるわけであるが、そんな中でこの映画『帰って来たドラゴン』も2Kリマスター完全版の冠を被って劇場に帰ってきた。といっても世代的に『帰って来たドラゴン』を初公開時1974年に目撃していない俺には帰ってきた感などないわけだが、今回新たに作られた日本版予告編を観てしまったものだからそれはもう帰って来た!!! と感嘆符を三つ付けて叫びたいところである。なにしろその予告編ときたらアクション、アクション、アクションですごい。画質はなぜかVHSみたいな画質なのだが昔の香港映画だしそこらへん予告編用の素材にロクなのくれなかったとかだろう。とにかく帰って来てくれてありがとうドラゴン。これは劇場でぜひ観なければと思った。
ということで日本で一番カンフー映画に強い新宿武蔵野館(運営会社の会長が詠春拳の使い手)の座席に深々と座るとスクリーン位置が低くて前の人の頭で見えなくなるからそんなに深々とは腰を沈めずに座って映画が始まると衝撃! あれっ! 予告編のあのビデオ画質じゃねぇか! なんでも本編開始前に出るテロップによればこの映画のネガは消失してしまい今回の上映に当たっては監督ウー・シーユエン所有のデジタルマスターを基に上映素材を作ったのだという。デジタルマスターと言葉をボカしているが細部は相当潰れているし元々シネスコと思われるアスペクト比の左右がカットされてるしでこれVHSから起こしたDVDだろマスター。たしかにリマスターしているわけだから2Kリマスターの謳い文句に偽りはないが世間一般がイメージするところのリマスター映像からは東京と香港ぐらいは離れているだろう。よく上映できたなと思う。これはもうお客さんを呼んでお金を取る劇場用の上映素材としてはギリギリを少しはみ出したレベルじゃないだろうか。さすが日本初公開から50年間ずっと劇場に帰って来なかっただけある。
だが…もはやそんなことはどうでもいい! なんだこれは! なんだこの限界超えの香港画質など忘れさせる圧倒的な面白さは!!! すごいアクションとすごいアクションとすごいアクション! すごい顔芸とすごい顔芸とすごい顔芸! 更には『007』シリーズに便乗しようとでもしたのか無駄にやたら出てくるオモチャ的ガジェットの数々! ここまで来るとこれはもう面白の暴力である! 面白が俺を蹴る! 殴る! 血反吐を吐かせる!
とにかくブルース・リャンと倉田保昭のアクションがすごいのだ。中でも戦っては走り、戦っては走り、戦っては建物をよじ上り、戦っては建物をよじ上り、戦っては今度は飛び降りて、戦っては今度は飛び降りる終盤の長尺バトルはものすごい熱量。ブルース・リャンの軽快な連続後ろ回し蹴りに倉田保昭の切れ味鋭い手技。ブルース・リャンのヌンチャクにトンファーで応じる倉田保昭。とくにこの武具戦などぶっちゃけブルース・リーの映画より燃えた。いや、たしかにブルース・リーは超すごいのだが、リーの映画は超強いリーが悪人をバッタバッタとやっつけていくスタイルなのであまり実力伯仲のバトルシーンがなく、そのため『ドラゴンへの道』のチャック・ノリス戦を除いて意外と緊張感がないのだ。しかし『帰って来たドラゴン』のブルース・リャンVS倉田保昭は違う。主人公はブルース・リャンなのだが、倉田保昭が異常に強いので、どちらが勝つかと目が離せないのである。
この終盤の長尺バトルがすごいのでどうしてもそこばかり目が行くが、マカロニ・ウエスタンを清朝時代の中国僻地に置き換え、銃の代わりにカンフーを武器にしたという感じのこの映画は前述の通り娯楽性の塊、なにも最初から最後までアクションだけやっているわけではなく、コメディありコンゲームありガジェットありカーチェイス(?)ありと娯楽映画のあれもこれも全部詰め込んで楽しませてくれる。主人公の義賊的なブルース・リャンがなんでも拳で解決するカンフーの達人と思わせておいて結構セコイとか香港味あふれるキャラ造型なのも親しみやすくて好感度の高いところ、対する倉田保昭は小手先の小細工などなしでとにかく強くてカッコイイ!
これを香港らしい雑な作劇とかキャラ設定と捉える人もいるだろうが、俺としては最初にブルース・リャンをルパン三世的な頼れる義賊としてユーモアを交えて演出しつつ、倉田保昭登場の中盤以降はブルース・リャンの意外と頼りない面を見せながら同時に倉田保昭の強さを強調することで観客を「おいおい強すぎるだろこれ勝てるのかよ…」という気にさせる、実は計算された構成の映画になっていたんじゃないかと思う。まぁそれでも途中コンゲーム展開に入ると「カンフーまだ~?」って感じで多少ダレないこともないが…!
かつて俺は『死霊のえじき 最終版』をビデオで観たときになんと面白いゾンビ映画なんだと感動したものであった。しかし後に知ることにはこの『死霊のえじき 最終版』、プロデューサーのリチャード・P・ルビンスタイン指示のもとテレビ放送用に残酷描写を全部カットし四文字言葉などの台詞まで消されたボロボロ版、とくに新録映像があるわけでもないし残酷描写を全カットした結果シーンとシーンが繋がらなくなってしまったというほどの潔いまでのストレートな劣化版であった。にも関わらず、ここまでズタズタにされても『死霊のえじき 最終版』はめちゃくちゃ面白かった…それはひとえに『死霊のえじき』という作品がちょっとやそっと(どころではないが)ハサミを入れたところで本質的な面白さは変わらない傑作だったということだろう。
この『帰ってきたドラゴン 2Kリマスター完全版』にも同じことが言える。映画館で観る映画としては素材が限界超えかもしれないが、内容が滅法おもしろいのでそんなことは途中からどうでもよくなってしまうのだ。いや、シネスコで撮って左右カットしてるから主演ブルース・リャンと倉田保昭が原っぱで相対しているシーンなど二人とも見切れてしまってスクリーンには真ん中の何もない原っぱだけ映ったりするというどうでもよくならない箇所も結構な頻度で存在していることはたしかだが! しかしそんな程度でこの映画の面白さは損なわれたりしないのだ。
ちなみに今回完全版とあるがそれは以前日本で発売されたソフトでは悪徳宿屋役のディーン・セキが濃すぎる顔芸を披露する顔面アクションシーンがカットされていたためらしく、この完全版ではビデオやDVDでは観られなかったディーン・セキの至芸が存分に楽しめるというわけであった。そこは比較的どうでもいいかもしれない!(しかしすごい顔芸なのでやはりあった方がいい)
※なお同時上映の『夢物語』は現在の倉田保昭のプロモ的な短編アクション映画で、定年やもめ設定の倉田保昭が夢の中でいろんなシチュエーションの戦いを繰り広げる…という連作。本人曰く78歳の倉田にどんなアクションができるかということで製作されたらしいが78歳にしてこのどっしり芯の入ったブレのない切れ味鋭いアクションはさすがの一言。鋭い眼光も未だ衰えぬ(これはむしろかつてより増した気がする)倉田保昭78歳のアクション・レジェンドっぷりがよくわかる、こちらも必見作である!
にわかさんの激推しをチラッと見てたので、感想は読まず、別映画のついでに見ましたがめちゃくちゃ面白かったです。
劇終バーンでブツっと音が切れて終わる香港映画ENDをリアルタイムの劇場で体験できていなかったのでサイコーでした。
香港映画の「劇終」いいですよね笑
よっしゃ、映画一本観たぜ!っていう謎の達成感と清々しさがあります!