なんかドラえもんぽい『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』感想文

《推定睡眠時間:25分》

今度の映画クレヨンしんちゃんは恐竜ネタだってんでいつものように野原家にどこかから逃げてきた恐竜の赤ちゃんがやってきてかすかべ防衛隊のみんなで可愛がったりするのだがその恐竜はバナナが好きだし「ナー」という鳴き声なのでかすかべ防衛隊によりナナちゃんと命名、その声をアテているのは水樹奈々であった。ははは、ナナちゃんの声優が水樹奈々なんておもしろーい。誰を喜ばせるためのなんのギミックなんだ。

ということでそんな映画クレしん2024ですがわりあい面白くは観たものの全体的に映画クレしん感が希薄。それもそのはず今回は『ジュラシック・パーク』のあまりパロディになっていないパロディで東京に蘇った恐竜たちを展示するテーマパークが出来たという設定なのだがこれはどちらかといえば映画ドラえもんでやるネタだろう。恐竜好きだった藤子・F・不二雄先生は存命時に映画ドラえもんで『のび太の恐竜』『竜の騎士』と二度も恐竜テーマをやっているし、その後の映画ドラえもんでも『のび太の恐竜2006』『のび太の新恐竜』と恐竜テーマの作品がある。しかも恐竜と遊ぶテーマパークは『のび太と銀河超特急』に登場する。

余談ながらこれにはちょっとした因縁(?)があり、『ジュラシック・パーク』原作のマイケル・クライトンは1973年に自身の脚本・監督作として映画『ウエストワールド』を発表しているが、西部劇の世界を人工的に再現したテーマパークという設定のこの映画(最近はドラマの方が有名だろうか)の本国公開に先立つこと半年前、F先生もまたビッグコミック誌に西部劇のテーマパークを舞台にしたサラリーマンの悲哀漂う皮肉なSF短編『休日のガンマン』を発表しており、しかもそのテーマパークの名前がウエストワールドならぬウエスタンランド。こんな偶然があるのか? とはいえ1973年のマイケル・クライトンがいくらF先生の作といえど日本の雑誌に載ったSF漫画なんか読んでるわけもなく、想像だがA先生ともども映画通であったF先生のこと、洋画系の映画雑誌かなんかで「SF作家のマイケル・クライトンが今こんな映画作ってます」みたいな記事を読んで、早速自分なりに翻案した、というのがありえそうなところじゃないだろうか。F先生の筆の速さは異常である。

本当に余談であった。映画クレしんに話を戻しますすいません。という感じでまぁクレしんっていうか今回映画ドラえもんぽくて、河川敷に流れ着いたナナをシロが発見するっていうツカミも映画ドラえもんぽければその後すぐにパニック展開になることなくかすかべ防衛隊+野原家とナナの交流が結構時間をかけてのんびり描写される夏休み感もまた映画ドラえもん、感というか今回は夏休み中に起こった出来事という設定なのだが夏休みというのもクレしんってか映画ドラえもんだよね。

奇怪テーマパークができるのが春日部じゃなくて東京というのも映画クレしんらしくない。ヘンダーランドだって20世紀博だって春日部の郊外に忽然と出現していたのにな。F先生自身書いていることだが映画ドラえもんは日常を壊すわけにはいかないので少なくともF先生存命中の映画ドラえもんは全て異世界を舞台にしているし今の映画ドラえもんも記憶が確かならばその路線を踏襲しているはずである(「でもたまには日常を壊したい…!」というF先生のダークネスが炸裂したのがシリーズ屈指の破壊編『鉄人兵団』であった。いやホントにそう書いてるんだよ)。対して映画クレヨンしんちゃんはヤベェやつらが平然と日常に入ってきて野原家が巻き込まれるのが黄金パターン。あの春日部の退屈な日常が突然現れた奇妙なものに浸食される感じが『ヘンダーランドの大冒険』や『オトナ帝国の逆襲』、『踊れ!アミーゴ!』などに典型的な映画クレしんの魅力の一つであった。

映画クレしんの魅力といえばエキセントリックな敵キャラも欠かせないところで…と思っていたのだが映画クレしんの近年の作である『新婚旅行ハリケーン』『謎メキ!花の天カス学園』にはあまり面白い敵キャラが出てこなかったし、しかもそれでわりあい好評らしいので、エキセントリックな敵キャラはもはや映画クレしんの必須要素ではないのかもしれない。今回の敵キャラは薄かったな~。恐竜テーマパークを作ったビッグマウスの興行師みたいな人が敵なのだが、そんな人ならいくらでもエキセントリックに味付けできそうなのに、結構ふつうに人間してる感じである。恐竜の方もリアル路線だからふざけた恐竜とか出てこないし…これクレしんか?

いや、面白いか面白くないかで言えばわりと面白かったんじゃないかと思うよ俺は。切れ味はそうでもないとはいえわかりやすいギャグは多く仕込まれているので場内のキッズたちにもウケてたしな。あとまぁ恐竜が暴れるとそれは単純に面白いから。恐竜おもしろい、ギャグおもしろい、赤ちゃん恐竜かわいい。日常の延長線上にある序盤が長いので映画というよりもテレビ版のスペシャル回っぽさを感じるとはいえ、かすかべ防衛隊がしっかり活躍するのも嬉しい。でも映画クレしんの新作として考えるとシリーズを長く観てきたいつまでもオトナになれない俺のような人には結構違和感があるんじゃないだろうか。主観客はあくまでもキッズであってオトナ観客なんか鼻くそみたいなもんだろうからオトナがどう思おうと知ったこっちゃないとでも言われれば、それはあまりにも正論なので何も言い返せないのだが…!

※更なる余談ながら『恐竜日記』というだけあってしんちゃんがナナと過ごした日々を絵日記に綴っていくシーンがあるのだが、絵日記を小道具として活用したキッズアニメといえばやはり映画ドラえもんの『のび太の創世日記』である。なんかそんなところまで映画ドラえもんぽい。

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