《推定睡眠時間:0分》
どう感想を書こうかこれはちょっと迷った映画でそれというのも俺はほとんどなんも知らず…まぁ『ダッシュカム』とか『ザ・ディープ・ハウス』とかあと『スプリー』とかね、そういうタイプの迷惑系配信者を主人公にしたPOVホラーの新作なんだふーんぐらいな情報量で観に行ったもんで、主人公の迷惑系配信者が幽霊屋敷の各所に配信のためのカメラを仕掛けていく『コンジアム』であるとか『シークレット・マツシタ』みたいな序盤を観ながらまぁいつもの感じだな、早くオバケ出ないかなーあんま面白そうじゃないなーとか思っていたら、思っていたらですよ。そっちなんだ! っていうね。その「そっち」がどっちなのか書くべきか書かないべきかで迷ったんですよ。それ書くとネタバレになるのかなみたいな。
でもまぁいいか、ネタバレっていうのはほらそれを知ってしまうと面白さが減りがちなものですけど、この場合は別にそういう映画だと頭に入れて観に行っても面白いというか、逆にそういう心構えで観に行った方が楽しめるまであるし、コワイ映画なのかーそれなら苦手だなーとか、POVホラーもう飽きたよーみたいな人が、そういう映画と知らずにこれを見逃してしまうとしたらそれはもったいない。だから書いてしまいますけれども爆笑もう爆笑。いや笑ったわー。ホラーとしてもオバケっていうかクリーチャー的なオバケの造型とかグッとくるところは多いし白塗りの女オバケがぐわーって迫ってくるところとかヒィ! ってなりますけれども、そういうホラー感とかコワさを結局は笑いの前振りとして使っているので最終的には大笑いなのよ。最近の映画でいちばん笑ったかもしれない個人的に。
たしかに道具立ては完全に幽霊ホラー。笑えるといってもたとえばまさかの続編公開迫る『ビートルジュース』みたいにおかしな格好をしたオバケがギャグをかますとかそういうわけじゃない。同じロケ地と同じオバケを使って別の人が脚本を書いたり監督をしたら笑いどころのないコワイだけの本格ホラーにさえなったんじゃないかと思う。ところがこの映画は主人公が迷惑系配信者のバカ。起こる出来事はホラーなのだが、それに直面する主人公の頭が良い意味で悪すぎるので、コワイはずなのに笑わずにはいられないのだ。
さて主人公の迷惑系配信者は視聴者欲しさに人種差別系の配信なんかに手を出して大炎上し広告主も撤退という絶体絶命状況。この窮地を乗り越えるべく彼が選んだのは幽霊屋敷から生配信して怪奇現象に自分がビビる姿を見せるというものだった。濁流のように流れていくコメント欄には死ねとかつまらんとか童貞とか心ないコメントばかり。オバケだけでなく後に小学生がほとんどであることが判明する視聴者たちもまた敵という状況設定が既にちょっと面白い。初期ニコ動にこういう感じの配信者いたよな。視聴者が全員敵だからコメントが罵詈雑言で溢れるっていう。
孤立無援の主人公だが動画を盛り上げるために彼は更に自分を追い込む。乗ってきた車のパーツを自分で抜いて即時発進できないようにし、幽霊屋敷の入り口には自分で鍵をかけてオバケが出てもすぐに逃げられないようにするのだ。なんという逆転の発想! 逃げようとするときに限って車のエンジンがかからないとか玄関のドアが開かないとかはホラー映画のド定番だが、これまであまり納得のいく説明はされてこなかった。しかしこの映画は違う。主人公が自ら退路を断ってしまうのである。
あまりにもフラグすぎるフラグに失笑を禁じ得ないが、しかしよく考えればホラー的状況を作るためのナイスアイデアである。POVホラーにはよく「いやなんでお前はその状況でカメラを回してるんだよ!」というツッコミを入れる野暮な人がいるが、この映画はそんなツッコミを受け付けない。なぜ車で逃げないのか、なぜ玄関ドアが開かないのか、なぜカメラを回し続けるのか…すべての答えは主人公が頭の悪い配信者だからである。これほど説得力のあるホラー映画定番シチュエーションの説明が今までにあっただろうか!
そんなわけで当然ながらその後主人公は幽霊屋敷でオバケの数々と遭遇し自業自得という言葉がこれほど適切な例もないというぐらいコワイ目イタイ目を見るのだが一人もしくは複数人の生死のかかった決死の生配信でかつ史上初めてかもしれない本当にオバケの映った生配信なのに視聴者は小学生でかつ敵なので衝撃的な映像に反して画面の右端に流れる視聴者コメントは「寝るわ」とか「はいヤラセ」とか心ない小学生コメばかり! 中にはビデオレターを撮ってコメ欄にリンクを貼って主人公を応援してくれる善良な小学生もいるのだがどいつもこいつも「要するにあんたもう積んだと思う。ご愁傷様」の結論に至ってお前らも結局敵か! こんな状況なのに全国の小学生にイジられる人気迷惑系配信者の哀愁に爆笑不可避。
だが主人公はこれまで幾多の危機を乗り越え全国の小学生に笑いと反感を届けてきた男。いわば闇のヒカキンというべき彼がオバケごときに怯むはずはなかったということでオバケとの承認欲求をかけた戦いが始まるのだがその戦いが類は友を呼ぶとか争いは同じレベルの者同士でしか起こらないとかいう言葉を地で行く底辺の泥仕合で情けないを通り越してもはや感動の域だ。「俺は前に無許可で他人の曲を動画内で使用して著作権侵害で訴えられたことがある…ならオバケにも著作権侵害を食らわせてやればいいじゃねぇか!」自分の恐れるものは相手(オバケ)も恐れるだろという発想だが、こんなにバカな除霊方法(?)を実行するホラー主人公は俺の知る限りでは他にいない。
ちなみにこの映画に出てくるオバケはオバケなのだがちゃんと物質化してくれているので主人公とオバケの戦いは棒で殴るとかオモチャをぶっ刺すとかの物理戦である。そのしっちゃかめっちゃか感もまったくバカバカしくて笑えてしまうし、POVだからとオバケをちゃんと見せずに済ませる映画も少なくない中で、これはオバケ描写(といいつつ見た目は普通にクリーチャー)から逃げてない感じが好ましかったな。そのへんも含めて、POVらしからぬなんだか清々しい爆笑ホラーって感じで、いやー、思いがけずめっちゃよかった!