長澤まさみ誘拐事件映画『スオミの話をしよう』感想文

《推定睡眠時間:10分》

基本的に脚本のみの提供に留まるテレビドラマに比べて自身が監督も務める三谷幸喜の映画は賛否両論でハマる人はハマるがハマらない人は徹底してハマらず『ギャラクシー街道』なんかほとんど炎上に近いぐらい否定的な感想がネットに吹き荒れていたなと思い出す。その『ギャラクシー街道』が結構楽しめた俺でもこれは苦手な三谷幸喜の映画だなぁ…というのはあり、『スオミの話をしよう』の予告編を観たときにはそっちの三谷幸喜の映画だと直感したので、公開初日に実は観に行けたのだがどうせつまんないからいいやと思って映画館には行かず、家に帰ってU-NEXTで新しく配信が始まった『パンダザウルス』という映画を観ることにしたのであった。

その感想は数日前に書いたからここでは繰り返さないがめちゃくちゃ後悔した。これならやっぱ『スオミ』観に行っとけばよかったと心から後悔した。ということでごめんなさい的にほんの数時間前に『スオミ』を観てきたら予想に反してあら面白いじゃないの。やはり映画というのは観てみないことにはわからないもんだなと反省。これからは直感でつまらない判定をした映画もちゃんと観に行って「つまんねぇ映画だな!」ってキレたいと思います。

さて観る前の俺の『スオミ』内容予想は長澤まさみ演じるスオミという謎の女の人を巡りその元夫たちが室内で俺のスオミはあーだこーだと議論を重ねる中でスオミの実像が浮かび上がってくる的なつまらないディスカッション劇だったのだが、これが良い意味で外れてくれた。スオミは現在金持ちの詩人・寒川という人の妻。その前夫が刑事の西島秀俊で、スオミと連絡が取れなくなったことから寒川の金持ち邸宅を訪ねると(※ここらへん見逃しているため詳細不明)寒川は隠すがどうやらスオミが誘拐されたんじゃないかということがわかってくる。果たしてスオミを誘拐したのは誰なのか、その目的はなんなのか、事件を解決するためにスオミの元夫たちが次々と寒川邸へとやってくる…とこういう筋立てでこれは『キングの身代金』もしくはそれを原案とする黒澤明の『天国と地獄』のパロディ的変奏、基本的にはユーモア会話劇だが骨子はミステリーなので会話劇ニガテーな俺でも楽しく観ることができた。

スオミの前の夫たちが一人また一人と増えていってそれがまた微妙にズレた人たちであるのも展開にメリハリをつけていて面白く、増えれば増えるほど船頭多くして船山に上るで逆に混乱してくるのも面白い。みんな俺こそがスオミを一番理解していて一番スオミに愛されてたんだなんてしょうもない見栄張っちゃったりしてね。こういう感じのどんどん首を突っ込む人が増えて収拾が付かなくなっていく話を作らせるとやっぱ上手いんだよ三谷幸喜。ギャグなんかはわりとベタなものが多かったけどそうスベってる感じもなかったもんな。

とはいえめちゃくちゃ面白いかというとそうでもなく、骨子はミステリーのはずなのだが実はその部分はそれほど意外性もなく緻密でもない。見せたかったのはそれよりもクセ者たちの芝居なのだろうな。西島秀俊、松坂桃李、遠藤憲一、坂東彌十郎ら芸達者が一同に介して噛み合うような噛み合わないようなクスリとくる掛け合いをする、その面白さ。それから長澤まさみ(と宮澤エマ)の七変化。現夫と元夫たちの語るスオミ像は全員違うので回想シーンでは長澤まさみが様々な顔を見せることになる。俺は長澤まさみの良さがそんなによくわからんが好きな人にはヒットするのかもしれない。

今回そういう役者で見せる映画の面が強いのでシナリオの完成度という意味ではそれほどでもなかった。おそらくテーマとしては自分は妻のことをよく理解していると思っているが実は全然理解していない夫(たち)の滑稽と、さまざまな男にさまざまな形で依存してきた女の自立があるのだろうが、そのどちらも中途半端で掘り下げが足りなかったように思う。まぁそんな深刻な映画じゃないし役者たちの妙演を気楽に楽しんでくださいってことですかね。そういう映画としてはたしかに悪くないのだが。

ちなみにエンディングは三谷幸喜の愛するハリウッド・ミュージカルを意識したもののようだったがその演出は振り付けから音楽から歌詞から撮影からとにかく全面的にダサくてキツかった。そうなんだよな~三谷幸喜は動的な演出が本当に下手なんだよな~。画作りも平板だしこれはあれじゃあないか、三谷幸喜は脚本と役者の演技指導に徹して、映画全体の監督は別の人に任せた方がいいんじゃないだろうか。三谷幸喜としては役者の芝居は全部カメラに収めたいからという思いがあってそれがあの平板さとかダサさを生んでいるのだと思うが、でも映画って役者を撮る以外にもいろんな面白いテクニックが使えるわけだからさ…まぁこの映画に関してはエンディング以外は面白かったからいいけど! 次からはちょっと考えてみてもらえますと…。

※ちなみにスオミというのはフィンランドのことらしいが、なんでフィンランドなのかはよくわからなかった。

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