犯人の正体にわりとびっくり映画『ファウンダーズデイ/殺戮選挙』感想文

《推定睡眠時間:20分》

まったくもう、『殺戮選挙』なんてサブタイトルを付けられたら観に行かないわけにはいかないではないか! なんたって殺戮でかつ選挙だからな! ってことはあれだろ「清き一票を!」とか言いながら斧とかを脳天に振り下ろしたりするんだろ! うひゃひゃ超おもしれー! 町長選だけにちょうおもしれー! バカか! お前ら町長選ごときで人を殺すな! せめて知事選とかにしておけ! いやはや、しかし冗談ではなくアメリカの選挙は本当に人が死ぬので、これはアメリカ映画だが、アメリカならまぁやりそうだな…とか思ってしまうのがおそろしいですね。次回ハリスVSトランプのアメリカ大統領選は誰も死ぬことなく平穏に終わることを願っております…って当たり前だろそんなもん! なんでその当たり前がアメリカ人にはできねぇんだ! なんでなんだ…。

ってなわけで町長選で人が死ぬスラッシャー映画である。現職派と新人派が辺鄙な田舎町を分断する中、新人候補者の娘が殺されたとの衝撃ニュースが町に到来。その後も続々と住民たちは覆面殺人鬼に殺されていき投票どころか選挙まで生きていられるかわからない異常事態となってしまった。新人候補者の娘の恋人だった主人公はどうにかしてこの異常事態を打開しようとするが、やがて見えてきたのはかなり意外な真実であった。いや本当にかなり意外な真実であった!

いやぁ、まさかあの人が犯人だったとはね…それも意外だが、こんなタイトルとネタでいわゆるボディカウントムービー的なスラッシャー映画というよりは、オリジナル版の『テラートレイン』『プロムナイト』、はたまた『スクリーム』のような血の気が薄くフーダニットみの強いミステリー型のスラッシャーだったことが意外だった。ファウンダーとは創設者の意であるからこの殺人鬼は町の創設に携わった判事?みたいな人の格好をしてアメリカの法廷で使う木槌で町人を粉砕していくが、イーライ・ロスの『サンクスギビング』もたしかそんな感じの設定だったから、『サンクスギビング』みたいなゴアゴアスラッシャーかと思ったのだが。といっても『サンクスギビング』もフーダニット要素は結構強かったので結局は『サンクスギビング』の便乗模倣作なのかもしれない。犯人の意外性は『殺戮選挙』の方が上だったけどな!

したがってそういう映画とわかって観ればなかなかの掘り出し物、『ツインピークス』じゃあるまいしという感じで新人候補者の娘の殺人事件を端緒に町の人々の影や確執が浮き彫りになっていく序盤はスロースターターで眠くなるも、そうしたドラマ面を丁寧にやっているために犯人の正体には驚かされるし、「そんな動機で!?」とはまぁ思うが、それでもよくあるボディカウント型のスラッシャーよりは全然事件の真相が納得のいくものになっていた。

政治が人命よりも優先されるアメリカ分断社会を痛烈に皮肉ったラストはオバマ大統領に着想を得たとアメリカ政治風刺映画の佳作『ルース・エドガー』をちょびっとだけ思わせたりもしたし、『殺戮選挙』のタイトルからは想像しにくいが(日本の配給が勝手につけたんだから当たり前だ!)、スラッシャーというよりはミステリーとしてわりあいしっかり作られているだけでなく批評性も高いという、実はこれは知性派の映画だったのである。

なんだイイ映画じゃないか、と思うが、まぁ『殺戮選挙』なんて言われたらほらやっぱなんかそういう…ね、ほら頭の悪い血飛沫映画をみなさん想像するでしょう! 俺もそういうのを期待しちゃってたから殺人描写がヌルいな~なんて思いながら雑に観ちゃったよ。それでちょっと損したね。だからこれからこの映画を観る人がいたら血みどろスラッシャーじゃなくて風刺要素込みのフーダニットとしてお楽しみくださいって感じですよ。そういう目で観ればなかなか唸らされる映画なんじゃないすかね。

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