《推定睡眠時間：10分》
なんでも世間では生放送中におそろしいことが次々起こる新作ホラー映画が話題だそうでへぇそれは面白そうということで俺もこのスナッフ動画の生配信中に人が痛い目に遭う『ディープウェブ／殺人配信』を観に行ってきたわけですけれども…え？ 違う？ 世間で話題の生放送中におそろしいことが次々起こる新作ホラーは『悪魔と夜ふかし』？ ……だ、騙された～！ 騙されたけどでも『ディープウェブ／殺人配信』の方がおもしろかったとその後『悪魔と夜ふかし』も観て思いました！ その感想はまた次の機会を待て！
ということで『ディープウェブ／殺人配信』、先日『ファウンダーズデイ 殺戮選挙』を配給したばかりのエクストリーム配給による殺人〇〇第二弾！ 選挙をやっても殺人！ 配信しても殺人！ 普通のことをやってるだけなのに殺人事件が起こってしまう世の中が恐ろしくなるばかりだ！ 次はいったいどんな殺人〇〇が待ち受けているのだろうか！ 『殺人料理』とか『殺人入浴』とかかもしれませんね！ 映画そのものよりもその映画を観たことで次はどんなネタを持ってくるんだろうかねぇと楽しみになってしまうのがエクストリーム配給映画の良いところだ！ つまり察しのいい人は気付いているかと思うが『ディープウェブ／殺人配信』はそんな大した映画ではなくB級の下ぐらいの出来のホラー映画である！（でも『ファウンダーズデイ 殺戮選挙』は例外的によく出来てた）
凄腕ハッカーと組んで警察をディスるポッドキャスト配信をしている若い男！ その妹が何者かによって殺害され彼自身にも殺人集団による脅迫メッセージが届く！ スマホをクラッキングし中に入ってたいろんなデータを削除してしまうほどの技術力を持つこの殺人集団の正体はディープウェブに潜むスナッフ動画配信屋！ ポッドキャスターの主人公は妹の友達（キミ・アレクサンダーというアジア系ハーフの美人）とイイ仲になったりしながら凄腕ハッカーの友人の力を借りてスナッフ動画配信屋に逆襲を試みるがはたして…！
うむ！ これは…普通の安いB級ホラーだ！ スナッフ題材といってもミュージックビデオ的な（？）エフェクトを多用しているので殺人場面のエグみはそれほどでもなく、一部を除いてゴア描写もうまいこと画面外処理されているのでその点も弱い！ 妹を殺された主人公の人間ドラマをやろうとしていた気配は序盤で消え、犯人は誰だ要素とか警察不信とかハッキング対決とかいろんな面白そうな展開の断片はあるのだが、どれも十全に発展してくれずなんかふわっとしたままいつの間にか殺人集団のアジトに乗り込んでいたりする！ そんな映画だ！ 殺人集団も超絶ハッキングテクがあるかと思えば十徳ナイフで主人公を捕らえた檻の鍵を開けられてしまうポンコツっぷりもあり強いのか弱いのかよくわかんない！
同じ題材の映画でいえば『アンフレンデッド：ダークウェブ』なんかに比べて明らかにヌルいのだが、ただそこは80分というランタイムの短さもありパッパッパッと進む展開の早さとインスタントに投入される殺人シーンの多さでカバー！ 見世物小屋的なけばけばしい拷問部屋のセットもイイぞ！ とても安い娯楽という感じだがそのおかげで退屈を感じる時間が少ないのはありがたい！ 主人公のポッドキャスター設定がまったくといっていいほど活かされていないとかそういう難点もあるが、ポッドキャスター設定を活かすよりも殺人シーン入れた方が客喜ぶよな的な発想はB級ホラーとして正しい判断だったのではないだろうか！ じゃあなんでポッドキャスター設定にしたんだ！
ちなみに中盤に出てくる赤い照明の照らすマネキン置き場での殺人シーンはおそらくマリオ・バーヴァのジャッロ原点『モデル連続殺人！』のオマージュ！ そのことから考えればホラーがよくわかってない人が雑なイメージで作っているのではなくホラーをちゃんとわかっている人が短い尺と少ない予算の中で最大限おもしろいホラーを作ろうとした結果がこれ、と好意的に解釈することもできるんじゃないだろうか！ なるほど安い映画なのは間違いない！ しかしこれは安いなりに観客を退屈させないホラー映画である！ そしてホラー映画において観客を退屈させないということは、高級でちゃんとしているよりも遥かに大事なことなのだ！