映画『サウンド・オブ・フリーダム』ってどんな映画なの感想解説文

《推定睡眠時間:70分》

なんでもこの映画、本国アメリカの配給会社エンジェル・スタジオが欲しかったら無料でチケットあげますよキャンペーンなるものをやっているらしく日本配給ハークの作品公式ページ経由で申し込みができるようなのだが、そんなことは全然知らずに普通にお金を払って観てしまった。俺が観た回は200席ぐらいのシアターがほとんど満席に近くしかも男女カップルがやけに多かったので何事かと思ったがこのキャンペーンでは1人2枚までチケットが申し込めるということでもしかするとそれを知って無料で観に来たカップルなども多かったのかもしれない。児童人身売買の映画だし付き合いの長いカップルなら関心のある題材なんじゃないだろうか。

そんなことしてお金儲かるのという気もするがこれはおそらく興行収入チャートに乗せるための宣伝戦略で、日本でこれをよくやっていた映画といえば幸福の科学映画であった。幸福の科学映画の新作が公開されると興行収入ランキングの上位に食い込むことが多くコロナ禍で劇場がほとんど営業していない時期などは興収1位に躍り出るという珍事もあったが、ちょうどその頃に幸福の科学映画を観に行った俺は予約画面ではそこそこ埋まっていたはずなのに実際に劇場に入ると観客が俺一人という場面に遭遇したりした。つまりチケットをひたすら刷って配って信者には一人何枚も使わせることで動員数および興行収入を水増ししているわけである。知人から幸福の科学映画のチケットをなんか知らんけどもらったことがあるという人も結構いるんじゃないだろうか。

話を『サウンド・オブ・フリーダム』に戻せばこの映画を配給したエンジェル・スタジオという会社は名前からしてまんまやないけなのだがクリスチャン映画とかエヴァンジェリスト映画とか呼ばれるキリスト教徒向け映画を配給しているところ、キリスト教徒向け映画というのはキリスト教の価値観に反する映画は観たくないキリスト教徒の人でも楽しめるようにきちんとキリスト教の価値観や教義に沿って制作された宗教版のグルテンフリーみたいな映画群を指し、伝道とか啓発の目的も含む(そのため無神論者の人がキリスト教徒になるとこんなに良いことありますよ的なストーリーがよくある)。過去このブログでも『君といた108日』とか『アイ・キャン・オンリー・イマジン 明日へつなぐ歌』とか何度か日本公開されたクリスチャン映画の感想を書いたっていうかたぶん2017年ぐらい以降に日本公開されたやつは全部観て感想書いてる気がする。

ということで『サウンド・オブ・フリーダム』は全然早くないが早い話がクリスチャン映画版のB級刑事サスペンスであった。子供を神の子と何度も説明するあたり、子供を買う小児性愛者をいかにもベタなキモイ人(キモイ人だが)として描写するあたり、夕陽の暖かい光を要所要所で強調するあたり(この夕陽演出はクリスチャン映画の映像的特徴なのだ)、きょうだいの助け合いが盛り込まれるあたり、エンドロールで主演のたぶんクリスチャンの人がこの映画を支援し児童人身売買を止めてくださいと率直に演説するあたり、クリスチャン映画らしい要素いっぱい。プロットはセガールとかが出てそうなよくあるB級刑事サスペンスだがクリスチャン映画なので卑語がないとかエログロなどキリスト教倫理に背く描写がないとかの特徴があり、その点物足りなく感じられる人もいれば安心して観られていいという人もいるかもしれない。とわかったように書いている俺は70分ぐらい寝てるので実際のところはよくわかりません。星一徹もびっくりの大ちゃぶ台返し!

ちなみに劇中のテロップではアメリカは児童人身売買の世界一の送り先であるみたいなことが書いてあったがこれはおそらくあまり信頼できる情報ではないだろう。世界の人身売買については国連薬物犯罪事務所(UNODC)が統計を取っており→のページなどでその概要を知ることができる(犯罪です!人身取引(第13回国連犯罪防止刑事司法会議))。UNODCの調査報告書はユニセフの→のページにPDFのURLが貼ってあったが当然英語なので俺はスルーしました(ユニセフの主な活動分野|子どもの保護 子どもの人身売買)。

このへんをざっと読む限りアメリカは児童人身売買に寛容な国であるというよりもむしろ人身売買に厳しい人身売買対策のしっかりした国といえそうである。そりゃあまぁ普通に考えたらそうだろう。人身売買の目的もこの映画の中では100%エロ目的みたいな感じだが実際の人身売買は金持ちが性奴隷欲しさに買ってるというよか生活がカツカツな人が売春なども含む労働力として買ってるとかが多いようである。たしかに人身売買は児童だろうが大人だろうがやってはいけない重大犯罪なのだが、この映画の中ではそれがキリスト教の価値観に基づく小児性愛者嫌悪(そのくせカトリック内部で大規模な児童性的虐待が行われていたことが何度も明らかになっているのでおかしなもんであるが、ウチらはプロテスタントじゃからちゃうねん的なことかもしれない)と結びついて実際のデータを歪めているぽいので、そこらへんは分けて考えた方がよいだろう。

まぁ実話を謳うアメリカ映画なんて右翼も左翼もキリスト教徒も無神論者もみんな大幅に事実を誇張して作るのでぜんぶ話半分で観なきゃいけませんというのは意外と知られていない違いのわかる大人の常識である。そのへん興味のある人は前に書いた→の記事などをお読みください(『ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち』読んだので映画と比較する感想(ネタバレ爆発))。本当にひでーことしてるんだから映画版の『ドリーム』。原作の『ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち』は良いノンフィクションなのだが…。

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匿名さん
匿名さん
2024年11月9日 5:12 PM

シネマンドレイク氏のレビューと、この記事を読んでからタダ券で見たんですが、B級刑事サスペンスとしては「つまらない方」という印象でした。主人公(原作者)がヒーローとして活躍するワンマンショーにしては、見た目が地味でキャラも薄い為、マッチョさや男泣きが似合わず、薄味なサブキャラたちの中で唯一キャラが立っている現地協力者のおっさん(売られた子供たちを買い取って助けている)の登場によって、逆に主人公のキャラが食われる始末。これで原作者の顔が立てられているのか?

ベタでクサい演出が続く割におおよそ捻りがない単調なストーリー。陰謀論は無いが大して悪さも感じないショボい悪党たち。アクションシーンもほとんど無い。そのくせ「神の子は売り物じゃない」という聖歌がしつこく挿入される。全体的に面白みが欠片もない。

監督の経験不足やクリスチャン映画を手掛ける会社の方針を加味しても「啓蒙のための真面目な話」って空回りした意気込みで作るくらいなら、殴り合いや銃撃戦などの荒唐無稽なアレンジをした方が面白かったのではないかと感じました。(いやむしろ興収一位を取る事が重要で一般受けは端から考えてないのか?)