オカルトうんちくを語らせろ映画『破墓/パミョ』感想文

《推定睡眠時間:15分》

日本ではNetflix配信となってしまった『サバハ』は宗教・オカルト知識をあちこちに散りばめつつ連続殺人事件の謎を追っていくという映画でこれがめちゃんこ面白かったものだからその監督チャン・ジェヒョンが墓を掘ったら呪われたというホラー映画を撮って韓国で大ヒットと聞いたときにはそれは絶対面白いに決まってるよなと思ったものだし実際観てきて面白かったのだが第二の『哭声/コクソン』であるかのような宣伝とかネット伝聞とはだいぶ異なる方向の面白さだったので「あ、そっちなの」と思ったりもしたのであった。

既に誰かがBlueskyで書いているのを見たが『哭声/コクソン』じゃなくて『帝都物語』とか京極堂シリーズ寄りの面白さだよねこれ。作り手が持てるオカルト知識を嬉々として披瀝する非オタク置いてけぼりのオカルトリビア詰め込みすぎ映画っていうか。ジャンルもたしかに超自然的な存在が出てくるからホラーといえばホラーだけどどんより暗く不穏なムードが横溢する序盤はともかく怪異の正体の片鱗が見えてくる中盤以降はその退治方法も含めてオカルト・ミステリー色が強く、これからどうなるのか? この怪異はなんなのか? という謎の解明がメインになってくるので、あまり怖いという感じはしない。まぁ『サバハ』にあったバディものの要素などちょっと笑えるところは今回ほぼ完全に一切なくひたすら暗いので雰囲気的には超ホラーなのですが(ちなみに映像もずっと暗くて眠気を誘った)

映画版の『帝都物語』は長大な原作を切り貼りして無理矢理2時間ぐらいに収めているのでお世辞にも良く出来た映画とは言えないが、そのへんは『破墓』もまぁ同じようなもので、地理的には中国と日本に挟まれ、歴史的には更にアメリカにも挟まれている韓国の布置を反映してキリスト教・儒教・仏教・風水・シャーマニズム・神道と様々な宗教が交錯し、あたかも韓国の歴史を背景に覇権を争うかのようなストーリーは、2時間程度に収めるにはちょっとゴチャゴチャ混み入りすぎた。『帝都物語』も今だったら2時間の映画じゃなくて配信ドラマのシリーズとして実写化されるんじゃないかと思ったりするが、『破墓』の方も映画より連続ドラマとして作った方が面白かったんじゃないだろうか?

とこのようにですねなんとなくいつもに比べて歯切れの悪い硬いテイストの文章になっているのはいやこれどこまで書いていいんだよ! っていうね。これはもうストーリーの映画ですから。だいぶ濃い宗教/オカルトうんちく満載のミステリー・ストーリーをかなりの早口でクドクドクドクド語りまくる映画とあってこれがああでそれがこうでと内容について書いてしまえばこれから観る人にとって多少なりともネタバレになることはあぁ避けられない。たとえば怪異の正体にしても何段階かあるのだがその第一段階が明かされるのはそうだねだいたい映画が始まってから30分、そこでなるほどそういうことだったのかと思って15分ぐらい経つとえっ実はそんなことだったのかとなり、更にまた15分経つとナニッそんな事情もあったのか! とそんな具合で、その新しい事実が宗教/オカルトうんちくと共に判明するのが面白い映画であるから…書きにくい! とても感想の書きにくい映画なのだ。俺はあえてネタバレ全開感想には逃げないぞ!

まぁでもね、これがどういう方向性のストーリーなのかっていうのはファーストシーンから分かるようにはなっているので、そうだねざっくりその方向性ぐらいは書いてもいいだろう。一言で言えばこれば呪縛の物語であった。何の呪縛かといったら韓国という地の呪縛。その地から離れた飛行機の中で主人公格の巫堂(巫女)がキャビン・アテンダントにその外見から日本人と間違われて日本語で話しかけられ、日本語で「私は韓国人です」と返す場面から映画は始まる。この人が向かっているのはアメリカはロサンゼルスに住んでいるアメリカ国籍の韓国人一家。この一族は経済的にはとても成功しているのだが謎の発狂病に苛まれており、発狂して自死した人もいれば産まれたばかりの赤ん坊もずっと泣いてばかりでどうも尋常ではない。ということで巫堂になんとかしてくれと依頼を出したところ、巫堂は韓国にある一族の祖父の墓が原因ではないかと推測する。墓の作りが良くないんで死者が怒って呪ってるんだろうというわけである。

ここには既に三つの呪縛が見られる。一つは巫堂という伝統の呪縛、もう一つはアメリカに渡ってアメリカ国籍を取得しても離れられない血縁の呪縛、そして最後の一つは大日本帝国による韓国併合という歴史の呪縛。そしてこれらすべてが指し示し集約されるのが韓国という地の呪縛なんである。最近の映画だとアメリカに帰化した韓国人監督による『ミナリ』『パスト ライブス/再会』がこうした呪縛を描いたアメリカ映画として評判になったが、これらの作品が呪縛をアイデンティティとして肯定的に捉えていたのと対して、『破墓』の方は相当ネガティブに捉えているのは面白いところかもしれない。ちょっと『来る』を彷彿とさせる終盤の諸宗教チャンポン呪術バトル(といっても絵面は本格オカルト映画ゆえかなり地味なのでああいう派手なのを期待してはいけない)からすれば、この監督はなにか一つの枠に閉じ込められることを嫌うインターナショナルなタイプの人なんじゃないだろうか。

という感じであれこれ考えながら観るととてもおもしろい『破墓』なのだがまぁ『プリースト 悪魔を葬る者』や『サバハ』などチャン・ジェヒョンの過去の監督作に比べると物語に強い軸もなくわかりやすく派手な場面も少なくエンタメ性は弱いので観る人を結構選ぶ映画ではあると思う。『帝都物語』が霊的国防なら『破墓』は霊的支配だ。この文字列を読んでナヌッ! と感じた人はこの映画を観るのにとても向いているのでレッツ破墓である。

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