死んでらぁ!映画『シン・デレラ』感想文

《推定睡眠時間:30分》

『不思議の国のアリス』を堂々と原作に仰いだ『邪悪な国のアリス』の興奮も覚めやらぬ中またしてもほんとうは怖い昔話シリーズの映画が公開されてしまったわけだが、昨年に続いて今年は『恐解釈 桃太郎』もあったし『プー2』もあったしそして『邪悪な国のアリス』に『シン・デレラ』、つまんないのですっかりタイトルを忘れている何かがもう一本ぐらいあったような気もするがそれはともかくほんとうは怖い昔話映画館のスクリーンを占拠した一年としてホラー映画史上の特異点として記憶されることだろう、『シン・デレラ』に至っては「絶叫上映」なるみんなでわーきゃー叫んで観る上映会もピカデリー系列のシネコンでは実施されるというからこのブームは本物である。

それにしても絶叫上映ってどのへんで絶叫すればいいのだろうか。俺は空気を読む男、もし絶叫上映に参加したらば別にぜんぜん怖くなくてもオバケが出てきたり人の首がシャーってかっ切られたりしたら客席を盛り上げるためにキャーと叫ぶがわりと最後の方までそういう感じのホラー見せ場出てこねぇじゃねぇか。ラストは大惨事である。グリム童話によれば継母にいじめられている20歳前後と思われるヤングウーマンのシンデレラはいろいろあって舞踏会で王子様に見初められてめでたしめでたしとなるそうであるがこちら『シン・デレラ』は舞踏会で覚醒したシンデレラが超能力と怪力を駆使してギャー! 首を引っこ抜く! ギャー! 指の指を全部ハサミで切断! ギャー! パイロキネシス能力で人体炎上! とややテンポが悪いながらも絶叫ポイント盛り沢山なのだが…そこに至るまでが結構長い!

これがプーさんのやつとかだったら怪物がたくさん出てくるので本格的な殺戮が始まるまで場持ちがするがこっちは人間メインだからなぁ…といっても魔法使いの代わりに『ヘルレイザー』『地獄の門』をマッシュアップしたみたいな地獄のゾンビ使者たちが『死霊のはらわた』みたいなエグい魔道書から出てきて薄幸のシンデレラの願い事を叶えてくれる展開なので絵面が地味なわけではないと思われるがそこらへんは全部寝ていたのであまり盛り上がる感じではなかったっぽいらしいことはなんとなくわかる。

もっともこの映画は上映時間82分、そのうち35分ぐらいは人を殺しているシーンなので退屈というほどではない。っていうか前振りの部分を全部寝てた俺にとってはあるところに可哀相なシンデレラがおりましたそしてシンデレラは全員殺すお前ら全員殺す! という漫☆画太郎的超展開となっており結構楽しめた。舞踏会での大虐殺は『ヘルレイザー』に加えて『キャリー』だ。そのまんまのパロディっぷりに笑うがお祭りホラーとして盛り上がってイイ。とくに意味はないけど馬車だって爆破! カス王子に関してはもっと残虐な方法で殺しても良かったと思いますけどネ!

ただ個人的には『ヘルレイザー』をやるのも『キャリー』をやるのも『地獄の門』をやるのも『死霊のはらわた』をやるのももちろんいいがホラー名作オマージュもしくはパロディの比重がかなり多くオリジナルな部分が少なかったので、もうちょっとオリジナルでもよかったのにとか思った。あとゴア描写はわりあい激しめながら構図の問題か照明の問題かはたまた編集の問題か「なんかグロいことが起こってるらしいがよくわかんない」ショットが頻出していたのでもったいない気がした。もっとしっかり見せてくれてもよかったんじゃないかなぁとおもいます。

まぁでもそんなことは些細なもんで、これはみんなで茶々を入れながらわいわい楽しむハロウィン・ホラーというものだろう。コンパクトにまとまりつつちゃんと腑に落ちるストーリー展開にしても芸の細かいゴア描写や怪物造型にしても終盤の大虐殺のカタルシスにしても、ほんとうは怖い童話シリーズの中では破綻が少なくチープさもあまり感じさせず、完成度は高い。実はノルウェー版『シンデレラ』こと『シンデレラ 三つの願い』の方が真面目な昔話映画なのにストーリーや世界観に意外性があって『シンデレラ』ものとしては『シン・デレラ』より面白かったというのは秘密にしておきたい。

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